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人を笑顔にするミニバン──新型フォルクスワーゲン ID. Buzz Pro Long Wheelbase試乗記

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人を笑顔にするミニバン──新型フォルクスワーゲン ID. Buzz Pro Long Wheelbase試乗記

日本に上陸した新型フォルクスワーゲン「ID. Buzz」のうち、ロングホイールベースバージョンの「Pro Long Wheelbase」に乗った! 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。

新型フォルクスワーゲン ID. Buzz Pro Long Wheelbaseの特徴

愛嬌たっぷり──新型フォルクスワーゲン ID. Buzz Pro Long Wheelbase試乗記

1.自然なドライビング2.記憶を繋ぎ、心を豊かにするクルマ3.クルマを走らせる根源的な1.自然なドライビング

ID. Buzzの骨格には、フォルクスワーゲンのEV専用プラットフォームである「MEB」を採用。フロア下に敷き詰められたリチウムイオンバッテリーの総電力量は91kWh。WLTCモードでの一充電走行距離は554kmを誇る。

リヤアクスルに搭載された交流同期電動機は、最高出力210kW(286ps)、最大トルク560Nmという強大なパワーを発生し、2730kgの巨体を後輪駆動で押し出す。

走り出してまず感じるのは、自然さだ。電気自動車特有の、首がむち打ちになるような唐突な加速感や、SF映画のような人工的なモーター音(eサウンド機能は備わっているものの)に頼るのではなく、あくまで内燃機関の延長線上にある、上質で滑らかなクルマとして躾けられている。

回生ブレーキのタッチもごく自然で、違和感なく減速をコントロールできる。過剰に主張しない味付けこそが、長年のクルマ作りを知り尽くしたフォルクスワーゲンの矜持だろう。

高速道路へとステージを移すと、ID. Buzzはより光る。重たいバッテリーをフロアの低い位置に配置したことによる低重心化、そして空気抵抗係数(Cd値)0.285と優れた空力性能を持つ。100km/hでのクルージングは静粛で安定している。

風切り音は抑え込まれており、オーディオのボリュームを少し上げるだけで、完全なプライベート空間になる。

サスペンションのセッティングは、ドイツ車らしいやや硬めのテイストだ。路面の継ぎ目などではコツンというショックを伝える場面もあったが、不快な揺れは一発で収束する。

特筆すべきはコーナリング時の姿勢変化の少なさ。背の高いミニバンでありながら、ロールが見事に抑え込まれており、オン・ザ・レール感覚でコーナーをクリアしていく様は、スポーツカーを愛好するドライバーをも唸らせる確かな接地感に満ちている。

2.記憶を繋ぎ、心を豊かにするクルマ

ID. Buzzをドライブする体験は、単なるA地点からB地点への移動手段を超えた、ある種の情緒的な旅である。そのことを強く実感した瞬間があった。

試乗中、Harman Kardonのサウンドシステムから、今井美樹の楽曲『青空とオスカー・ピーターソン』がかかった時だ。

この楽曲は、2025年の秋にNHK「みんなのうた」で放送され、アルバム『smile』にも収録されている。意外なことに、ワーゲンバス(タイプ2)にまつわる美しいエピソードが秘められているのだ。

実は、今井美樹の実家は、タイプ2のキャンパーバージョンを所有していた。彼女は幼い頃、両親とともにワーゲンバスに乗ってドライブ旅に出かけ、思い出を刻んできた。そのエピソードは、『GQ JAPAN』の連載「愛車の履歴書」のインタビューで語られている。

上記の記事を読んだ作詞家の岩里祐穂が、彼女のワーゲンバスでの思い出と家族の風景に深く感銘を受け、インスピレーションを得て書き上げたのが、『青空とオスカー・ピーターソン』だ。“自由”や“ノスタルジー”、そして“家族”をテーマにしたこの曲は、かつてタイプ2が人々に提供していた価値そのものだ。

タイプ2は、フロントウィンドウを上へと開き、直接風を取り込みながら走ることができた。筆者はID. Buzzのステアリングを握りながら、両側のドアウインドウを全開にし、さらに巨大なパノラマガラスルーフを透かした。すると、最新のEVであるID. Buzzの静謐な車内に、“野生の風”が吹き込んでくる。

そしてスピーカーからは、かつてのタイプ2の車内で響いていたであろう家族の笑い声やジャズの音色を連想させる、澄み切った歌声が流れる。その瞬間、この最新鋭のデジタル制御の塊であるEVが、数十年前のタイプ2と完全にリンクしたのだ。

胸の奥に小さな高揚が生まれる……。ID. Buzzは、あくまで機械だが、まるで心を持っているかのように、乗る者の感性を刺激し、自由な冒険へと駆り立てる。

それは、タイプ2から受け継がれてきた思想の一端ともいえるだろう。ID. Buzzは、単なる電気自動車としての利便性にとどまらず、ハートフルなミニバンという存在の楽しさをあらためて提示している。

3.クルマを走らせる根源的な喜び

ID. Buzz Pro Long Wheelbaseは、最先端のEVテクノロジーと実用性を極めたパッケージングを持ちながら、中心には間違いなく“人を笑顔にする”という温かさが息づく。

日本の狭い道路事情や発展途上の充電インフラなど、所有におけるハードルが完全に無いとは言えない。

しかし、それらのネガティブな要素を補って余りあるほどのロマンと、クルマを走らせる根源的な喜びがID. Buzzには詰まっている。

休日の朝、家族や大切な人を乗せ、見知らぬ海や山を目指して走り出す。車内にはお気に入りの音楽が流れ、パノラマルーフからは青空が覗く。数十年後、このID. Buzzの車内で過ごした時間が、また誰かの胸の中で『青空とオスカー・ピーターソン』のような記憶となって歌い継がれていくのかもしれない。

そう思わせてくれるだけの圧倒的な物語性と包容力が、現代版ワーゲンバスには確かに存在していると思った。

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文:GQ JAPAN 稲垣邦康(GQ)
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