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「もうリストラしない」 加藤CEOが描く三菱自動車復活への将来像とは

掲載 更新 10
「もうリストラしない」 加藤CEOが描く三菱自動車復活への将来像とは

■加藤CEOが考える「エクスパンダー」人気の理由とは

 2020年11月4日に、2098億円の赤字という9月中間連結決算を発表した三菱自動車。2021年3月期の連結業績予想は、純損益が3600億円を見込むなど、厳しい状況が続いています。

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 一方、ASEAN市場では「エクスパンダー」が好調で販売拡大を推し進めるなど、明るいニュースも聞こえはじめてきました。

 そうした状況のなかで、今回筆者(国沢光宏)は三菱自動車の加藤隆雄代表執行役CEOにインタビュー。三菱自動車の将来について、色々聞きました。

国沢:本日はよろしくお願いします! 儀礼的には時候の御挨拶から始めたいところですが、最初から興味本意の質問をさせて頂きます。どういった経緯で、いつごろ三菱自動車の社長に決まったのでしょうか。

加藤隆雄代表執行役CEO(以下、敬称略):それは私も聞いてみたいくらいです(笑)。社長になって欲しいという連絡を頂いたのは発表の1週間前なんです。

 インドネシアでクルマに乗ってたら益子社長から電話が掛かってきて「次の社長は加藤君だ。頼む」。まったく考えていなかったので無理だと答えたんですが、それでも「頼む」の一点張りなんです。

 断ったらインドネシアから帰れそうになかったので引き受けることにしました。数時間の間に決まったんです。

国沢:いままでインタビューしたなかではトップ3に入る唐突度ですね(笑)。心の準備はまったく出来そうにありません。それにしてもなぜ御指名が加藤さんだったんでしょうか。

加藤:私もよく解らないんです(笑)。それ以前に社長になるような話だって出ていませんでした。ただ私の経歴は自動車会社のなかでもっとも大きな投資を必要とする生産関係だということが大きかったように思います。

国沢:改めて加藤さんの三菱自動車における経歴を教えて頂けますでしょうか。

加藤:新卒で入社し、岡崎の工場からスタートしました。当時の担当は板金部品です。1992年よりイリノイに作ったアメリカ工場の立ち上げで3年間駐在しています。イリノイ工場では「エクリプス」のほか、クライスラー向けの「セブリング」を作っていましたのでクライスラー本社ともお付き合いさせてもらいました。

 その後もロシア工場立ち上げやインドネシア工場立ち上げに携わりました。プジョーとのクルマ作りもしています。ほとんど海外ですね。

国沢:御経歴を聞いて納得しました。確かに工場設備はもっともお金が掛かります。しかもロシアやインドネシアなど海外となればさまざまな交渉の引き出しも必要。そもそも工場を立ち上げるということ自体、私からすれば天文学的な投資です。益子さんから見て安心出来るということなのかもしれません。

 社長になる直前はインドネシア担当ということでしが、ASEANで「エクスパンダー」が大当たりですね! なぜ成功したと考えてますでしょうか。

加藤:このカテゴリーはトヨタの「アバンザ」をはじめライバルが多いですけれど、エクスパンダーはお客さまの反応を見ているとデザインなどが好評だと思います。

 加えて車内の広さでしょうか。インドネシアで新車を買う方はお金持ちで大家族です。お手伝いさんまで乗る。なにより三菱自動車のブランドイメージが強味です。

国沢:アジアではずっと同じ調子で三菱ブランドを発信し続けています。賑やかだし、華やかです。タイのモーターショーにいくとピックアップトラックの競技車両まで展示してあり驚きました。一方、日本では謹慎状態。なぜ抜け出せないのでしょうか。

加藤:まさにそう思っています。ASEANはブランドイメージが良いためお客さんも集まる。日本の場合、気持ちの面で負けている。日本では不祥事があったため、それを払拭するのは容易じゃありません。とはいえ国内の車種ラインアップや売り方、広告宣伝にいままでと違う方法があると考えはじめています。

国沢:私は最近の三菱自動車を見ているとまったく希望を感じないんです。社員だって前向きではない。元気がない。活力もない。すべてネガティブな雰囲気です。ユーザーからすればそんなメーカーのクルマを買おうという気になりません。三菱自動車の再興に向け、具体的な方策はあるんでしょうか。

加藤:国沢さんから見ても元気の無さを感じますか? 現在考えているのは、まず出ていくお金を減らすため、パジェロ製造の生産停止など生産体制を再編。ふたつ目にASEANなどで拡販して収益を挙げる。その間に明るい未来に向けた、三菱自動車らしいクルマ作りをしようと考えています。社内の検討チームに若い人も入れて動き始めました。

国沢:三菱自動車の状況を見ていると、そう簡単に立て直せるように感じません。このままだと一段と厳しくなっていく予想しか思いつかないんです。

加藤:ふたつの柱を考えています。環境対応と、いかに楽しいクルマを作れるか、です。環境対応は弊社の特徴である電気自動車の技術をさらに広げていこうと考えています。楽しいクルマも重要だと思います。残念ながらパジェロ製造を閉めますが、これ以上のリストラは予定していません。

国沢:日産とルノーとのアライアンスも三菱自動車にとって明るい話だと思えないです。先日行われたアライアンス記者会見で、三菱自動車はミドルサイズのPHEVだけが担当だと発表されています。これだと稼ぎ方も限定されてしまう。例えばエクスパンダーのようなASEANベースの新型車は作れないのでしょうか。

加藤:アライアンスの件は少し誤解されていると思います。三菱自動車のプラットフォームがなくなるワケじゃないし、自由度を持っていないという意味ではありません。エクスパンダーのモデルチェンジも可能です。ASEANベースのクルマを中東や中南米などで売るというビジネスだってあるでしょう。

■加藤CEO「モータースポーツは三菱自動車の原点」

国沢:残念ながら日本は平均年収で欧米に引き離されASEANに追いつかれています。中東や中南米だけでなく日本でもエクスパンダーを売るつもりはないんでしょうか。

加藤:十分可能性はあると考えています。ただエクスパンダーの現行モデルは、いまのままだと規制対応が難しい。手直しを必要とします。日本で売ろうとすれば高価になってしまう。

 一方で国内の元気を出すため、お手頃な価格で魅力のあるクルマが必要だと考えます。社内でも慎重論は多いですけれど、そういったクルマを作っていくのは私の重要な仕事です。

国沢:もし三菱自動車がASEANで新型車を独自開発出来るのなら、エクスパンダーのようなヒット車を作って世界に出ていくことも出来るということでしょうか。それが出来たら面白いです。

加藤:先ほどお答えしたように、これ以上のリストラは考えていません。なんとか踏ん張り、人や開発のリソースと国内とASEANに集中し、収益を挙げられるようにしていきます。そしてASEANベースに事業を拡大したいと思っています。

国沢:とはいえクルマ作りは時間がかかります。すぐ効果を出すモータースポーツとか考えていないんでしょうか? アジアンクロスカントリーなどあまりお金が掛からず、それでいて元気を出せるジャンルだと思います。三菱自動車が変わった感だって大きい。

加藤:そういう手もあると考えています。じつは数日前に増岡さん(パリダカで大活躍した三菱自動車のベテラン社員ドライバー)とジックリ話をしたんです。アジアンクロスカントリーも話題にあがりました。

 う~ん! アジアンクロスカントリーは検討してみる価値があると思っています、という答えでいかがでしょうか。

国沢:失礼ながら日本は今期も赤字だと思います。けれど昨年はタイだけで600億円の利益を上げている。インドネシアも好調です。ASEANの販売促進のためにも、ASEANで挙げた利益をASEANで使うのは社会的にも素晴らしいと思います。

加藤:インドネシアには、ラリードライバーの知り合いがいます。「ミラージュ」をパワーアップしたモデルとか作ったらいいね、という声も出ているんです。

 最近パリダカで勝って興奮していた若い頃の会社を思い起こすんです。数日前も増岡さんの隣に乗って感動したし、ランサーエボリューションVIIIに乗って楽しかった。やはりモータースポーツは元気が出る。三菱自動車の原点のように思います。

国沢:加藤さんの話を聞いていると、久々に往年の三菱自動車の人だと感じます。増岡さんのような経験を持つドライバーは世界的に見ても珍しい。そんな人を起用出来るのは無形の財産だと思います。モータースポーツは即効性のある起爆剤になるでしょう。

 最後に加藤さんのご趣味を教えてください。それとクルマはなにをお持ちでしょうか。

加藤:そうですね~。いまはゴルフくらいです。以前は子供達とキャンプにいったり釣りをしたりしたんですが、最近時間が取れなくなりました。引退したらノンビリ釣りなんかしたいと思います。クルマは「アウトランダーPHEV」と「eKクロス」です。岡崎だとクルマが無ければどこにもいけませんから。

※ ※ ※

 荒波のまっただなかで社長に突如就任したばかりということもあり、やるべきことが多いんだと思います。趣味の質問をした際「そんなこと考えもしなかった」というオーラを感じましたね。

 全般的な印象ですが、インタビューする前と後で三菱自動車に対する期待度は大きく変わりました。いままでとまったく違います。ただ状況を考えれば時間との勝負。いろんな意味で打つ手は急がないといけないかもしれません。

●三菱自動車 加藤隆雄取締役 代表執行役CEO 経歴

・1984年4月 三菱自動車入社

・2002年4月 乗用車生産統括本部 乗用車生産本部ボデー生産技術部マネージャー

・2003年4月 名古屋製作所工作部ボデー課 課長

・2007年4月 名古屋製作所工作部 次長

・2008年8月 名古屋製作所工作部 エキスパート

・2009年4月 ロシア組立事業推進室 エキスパート

・2010年4月 ロシア組立事業推進室 上級エキスパート

・2010年5月 PCMA RUS 出向

・2014年4月 名古屋製作所 副所長

・2015年4月 PT Mitsubishi Motors Krama Yudha Indonesia 取締役社長

・2019年6月 取締役 代表執行役CEO(現在に至る)

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みんなのコメント

10件
  • 国内の活性化、よろしく頼みます。
    三菱は技術力が有る
    EV技術を健全にアピールしていけば
    ブランドイメージは間違いなく回復する!
    三菱ができていること、他社がやれてないことを
    強味にしていけ
  • 車嫌いの益子からかわってどう変化できるか
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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