ハリウッド映画の見せ場のひとつにカーアクションがある。そこに登場するのは北米の代表的なクルマであることもあれば、欧州製の高級車やスーパースポーツモデルであることもある。
そして、『ワイルド・スピード』シリーズのように多くの日本車が活躍する映画もあり、クルマ好きには大変魅力的だ!
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今回は真っ赤なスバルインプレッサWRXが活躍する『ベイビー・ドライバー』をご紹介しよう。
文/渡辺麻紀 写真/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
【画像ギャラリー】ドライバーが、ワイパーが、エンジンが、音楽と銃声に合わせて踊る踊る!! 映画『ベイビー・ドライバー』を観る!!
■いまだかつてないカーアクション・ミュージカル登場!!
カーアクションでありながらミュージカル風でもある『ベイビー・ドライバー』。音楽に急かされるようにパトカー軍団から逃亡する
最初に取り上げた『ブリット』(記事リンク)以来、ハリウッドはたくさんのカーアクション映画を作ってきたが、そのなかでも異彩を放っているのが今回ご紹介する『ベイビー・ドライバー』(17)。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)や『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン』(07)等のオタク系ホラー&刑事ものでマニア人気の高いイギリス人監督エドガー・ライトが手掛けたカーアクション・ミュージカルだ。そう、カーアクションでありつつミュージカルしているという変わり種なのである。
主人公は、スゴ腕ドライバーであると同時に音楽依存症の通称“ベイビー”という青年。子どもの頃の事故によって耳鳴りが止まない障害を抱えているため、iPodで自分のプレイリストを常に聴いている。
そんな彼の仕事は強盗犯の逃がし屋で、最強のドライビングテクニックで警察の追跡を交わし続ける。パトカーはもちろん、銃をぶっ放す男も、頭上のヘリだって!
■音楽に合わせてクルマが踊る!!
画面狭しと踊るように疾走するスバル インプレッサWRX。ラリーでのワンシーンを見ているようだ
冒頭の銀行強盗シーンに流れるミュージックは、ベイビーが聴いているジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの「ベルボトムス」。
この曲が流れているおよそ6分間、カーチェイスが続いているのだが、ベイビーがノリノリでビートを刻み、車のワイパーが音楽のテンポに合わせて作動し、銃声も曲のリズムと見事に重なり、車の軋みやエンジン音も音楽とシンクロしている。
大げさに言っちゃえば車と音楽が一緒にダンスしている感覚。だから「変わり種のミュージカル」と呼びたくなるのだ。
それはこのシーンだけではない。アクションやチェイスのたび、主人公が歩くときでさえも、さまざまなヒット曲と絶妙にコラボレーションしている。
使用されている曲もクィーンの『ブライトン・ロック』や、ダムドの『ニート・ニート・ニート』、古いところではチャンプスの『テキーラ』やサイモンとガーファンクルの『ベイビー・ドライバー』まで全30曲。
これらの曲は監督のライトが、物語に合わせて曲を見つけ組み合わせて行ったもの。彼の言葉を借りるなら「音楽に導かれながら映画を創るというのは、クリエイティブな意味で非常に興味深かった」となる。
■要所に使われる日本車にも注目!!
日常に溶け込める高性能車ということで選ばれたスバル インプレッサWRX。赤というのは逃走車両として不向きと思われるが、それを活かしたシーンがあるのが面白い
さて、もうひとつの重要な要素である車だが、言うまでもなくこちらも大充実している。
冒頭のカーチェイスシーンに使われているのは真っ赤なインプレッサWRX。
監督のライト曰く「僕たちは日常に溶け込める車が必要だった。最初はトヨタのカローラの予定だったんだけど、スタントチームからスバルインプレッサWRXを勧められて変更したんだ。
普通に公道を走っていても違和感のないセダンタイプの4輪駆動車なんだが、ラリー車のような動きが出来るのでカーチェイスに最適だって言われたんだ。マニアの間では秘かにラリーカーだって言われるクルマさ。おかげでスバルファンからは大好評なんだよ」。
確かに、このWRXの使い方はめちゃくちゃかっこよくて、ファンが大喜びなのも納得。ベイビー役のアンセル・エルゴートも大いに気に入って購入したとかしないとか。
真っ赤というのは逃走時には目立ちすぎなのではと思うかもしれないが、ちゃんとその色が活かされたシーンも用意されている。一方、カローラは、強盗団一同がWRXを乗り捨てたあとの車として使われている。
主人公の『ベイビー』は事故によって耳鳴りが止まない障害を抱え、常にiPodが手放せないという設定。劇中に流れる音楽は彼のプレイリストとも解釈できる
そうやって乗り換えたり、任務に合わせて変えてみたり、一般人の車を奪い取ったりと、全編まさに車をとっかえひっかえ状態。撮影中は一台につき予備が何台も必要になるので、本作では150台以上を使用したという。
二度目の強盗シーンでは車同士がぶつかり合い、壁を斜め走りするために耐久性の高いシボレーアバランチ、最後の仕事では海外仕様の三菱ギャランが使われ、シボレーブレイザーとダッチチャージャーが激しいカーアクションを展開する。
強盗団のボスが乗るのは、リッチな匂いいっぱいのベンツS550、ベイビーが女性から奪う車は、この黒人ばあちゃんの雰囲気にぴったりのパープル色の86年型シボレーカプリス。
初めてのベイビーのデートではリンカーンコンチネンタルが用意され、恋人の幻想シーンではシボレーインパラがスタイリッシュに登場と、キャラクターのイメージやシチュエーションに合わせて新旧の車がズラリ! クルマファンはこの車たちの共演を見ているだけでも楽しいはずだ。
ベイビーはダイナーで働くデボラという女の子と出会う。それぞれのシーンに合わせた選曲とクルマのチョイスも見逃せない
また、ディープな映画おたくでもあるライトは本作が生まれたひとつのきっかけを『ザ・ドライバー』(78)というウォルター・ヒル監督のハードボイルド作品だと言っている。
こちらも犯罪者の逃がし屋こと“ドライバー”が主人公で、カーアクションというより彼の超絶ドライビングテクニックを愛でる映画になっている。
5~6年ほど前からヒルと連絡を取り合っていたライトは「これは、あなたの作品へのトリビュートなんです」と愛を告白したという。それが嬉しかったのか、そのヒルが本作にもカメオ出演。と言っても映像ではなく声だけで、ラスト近くの重要なセリフを口にしている。
ちなみに本作、これまでカーアクションを撮った経験のあるベテラン監督たちから大好評で、『マッドマックス』シリーズ(79~)のジョージ・ミラーや、『フレンチ・コネクション』(71)のウィリアム・フリードキンらか賞賛の声が届いた。
ほかにもサム・メンデス(『007 スカイフォール』(12))やクリストファー・ノーラン(『TENET/テネット』(20))、ロバート・ロドリゲス(『アリータ:バトル・エンジェル』(19))やギレルモ・デル・トロ(『シェイプ・オブ・ウォーター』(17))たちも大きな拍手を贈っている。
誰もが一度はやりたいと思ったものの諦めてしまったカーアクションと音楽のコラボレーションをやってみせたライトに、みんなが感動してしまったからに違いない。
世界中で大ヒットした本作、続編の製作も決まっているので、そちらも楽しみにしたい。
●解説
幼いころに両親を亡くし里親と暮らすベイビーの特技はドライビング。借りのある犯罪界のボスにその腕を買われて手助けをするようになり、今日も犯罪者たちを逃がしきった。
そんなときダイナーで働くデボラというキュートな娘と出会ったベイビーはときめきを隠せない……。ベイビーを演じたアンセル・エルゴートは本作のあと、あの往年の名作ミュージカルをスティーブン・スピルバーグがリメイクする『ウェストサイド物語』の主人公に大抜擢。
犯罪者のボスには、この後#Mee Too運動でハリウッドを追放されてしまったケヴィン・スペイシーと、何かとキャスティングも話題だったりする。
* * *
『ベイビー・ドライバー』
『ベイビー・ドライバー』
デジタル配信中
Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,886円(税別)/4K ULTRA HD & ブルーレイセット4,743円(税別)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c) 2017 TriStar Pictures, Inc. and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.
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