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マセラティとフェラーリの関係は如何にして生まれたのか(後編)──イタリアを巡る物語 vol.14

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マセラティとフェラーリの関係は如何にして生まれたのか(後編)──イタリアを巡る物語 vol.14

話題のMC20が久方ぶりに内製エンジンを搭載するなど、フェラーリとの関係性が大きく変化しているマセラティ。前編に続き、フェラーリ・マネージメントの“顔”として登場した3200GT、そして後に登場したスパイダー&クーペについて語っていこう。

ブーメラン型テールライト誕生の真実

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マセラティ3200GTがとてもユニークなモデルであったことは間違いない。コンパクトなボディでありながらも、大人4人が快適に過ごすことのできる充分な広さのキャビンを持ち、実用性も充分であった。また、ドライブ・バイ・ワイヤー(電子制御スロットル)の採用はフェラーリ・マセラティ・グループでもはじめての取り組みであったし、ブーメラン型テールランプの採用が3200GTのユニークさの仕上げとなった。そう、LED製テールライトは市販車として世界ではじめてのアイテムであったのだ。

前記事に関して、筆者の友人達からSNS上で幾つかのコメントをもらった。その一つは当時、フィアットのデザイン開発担当という立場で3200GTのインテリアを手がけたエンリコ・フミアからのモノであった。彼は左右対称をモチーフとして、中央のV字型の切れ込み(歴代マセラティのフロントグリルのような)とオーバル時計のコンビネーションによるダッシュボードをデザインしている。

彼の3200GTに関するコメントの投稿をきっかけに話はブーメラン型テールライトへと流れていった。当時の開発に関与した関係者たちがこの話題に参入し、「これは、こうだった」、「いやいや、それは違う」などという議論が始まるから、SNSは面白い。

イタルデザインの初期プロポーサルにおいて3200GTのテールライトはごくシンプルなもので、楕円形をベースとしたものであった。しかし、開発の最終段階に行われた風洞実験の結果から、リアエンドの形状変更を含む大幅な設計変更の注文がイタルデザイン側へと入ることになった。急遽、ホイールベースを大幅に延長することとなり、かつ、ダウンフォースの確保のため、リアエンドを直立させる、いわゆるコーダトロンカのスタイルへの変更となったのだ。全体が張りのある曲面で構成されている3200GTのデザインチームにとってこの要件変更は少々悩ましいものであったと想像される。

そこで、いっそのこと、このリアの断面に合わせた、まさにブーメランのような形状のテールライトを描いてしまおう、と、当時イタルデザイン在籍の若手だったTが提案した。しかし、通常の白熱バルブを使ってこれだけ広い面積に均等な光量を維持することは、難しい。そこで採用されたのがLEDライトであった。傘下のマセラティやフェラーリのモデル開発において大きな権限を持っていたフィアットオートのトップであったカンタレッラもLEDなど新しいテクノロジーの導入に積極的であったことから、このブーメラン型テールライトは鳴り物入りで誕生した。歴史を紐解いていくと、いろいろな事実がより明確になっていくから面白い。

“MASERATI IS BACK”

さて、話を前回の続きに戻そう。世界中のカーエンスージアストが集結する夏のモントレーは、2000年には“MASERATI IS BACK”のキーワードのもと、マセラティで占拠された。ペブルビーチ・コンコース、ラグナセカ、コンコルソ・イアリアーノといった主要イベントには、こんなにたくさんのマセラティが存在しているのかと驚くほどの台数が集結した。そう、北米こそが3500GT以降、最も多くのマセラティが送り込まれた地であり、マセラティに対する潜在的な評価はとても高いところだったのである。マセラティの存在感を再び高めるために北米マーケットを制すという目標は、至極、真っ当なプランであった。

しかし、LEDのテールライトや排ガス対応などは、当時の北米の安全基準・環境基準に適合できなかった。トップであったモンテゼーモロは、3200GTの全面改良をさっそく命じ、2001年にはニューモデルの“マセラティ スパイダー”がデビューを飾った。北米マーケットに向けて、華のあるオープンモデルをその第1走者として用意し、続けてクーペバージョンが発表されたのだ。

9.11その日に……

このスパイダーのデビューは忘れることができない瞬間であった。何せその日こそまさに “9.11“当日であったのだから……。

フランクフルト・モーターショーにおけるローンチを待ち構えていた会場の関係者やジャーナリスト達は、飛び込んで来たニュースに言葉を失った。NATOの重要な基地であったフランクフルトも攻撃の対象となるという噂まで飛び交ったのだから、まさに命がけのローンチだ。

しかし、スタンドには何事もなかったかのようにモンテゼーモロが登場した。ゲストのシューマッハーを従えて……。新しいスパイダー、そしてモンテゼーモロが語ったマセラティの未来は、完全にフェラーリの手に握られていることを皆は認識したのであった。

マセラティ スパイダー&クーペ

スパイダーは3200GTのシャシーとボディをベースとして開発されており、ホイールベースは22cm短くなっている。3200GTのアピアランスをしっかりと受け継いでいるものの、両モデルが共有するボディパネルは一切なく、新たに設計されたモデルといっても過言でない。30秒で開閉が可能な電動制御のソフトトップが採用され、件のブーメラン型のテールライトは北米のホモロゲーションの為に白熱バルブによるコンベンショナルなものに変更された。この変更は再び賛否を呼ぶことになったが、読者はどう感じるであろうか? マセラティのユニークなモチーフとして確立されたアイデンティティとなったのだから、何らかの形でこれ以降も活用しないのはもったいないと筆者は考える。結局、20余年の後に再び(といっても、テールライト内における発光パターンとしてだが)、すなわち、2021年モデルイヤーのマセラティ各モデルに、ブーメラン形状のモチーフが蘇ることとなった。

スパイダーから少し遅れてデビューを飾ったクーペのアピアランスは一見すると3200GTそのもののように見えるが、こちらも多くのボディパネルが形状変更を受けている。また、レイアウト変更により特にリアシート廻りのスペースにゆとりが生まれ、フル4シーターとして実用性を増した。

ちなみに2001年のジュネーブ・モーターショーにおいてマセラティ320Sと称すコンセプトカーが発表された。このモデルは3200GTをベースとしてホイールベースをスパイダーと同じく22cm短縮したもので、来るスパイダーの発表に向けてのパイロットモデルという意味合いを持っていた。尤も、現場の人々に言わせると開発スケジュールの遅れから、ジュネーブショーに出すものが無くなり、急遽このコンセプトモデルを仕上げたという。とにかく、当時のマセラティでは突貫工事の連続であったようだ。

フェラーリ製F136エンジンの搭載

エンジニアリング面で言えば、マセラティ製のツインターボエンジンに代わってフェラーリ製のV8 N/AエンジンF136が搭載された。これはしばらく後にフェラーリF430に採用されるものと基本的に同形式だ。従来のツインターボエンジンと比較して、排気量は増大したものの、エンジン自体の重量は20kg軽くなった。最高出力390ps/7,000rpm、最大トルク46kgm/4,500rpmとほぼ3200GTと同等のパフォーマンスを発揮した。

ギアボックスはデフと一緒に後部に置かれるトランスアクスルレイアウトが採用され、6速M/Tとカンビオコルサと名付けられたロボタイズド・マニュアルミッションが選択できた。サスペンションにはスカイフックと称す自動的にダンピング・レートをコントロールするシステムがオプションで導入され、元来、軽合金パーツを多用して軽快なハンドリングを誇った3200GTの走りは、スパイダー&クーペでさらに磨きがかけられた。

マセラティ スパイダー&クーペは北米マーケットからは好意的に受け止められ、この後、グランスポーツへ進化していくことになる。(このあたりの詳細に関しては拙著最新刊「MASERATI COMPLETE GUIDEII」を参照頂きたい。)

しかし、その販売状況は結果としてマセラティの期待したレベルには達しなかった。というのも、メインターゲットの北米市場がマセラティに求めていたものは、コンパクトにまとまったモデルというよりも、ビトゥルボ以前のビッグサイズ・グラントゥーリズモであったのだ。

文・越湖信一 編集・iconic

Photo & Text   Shinichi Ekko   EKKO PROJECT

Special Thanks: Maserati S.p.A. Ferrari S.p.A.

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