BMWアルピナの新型4ドア・クーペ「B8グランクーペ」に小川フミオが試乗した。
スタイリッシュでエレガント
“快作”という言葉をクルマにも使えるなら、BMWアルピナ「B8グランクーペ」はまさにそれにふさわしい。美しいスタイルだけじゃない。457kW(621 ps)の最高出力を持ち、めくるめく加速を味わわせてくれる。それでいて、乗り心地は快適。すばらしくよく出来たグラン・ツアラーなのだ。
ドイツのクラフツマンシップで仕上げられるB8グランクーペの日本への割当台数は年間わずか20台程度しかないという。ベースは、BMWの「8シリーズ・グランクーペ」だ。それを磨き上げて作られたモデルである。
ドイツのBMWアルピナは、そもそもは、高性能の気化器を取り付けるなどしてチューニングしたBMW車をレースで走らせ好成績をおさめたことで名をあげた。ドイツ・アルプスのあるバイエルン州に本拠を置いたのが社名の由来だ。
B8グランクーペは今年3月にドイツで発表され、日本には9月に導入された。アルピナの名を高めたのは、いってみれば“最高のBMW”を作ってきたという実績である。アルピナ仕立てのBMWは、スタイリッシュで、エレガントであり、同時にスポーティだ。
もとになったBMWの8シリーズ・グランクーペは、どちらかというと、エレガンスが勝った印象である。そのいっぽうで、BMWアルピナが、空力特性を上げ、エンジン出力を高め、足まわりをびしっとさせたB8グランクーペは、べースの8シリーズ・グランクーペの魅力を何倍も引き上げた印象だ。
感動的なドライブフィール
こんないいクルマ、ちょっとない……と、感動的なドライブフィールを味わえた。BMW M850i xDriveグランクーペ の4.4リッターV型8気筒ガソリンターボエンジンは、390kW(530ps)/5500rpmの最高出力と、750Nm/1800~4600rpmの最大トルクを持つのに対して、BMWアルピナB8グランクーペは、457kW(621ps)/5500~6500rpmと800Nm/2000~5000rpmへパワーアップした。
その差は、ちょっと強めにアクセルペダルを踏み込めば、一瞬でわかる。「サーキットでも思いきって加速するのが怖いというオーナーさんがいらっしゃいます」と、アルピナの日本代理店であるニコル・オートモビルズの広報担当者が言う。その言葉に納得だ。
4394ccV型8気筒ガソリンターボ・エンジンに緻密に手が入り、コンピューター制御マップの書き換え、ターボチャージャーの小径化(レスポンスの向上)、ターボチャージャー用インタークーラーの大型化などがおこなわれた。
はたして、制限速度内での加速でも、一瞬にして周囲の景色が変わるほど。フェラーリやランボルギーニの加速性とはまた違う。映画『スターウォーズ』をすぐ連想した。宇宙船がスウィッチで“ハイパードライブ”という超がつく速度で加速する場面がある。あの感覚に近いのかもしれない(乗ったことはないけれど)。
直進安定性のよさにくわえ、ブレンボ製ブレーキの効きも良いから、高速域での運転に不安感はいっさいない。車両への信頼感がもてる。
速度域に関係なく、操縦が楽しいのも魅力だ。「渋滞にはまっても、このクルマなら飽きないんです」と、さきの広報担当者が嬉しそうに語ってくれたのが、よくわかる。
ステアリング・ホイールを切り込んだときだけでなく、それを戻すときも気持ちよいし、アクセル・ペダルやブレーキ・ペダルのコントロール性のよさが、クルマとの一体感を強める。それがあらゆる速度域での楽しさを生んでいるのだ。
乗り心地も素晴らしい
乗り心地のよさは、特筆すべき点である。このところのBMWアルピナ車の例にもれず、フラット感と、路面の突き上げをていねいに吸収する快適性が、もうひとつの魅力である。後席重視の大型セダンでも、ここまで乗り心地がいいクルマはそうそうない。
サスペンションは、BMW車をベースに、アイバッハ社製スプリング、ハイドロマウント付きのフロントアクスルストラット、剛性の高いフロントサスペンションのベアリングなどの専用部品を採用している。
電子制御ダンパーの伸びと縮みの制御は、超がつきそうなサーキットでの高速域だろうと、街中の荒れた路面だろうと、安定的で、快適。とにかく芸術的なチューニングだ。
BMWには「M8グランクーペ Competition」というスポーツモデルがある。こちらは、4.4リッターV型8気筒ガソリンターボ・エンジンが460kW(625ps)と750Nmを発生する。名前のとおり、コンペティション(競争)にそのまま出走できそうな、ハイチューンで操縦が楽しめるモデルである。B8グランクーペは性能ではこれに対抗しつつ、乗り心地を含めたエレガンスさで上を行く。
ドライブモードセレクターの操作でキャラクターはかなり明確に変わる。スポーツモードにも段階が設けてあり、ワインディングロードからサーキットまで、どこを走るかで最適なモードが選べる。一般道ではコンフォートのスタンダート(さらにソフトなモードもある)がぴったり。
全長5090mm、全幅1930mmのボディは、小さくはない。でも、車体の反応がいいのと、後輪操舵機構によって、取りまわしがしやすいので、乗っていて手を焼く心配はまずなさそう。なおかつ、試乗した車両は、ブラウン系の2トーンで仕上げた内装が、さらに魅力を高めていた。
試乗車の内装はBMWのビスポーク部門「インディビジュアル」が対応したもので、凝ったオーダーに対しては、BMWアルピナのレザーワークショップが顧客の注文を受けて仕上げるという。
私は今回の仕様も好きだし、いっぽう、むかしのBMWアルピナ車のようなファブリック張りで、センターラインだけ入ったシートなどもよさそうと思う。こういう夢想がふくらむのもいいところだ。価格は2557万円。右ハンドルはオプションで45万円のエクストラだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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