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濱口 弘のクルマ哲学 Vol.49 雪上のスーパーカー

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濱口 弘のクルマ哲学 Vol.49 雪上のスーパーカー

文・濱口 弘/写真・シャシン株式会社

1980年初頭、父の運転するブルーのポルシェ911で、冬の白馬村へ行く計画の朝だった。まるで忍者が忍刀を背負うように、私と父のスキー板は、リアウィンドウとエンジンフードに跨いで載せられていた。この父の、みんなが向いていない方向を見るセンスと実行力は、この時に私が持っていたスポーツカーやスーパーカーの、限定的なイメージをひっくり返した。当時幼かった私だったが、スーパーカーの新しい方向性を備えた製品が生まれてくることを予感し、新しい星が生まれたかのような、強い思い出となっている。あの時から40年、私は同じ星を感じるランボルギーニ・ウラカン・ステラートを納車した。

編集前記 Vol.28 戦後80周年企画について

ウラカン・ステラート。スーパーカーが立ち入ってはいけない場所が主戦場であることを、己のサブネームをイタリア語の「未舗装の道」と名乗ることで示している。4輪駆動で、リベット打ちのオーバーフェンダー、レーシングカーさながらのセンターマフラー。通常モデルより更にガンダム的でアグレッシブなデザインとボディパーツに、ウラカンより44ミリも高い車高。タイヤはブリヂストンのデュエラー、オールテレインタイヤだ。構造が固くブロックも大きめで、いかにもダート走行が得意そうなトレッドパターン。この土臭い顔のタイヤを装着したウラカン、アピール性が強く私の好みだ。しかし、M+S(マッド・アンド・スノー)とはいえ、雪道での性能が認められたスノーフレークマークが付くタイヤではないので、積雪時の高速道路走行はできない。このクルマでスキー場へ乗っていくタイミングを測って、毎週金曜日の午後は何度も何度も週末の天気予報を確認していた。しかし、積雪量が多い今年度は、桜が膨らみだした3月中旬まで待機となってしまったのだ。

やっと来たタイミングに、私は冬の真っ暗な新潟県関田峠へステアリングを向けた。暗闇にエグゾーストから出る青いファイヤーフレームがバックミラーに映り、それはV10エンジンノートとともに私を過集中させた。身体中の血管が締め付けられ、緊張と興奮の真っ赤な谷底にドーパミンが流れ落ち、脳内ではヴィヴァルディの「四季 冬」が大音量で再生される。ノーズはステアリングを切っただけ面白いように入り、コンマ1秒早くアクセルを踏みたくなる姿勢を維持している。雪で覆われた路面へ、意図的に乱暴なアクセルを入れると、リアは知っていたかのよう端正に外へ流れる。ステラートは、市街地から高速道路、雪の峠道と変わる環境下で、ドライバーの心に燃料を投下し続けるのだった。

街乗りのストラーダモードからスポーツモード、そしてトラックモードと、順にサスペンションの減衰が固くなっていくのが、スポーツカーの定義である。このステラートにはスポーツモードの先にラリーモードがあり、これを選択すると減衰は緩くなり、トルク配分はリア寄りになるので、路面の悪い道でのドリフト走行がやりやすい設定だ。雪道でラリーモードを選択し、好戦的にアクセルを開ければ、瞬時にクルマはドリフト体勢へ入る。自然吸気エンジンとの好相性もあり、自分の右足とエンジンの回転数はシンクロし、雨の中をゴーカートで遊んでいるような、操る喜びが追いかけてくる。反面、バルブが開かないストラーダ・モードの、低回転域でのエンジンマナーは非常に上品だ。控えめな排気音に、鈍めに落としたスロットルレスポンス、軽く設定されたステアリングと、まるでレクサスの高級セダンを運転しているようだ。ウラカンGT3で8年間レースをしてきた私だが、知り尽くしたウラカンはそのままに、オフロードを走るチャーミングなステラートに、笑うしかなかった。

ステラートをすっかり気に入った私だが、3点ほど気になる部分がある。まずは、スキーギアを積んだ時の風切り音だ。工場出荷時にルーフラックが付いているクルマなので、私はランボルギーニ社の純正スキーラックを付けて、高速道路に乗りこんだ。風切り音についても、ある程度は覚悟していた。が、想像以上に音が大きく、ルーフに積んでいるスキーの板がどこかに飛んでいってしまうのではないか、と不安に駆られ続けたことが1点目。2点目、カーボンシートにアルカンターラを巻いたスポーツシートは、ぜい肉がなく美しいが、長時間だと背中や腰が痛み始めること。3点目は、荷物が全く載らないこと。4輪駆動のシステム上、フロントのラゲッジスペースはスキーブーツ2セット入れるだけでいっぱいだ。旅行バッグに入れていた、ウェアやヘルメットを駐車場で取り出し、シートとエンジンルームの隙間に押し込むが、予定していた半分以上の荷物を諦めることになった。この全ては、実用を優先としないイタリア人たちの笑顔を思い出し、甘受するしか無いだろう。

スキー場の駐車場へ停めたステラートに、私がスキー板をルーフラックに積む間、入れ替わり立ち替わり人が来て、クルマを覗き込んでくる。そして目が合うと、うわずった声で皆、同じことを聞いてきた。「ウラカンにスキー板積んで、雪山を走って来たんですか?」その目は、スキー板を載せた父の911に衝撃を受けた幼い私と、同じ星を見た目をしていた。

Hiroshi Hamaguchi

1976年生まれ。起業家として活動する傍ら32才でレースの世界へ。スーパーGTでの優勝を経て、欧州最高峰GTシリーズであるヨーロピアン・ル・マン・シリーズ2024年度シリーズチャンピオンを獲得。ル・マン24時間出場。フィアットからマクラーレンまで所有車両は幅広い。投資とM&Aコンサルティング業務を行う濱口アセットマネジメント株式会社の代表取締役でもある。

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