この夏、あらゆるブランドが自社の名作・定番シルエットを基に「スニーカーミュール」を続々リリースしている。新たなトレンドに覚えた違和感とその不思議な魅力について、『GQ』のスタイル・ライターが綴る。
スニーカー業界というのは時折、本当にどうかしてるものを生み出す。時にはそれがうまくいくこともあるが、もちろんまったくうまくいかないこともある。数年前の、予め履き古したように加工されたスニーカーや、あのNFTとしてしか手に入れられない一足を覚えているだろうか?
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そして今、私たちはまたしても新たなスニーカートレンドの始まりに立ち会っている。それは何か? 「スニーカーミュール」である。なぜか、あらゆる大手スニーカーブランドがこれに全力投球している。
今、“スヌール”がトレンドだ
スニーカーミュール(あるいは、遺憾にも私が昨年末に作った造語でいえば「スヌール」)登場の最初の兆候が見え始めたのは2024年、ジョーダン ブランドが「エア ジョーダン ミュール ゴルフ」を発表したときだった。「ゴルフ」と銘打っているが、これはプレー用というよりはゴルファーがグリーンまで履いて歩いていくためのものだった。ポロシャツを3種類以上は持っていて、「ランチ前に9ホール回ろうか」みたいな台詞が堂に入っているタイプの人のために存在している、非常に用途の限定されたニッチなアイテムである。
だから、このシューズを気に入った人は多くなかった。Redditのようなネット掲示板を5秒ほど眺めれば、「凶悪」「戦争犯罪」「うわ、無理」といった感想がすぐに見つかる。まあ、そういった反応が出てくるのも自然なことだ。スニーカー史上最もアイコニックなシルエットのひとつである「エア ジョーダン 1」のかかと部分をぶった切るなんて、かなり豪胆な行為である。《モナ・リザ》に眉毛を描き足すようなものだし、『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』のあのエンディングを改変して再放送するようなものでもある。この世には、手を加えずそのままにしておくべきものがあるのだ。だからジョーダン ブランドが次々と新色を出し続けたにもかかわらず、多くはStockXのようなリセールサイトでも定価以下になってしまった。
だが、ここ数週間のうちに何かが起きた。まず、アディダスから「サンバ ミュール」が登場した。正直言って、最初はこれにかなりの違和感を覚えた。続いてニューバランスが「9060 ミュール」を投入。ヴァンズは「スーパーロープロ ミュール」を、コンバースは「ワンスター ミュール」をリリースした。そしてつい最近、アシックスからも「ゲル1130 ミュール」のニュースが舞い込んできた。今やどのブランドも、自社の最もアイコニックなスニーカーのかかと部分をこぞって切り落としている。そして、この流れに対しては複雑な感情が渦巻いている。
デザインコンセプトへの違和感
もちろん、理解できる部分もある。スニーカーというのは、すでにほぼあらゆる場面でデフォルトの靴になっている。オフィスにも、ディナーにも、空港にも履いていく。だったら、かがむことなく“スッ”と履けるスニーカーに人々が興味を持つのも当然だ。誰もができるだけ面倒なことを減らしたがっている夏場は特に。
それに、これらのシューズの肩肘張らなさには妙な満足感がある。お気に入りのシルエットの親しみやすさはそのままに、普通のスニーカーを履くときほどの手間を必要とはしない。そして気温がバカみたいな高さに達し始めると、風通しのいいスニーカーという発想もかなり理に適っていると思えてくる。
しかしその一方で、この流れ全体にどこか居心地の悪さが感じられるのも事実である。“スノーファー”(スニーカー+ローファー)のトレンドと大差ないじゃないか、と言うこともできるかもしれない。あのときはニューバランス「 1906L」がどれほど人気だったか。だが、あれはスヌールとは少し違った。なぜなら、各ブランドが自社のスニーカーをまったく新しいものへと換骨奪胎したのがスノーファーだったからだ。
「1906L」は確かに「1906R」の要素を借りていたが、それでも独自の存在として成立していた。同じことはホカ「スピード ローファー」にもいえる。あれは単に「スピードゴート 5」の一部を削っただけのものではなかった。そこには意図があり、ちゃんとしたデザインプロセスが感じられた。対してスヌールのトレンドは、ブランドが既存モデルの後ろを文字通り切り落として、それで終わりにしているだけのように感じられる。
スニーカーというのはそもそも、最初からミュールに変換可能なようには設計されていない。靴のかかと部分がどれほど重要かは、それが突然なくなったときまで気づかないかもしれないとはいえ。「サンバ ミュール」はもともとのフォルムが薄底でロープロファイルだから、なんとか成立している。でももっとゴツいタイプ──例えば「9060 ミュール」や「ゲル1130 ミュール」みたいなもの──は、どうにも未完成に見えてしまう。
スヌールは人気を獲得するか?
もしかすると、このトレンドが楽しげに感じられる理由もそこにあるのかもしれない。スニーカーカルチャーはここ10年ほど、異様なほど気張った雰囲気に包まれていたきらいがある。リセール価格、希少性、行列、投稿bot、抽選、入手したことを誇示するスクリーンショット、そして朝8時からトウボックスについて議論する大人たち──。
スニーカーミュールは、それらの正反対に感じられる。肩肘を張っていない。ちょっとバカっぽい。不思議と実用的。最初は鼻で笑っていたのに、3週間後には「でもバケーションにはよさそうだな」なんて真剣に検討している自分がいる。
スヌールが一大トレンドとして君臨することなどあるのだろうか? まあ、おそらくないだろう。それらのなかには、完全に失敗ではと思えるようなものも存在する。でも同時に、人々はアプローチシューズやメンズバレエシューズ、「Vibram FiveFingers」のことだって最初は笑っていた。つまり、今後のことなど誰にもわからないのだ。来年の今頃には、まるで最初からそうなる運命だったかのように、私たちは当たり前のようにお気に入りの一足を“スッ”と履いているのかもしれない。
From British GQ
By Adam Cheung
Translated and Adapted by Yuzuru Todayama
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かの世界の盗塁王福本豊特注のスパイク然り、かつて侍が愛用したアシナカという土踏まずまでしかない草鞋然り。