■デンマーク発の新興ハイパーカーブランド「ゼンヴォ」
今やスーパーカー、ハイパーカーのビジネスは世界的なものとなりつつある。その中心となるのは、やはりイタリアとドイツ、そして英国なのだが、今回紹介するのは、デンマークの首都であるコペンハーゲンも位置する、シェラン島(ジーランド島)の南部に2004年に設立されたゼンヴォ・オートモーティブ(Zenvo Automotive)だ。
【画像】トヨタ「86」にも似てる? ゼンヴォのディテールをチェック(10枚)
●1年にたった5台しか作らない理由とは
2004年にトロエルス・フォラートセンによって創立されたゼンヴォ。ちなみにゼンヴォとは、彼のラストネーム(Vollertsen)の後ろ3つのレター「sen」と先頭2つのレター「Vo」を組み合わせたもの。彼もまた自らのスーパーカーに自身の名前を掲げることを夢見たひとりだったのだ。
フォラートセンが、デンマークでハイパーカーの開発と生産をおこなうことを決断したひとつの理由には、極北のハイパーカーメーカーと呼ばれる、スウェーデンのケーニグゼグの成功があったに違いない。
ケーニグセグはスウェーデン南部のエンゲルホルムで設立されたが、エンゲルホルムはスーパーカーの聖地から遠く離れている。つまり、さまざまなサプライヤーからも離れているという地理的な不利を抱えている。
それだけではない。1年のかなりの時間を厳しい環境に耐えなければならない気象環境の不利、そして何より誰その名を知らないところからの新興勢力としてのスタートなどがありながら、ケーニグセグはハイパーカーメーカーとして一定の成功を収めている。デンマークのシェラン島は、エンゲルホルムと比較すれば、まだ条件には恵まれている。
2004年からプロトタイプの製作にとりかかったゼンヴォが、最初のモデルを完成させたのは2008年12月のことだった。このプロトタイプを経て、プロダクションモデルの「TS1」が15台の限定車として2009年に制作された。
わずか15台のTS1の新車価格は約165万ドル(当時のレートで約1億6500万円弱)。ゼンヴォTS1は最初から、ハイパーカーのファンを魅了する大きな魅力を持っていたといってもよいのだろう。2016年からはさらに年間5台の限定生産が決定するとともに、よりGTとしての性格を強めた「GT1 GT」も登場した。
そのゼンヴォが、現在メインモデルとしているのが、「TSR」と「TSR-S」の両モデルだ。前者は2016年、後者は2018年のジュネーブ・ショーでワールドプレミアされているが、その斬新なエクステリアデザインのみならず、これらのモデルの造り込みはほかのハイパーカーと比較しても、それほど劣ったものではない。
ちなみに両車の違いは、TSRがトラック専用車であり、TSR-Sがストリート走行も可能なレギュレーションを満たしたモデルとして製作されていることである。
カーボンファイバーなどを使用した徹底した軽量化により、TSRは、車重はTS1と比較して250kgもダイエットし、1580kgの数字を達成。TSR-Sではその数字はさらに1495kgにまで低減されている。
リアミッドに搭載されるエンジンは、このTSR-Sで1194psの最高出力を発揮する、5.8リッターV型8気筒ツインスーパーチャージャー。このパワーで0-100km/h加速を2.8秒でこなし、0-200km/h加速も6.8秒で駆け抜ける。最高速は325km/hにリミッター制御されている。
斬新であるとともに、エアロダイナミクスの優秀さを感じさせるTSR-Sのボディだが、最大の特徴は、コーナリング時などにステアリングに連動して傾きを変化させるアクティブ・リアウイングだ。その効果はオーナーのみが知るところだが、ドイツ最大クラスの自動車ディーラー、ミュンヘンのモール・グループと先日代理店契約を結んだにもかかわらず、その生産台数は年間5台に制限している。
この生産台数の制限は、どこでも見られるようなハイパーカーをオーナーは望まないということなのかもしれない。
それはさておき、このモール・グループの協力で、ミュンヘンに開催地を移したIAAに出展したゼンヴォ。彼らの歴史は新しい時代を迎えたようとしているようだ。
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