若年層採用を阻む壁
長時間労働や低賃金を背景に、トラック運転手の人手不足が深刻化していることは既報の通りだ。この問題に対し、さまざまな解決策が試みられてきた。そのひとつが2017年3月に導入された「準中型免許」である。
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準中型免許とは、貨物自動車の運転区分のひとつである。車両総重量が
「3.5t以上7.5t未満」
の自動車を運転できる免許だ。2017年3月に導入され、交通事故の減少と若年層の雇用促進を目的としている。取得条件は18歳以上で、中型免許以上の免許保有期間の制限はないため、高校卒業後すぐに取得できることが特徴だ。これにより、比較的若い世代が物流業界に参入しやすくなることを狙っている。
しかし、実際の効果はどうだったのか。導入から8年以上が経過した現在も、人手不足は緩和されていない。若年層の採用難は依然として続いている。なぜ、当初の期待通りの成果が出ていないのか。
新制度7年の取得減少推移」
準中型免許導入までの経緯を簡潔に整理する。
2007(平成19)年までは普通免許で車両総重量8t未満の車両を運転できた。しかし、同年6月に中型免許が新設され、普通免許で運転可能な車両は総重量5t未満に制限された。中型免許の受験資格には、運転免許取得後2年以上の経験が必要とされた。
しかし、地域配送などを担うトラックの多くは5tを超える車両であり、普通免許しか持たない高校卒業直後のドライバーの採用や勤務に制約が生じた。このため、警察庁の有識者会議は制度の見直しを行い、新たに準中型免許を導入する方針を決定した。これが現在の準中型免許である。
では、実際の取得者数はどうか。警察庁の「運転免許統計」によると、2024年末時点の準中型免許(第一種)保有者数は約1100万人で、前年度比0.4%の減少となっている。大型免許や中型免許も同様に前年度比で減少しているが、若年層の取得促進を狙った制度でさえマイナスなのは問題である。
2017年の制度導入以降の保有者数推移は以下の通りだ。
・2017年:1142万0093人
・2018年:1133万0132人
・2019年:1124万9751人
・2020年:1118万6581人
・2021年:1112万5801人
・2022年:1108万3893人
・2023年:1104万6179人
・2024年:1100万3347人
次に、新規交付件数の推移も確認する。
・2017年:6万5853件
・2018年:9万6911件
・2019年:10万850件
・2020年:9万727件
・2021年:8万3554件
・2022年:9万1379件
・2023年:7万4334件
2017年以降、準中型免許保有者の総数は減少している。これは、導入時に免許を取得した高齢者層の減少が主な原因と考えられる。新規取得者数は一定数存在しているが、その数だけでは減少分を補いきれていない。したがって、
「高校卒業後すぐに働ける道をつくる」
という目的は一定程度果たされているものの、物流業界全体の人手不足を解消する決定的な効果には至っていない。
若者離れを招く高コスト
準中型免許が若者の利便性向上や人手不足解消に寄与していない理由のひとつに、取得コストの重さが挙げられる。
自動車教習所で準中型免許を取得する場合、普通免許を持っていなければ費用は35万~45万円程度となる。すでに普通免許を持っている場合は、試験を受けたうえで限定解除を行うが、それでも7万~12万円程度の費用がかかる。さらに、2017年以降に普通免許を取得した者は技能講習が増え、費用がさらに高額になる。
普通免許の取得費用がおおむね30万円前後であることと比べると、準中型免許は費用も講習時間も増えるため、
「もう一段階余計にかかる資格」
と認識されやすい。特に若年層にとっては、就職前に30万円以上の出費を強いられることや、教習にかかる時間的コストが大きな負担になる。また、技能講習の多さから教習所に通う日数も増え、高校卒業から就職までの限られた期間内に取得することが難しいケースも少なくないと考えられる。
現代の若者は、限られた可処分時間のなかで最大限の効果を求める傾向が強い。いわゆるタイパ(タイム・パフォーマンス)、コスパ(コスト・パフォーマンス)を重視する。そのなかで準中型免許は「手間が多い割に得られるメリットが少ない」と評価されがちだ。とりわけトラック業界の給与水準が必ずしも高くない現状では、
「費用をかけてまで取得する価値があるのか」
という疑問が自然と若者の間に生まれてしまう。
結果として、準中型免許は若者がトラック業界を敬遠する要因のひとつになっている。これを補うため、一部の運送会社は取得費用を負担する制度を設けている。しかし、それは事業者側にとっても余分な人材確保コストを強いられていることを意味する。制度が想定した人材流入の促進は、現場では負担の押し付け合いとして現れているのが実情だ。
価格高騰と不整合が招く空白
一方で、トラックの価格は近年急激に上昇している。免許制度との整合性も十分とはいえない。政府は近年、新車登録車両に先進安全装置や排ガス規制適合エンジンの搭載を義務付けている。これにともなう開発費用が車両価格に転嫁されているのだ。こうしたコスト上昇のなかで、準中型免許の対象となる3.5tから7.5t未満の車両は、一般的にラインナップが乏しい。
従来の普通免許では対応できない車両が増えたため準中型免許が導入されたにもかかわらず、対応車両が少ないのはなぜか。その理由のひとつは、
「2t車」
と呼ばれる現場での車両分類の実態にある。近年、ハイブリッドトラックやCNG車(圧縮天然ガスを燃料として走行する自動)などの環境対応車両が増えた結果、車両重量が増加している。最大積載量は同じでも、車両総重量が5tを超える車両が増加した。これらは見た目は従来の小型車だが、法的には準中型免許が必要となる。
国土交通省の資料では、普通免許で運転できない2tトラックの例として、車両重量3220kg、最大積載量2000kg、車両総重量5385kgのハイブリッドトラックを挙げている。つまり、制度上は
「準中型免許がなければ運転できない車両」
が確実に増えているのだ。しかし問題は、そうした車両が準中型免許保持者向けに戦略的に設計・供給されていない点にある。物流現場では依然として4t車(中型)を基準にした運用が主流だ。メーカーも採算性を考慮し、積載量が中途半端な準中型枠に特化した車両を積極的に開発しにくい。
その結果、制度上必要な準中型枠の車両が製造・供給の論理によって市場に十分に流通していない。つまり、制度が対応を目指した車両は存在するものの、それに見合った車種展開や市場形成が不十分だったため、準中型免許の利便性は限定的にとどまっているのだ。
制度と現場が噛み合わぬ人材育成費
制度設計上、準中型免許は普通免許で対応できなくなった車両に乗れるようにする、18歳から段階的にキャリア形成できるようにすることを目的として導入された。形式上は、免許取得の間口が広がったことになる。しかし現実には、
・免許取得にかかる費用と時間の負担
・対応車種の限定
・職場での即戦力志向
が障壁となっている。その結果、制度が想定した若年層の流入は限定的だ。段階的なキャリア形成という理念も、即戦力を求める現場の実情や、若者のタイパ重視・リスク回避といった価値観とはかみ合っていない。制度は設けられたが、理念は十分に生かされていない。
準中型免許の新設により、教習所には新たな収益機会が生まれた。一方で、運輸業界には育成コストの増加という形で跳ね返っている。こうした状況に対して、業界側も対策を講じている。
例えば、トラック協会などが設ける若年ドライバー確保支援助成金制度がある。これは講習費用の一部を補助するものだ。ただし、補助を受けるには企業側がまず立て替え払いを行う必要がある。結果として、育成コストの負担が企業側に残る構図は変わっていない。制度そのものが、現場の人材確保を直接的に後押しするには至っていない。
とりわけ深刻なのは、2023年の新規取得者数が7万人台にまで落ち込んでいる点だ。各種の支援策が講じられているにもかかわらず、若者がトラック業界を志望しない実態が浮き彫りになっている。背景には、賃金水準の低さや労働環境の厳しさがある。
もし将来的に高水準の報酬や安定したキャリアが見込める業界であれば、準中型免許の取得者数は増えていたはずだ。免許制度だけで人材確保を図ろうとする発想自体が、すでに限界に達している。
形骸化する免許制度と支援の遅れ
結局のところ、人手不足の解決策として導入された準中型免許は、その必要性自体が疑問視される存在になっている。制度の有効性そのものを、いま改めて問い直す段階に来ている。
制度を維持するのであれば、免許取得にかかる費用という参入障壁を、公的支援で緩和する必要があるだろう。一方で、制度そのものを廃止し、再整理する選択肢も視野に入れるべきだ。
目的が人手不足の解消にあるのならば、制度の形骸化を放置せず、早急な見直しが求められる。
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みんなのコメント
給料の低さと仕事の辛さがアンバランスだよ。
何で国が分からないの?
ここからして間違い
そんなモンのために導入したんじゃない
減った免許人口を補うために、免許の種類を増やしただけ
つまり元々ただの警察利権
物流の事など考えちゃいない