2022年に公開された『X エックス』、『Pearl パール』に続く3部作の完結編『MaXXXine マキシーン』がついに日本でも公開される。カルト的人気を誇り、令和ホラーの火付け役でもある本シリーズ。映画を題材にし、映画文化そして現代社会への批評性を秘めた本作について、監督のタイ・ウエストに訊いた。
ミア・ゴスの存在感
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1979年のテキサスを舞台に、ポルノ映画の撮影に参加していたマキシーンが、殺人鬼パールに襲われる1作目『X エックス』(2022)。1918年、銀幕のスターを夢見る若きパールが、やがて殺人鬼へと変貌していく姿を描いた2作目『Pearl パール』(2023)。そして、1985年──テキサスでの惨劇を生き延びたマキシーンが、ハリウッドで映画スターの座をつかもうとするのが、シリーズ完結編となる本作『MaXXXine マキシーン』だ。
このトリロジーは、ホラーというジャンルに属しながらも、作品ごとに参照する映像形式が異なり、物語の連続性も緩やかなため、3作品それぞれを独立した作品としても楽しむことができる。しかし、それでもなお、異なる時代設定や映像的手法を越えて、本シリーズをトリロジーたらしめている「Xファクター」は、3作品すべてで主演を務めたミア・ゴスの存在に他ならない。
1918年から1985年にかけて、パールとマキシーンという2人のキャラクターを通して、20世紀という時代を広い射程で捉えようとする本作の試みは、『ゴッドファーザー』シリーズにも通じる批評性を備えていると言えるだろう。ミア・ゴスに襲いかかるのは、20世紀の社会背景と密接に結びついた「抑圧」という怪物だ。パールはそれに屈してしまったが、マキシーンはどうだろう? 本作の冒頭では、「ショービズ界では、怪物と呼ばれてこそスター」というベティ・デイヴィスの言葉が引用される。ハリウッドを舞台に、マキシーンは過去の因縁に終止符を打てるのか──ミア・ゴスとともに、この3部作を完成へと導いたタイ・ウェスト監督に話を聞いた。
3部作の完結編
──『MaXXXine マキシーン』の北米公開(2024年7月5日)から、約1年が経ちました。本作は、1作目の『X エックス』、2作目の『Pearl パール』に続く、ミア・ゴス主演のトリロジー完結編となっています。あらためて振り返って、この3部作はご自身のキャリアの中で、どのような位置づけの作品になったと感じていますか?
この3部作は、私の人生を変えたと思います。これまで経験したことのないレベルで、多くの人の注目を集めましたし、ファンダムの熱量にも驚かされました。キャラクターに対して、まるで「自分たちのものだ」と言わんばかりの強い愛着を示してくれるんです。私の過去作では『The House of the Devil』(2009)も人気があり、評価も高い作品ですが、そこまでファンと強く結びついた感覚はありませんでした。
仮装してくれる人までいるんですよ。それを見かけると、「なんだこれ?」って思います。だって、部屋にこもってラップトップの画面を見ながら考えたキャラクターが、いまやハロウィンでみんなが仮装する存在になっているんですから。もちろん、自分のやっていることに意味がないとは思っていませんでしたが、そういった反応を目の当たりにすると、本当に不思議な気持ちになります。言葉にするのが難しいくらいです。
──『X エックス』と『Pearl パール』はテキサスの田舎が舞台でしたが、『MaXXXine マキシーン』では一転してハリウッドが舞台となります。ミア・ゴスの演じるキャラクターの物語が、最終的にハリウッドに辿り着く構成には、どのような意図があったのでしょうか?
それは、このシリーズが、生まれながらにして「望まない人生」を背負わされた人の物語であることに関係しています。『Pearl パール』の主人公は、違う人生を望んでいたにもかかわらず、結果的に「望まない人生」に順応してしまう。そして、『MaXXXine マキシーン』では、その「望まない人生」を本当に変えるチャンスを得た人物が描かれています。
このシリーズで映画製作がモチーフとして繰り返し登場するのは、それがエンターテインメント業界の根幹にある、「世界にどう見られたいか」という欲望と深く結びついているからです。「生まれながらの自分」ではなく、「こう見られたい」という理想像を、自分自身でつくり上げようとすること。この3部作のDNAに流れているのは、自分の存在そのものを塗り替えようとする願いなんです。だからこそ、彼女の物語の終着点がハリウッドなのは、ごく自然な流れだと思います。ハリウッドは、自分の見え方を変えたいと願う人々が集まる場所であり、その欲望が最も強く表出する場所ですから。
──『MaXXXine マキシーン』のラストで流れる「あの曲」は、80年代に発表されたバージョンですが、オリジナルの楽曲は70年代のものですよね。1作目『X エックス』の舞台である「70年代」と、『MaXXXine マキシーン』の「80年代」をつなぐ、本作にふさわしい選曲だと感じました。この楽曲の起用は監督ご自身の提案だったのでしょうか? その意図は?
はい、完全に意図的な選曲でした。ただ、あなたが指摘したような非常に具体的な読みが、選曲の一番の理由だったわけではありません。実際には、映画の冒頭で引用しているベティ・デイヴィスの言葉を際立たせたかったからです。あの言葉は以前からとても気に入っていて、それを使って物語の空気を立ち上げたいと思っていました。そして、80年代といえば、あの曲が大ヒットしていた。だから、「これを使えたら、素晴らしいブックエンドになる」と考えたんです。さらに偶然にも、その曲が70年代の楽曲のカバーだと知って、「ああ、これはもう一層の意味が重なるな」と。映画の舞台となるふたつの時代をつなぐ、象徴的な橋渡しになると感じました。
『MaXXXine マキシーン』には、そうした意味や構造を持った仕掛けが無数に詰め込まれていて、「これは面白いつながりができる」と思った要素をどんどん重ねていったんです。3部作としても、それぞれの作品が響き合うように、細部まで意識して構成しました。正直、今ではそのすべてを思い出せないほどですが(笑)それくらい多層的で、密度の高い作品になったと思います。
映画を殺すのは誰か?
──この3部作はいずれも、映画文化にかかわる人物が、殺人鬼によって殺されてしまいます。これは「映画そのものが殺される」ことのメタファーとも受け取れます。『MaXXXine マキシーン』では、それが80年代の「サタニックパニック」という社会的文脈の中で展開されていきますが、監督は、現代において「映画を殺すもの」は何だと思いますか?
そうですね。まず言えるのは、「映画」という文化に対する畏敬の念が、明らかに薄れてきているということです。かつて映画は、少なくとも100年ほどのあいだ、人々の心を最も強く揺さぶるアートフォームだったと思います。現実を超えた存在であり、魔法のようで、どこか神秘的だった。でも今では、そうした特別な感覚が失われつつあります。
その理由はいくつかあります。ひとつは、映画があまりにも「当たり前の存在」になってしまったこと。もうひとつは、誰もがスマートフォンで映像を撮影できる時代になったことです。私たちは、ソーシャルメディアを通じて、常に「動く映像」に囲まれている。その結果、「映像」そのものの価値が、希薄になってしまいました。もはや映像は「わざわざ観に行くもの」ではなく、日常の延長になってしまった。人々は「映画」という形式を、かつてほど特別には感じていない。ただの「コンテンツ」のひとつとして消費している。そうした感覚が、映画という芸術の価値を──たとえ無意識だとしても──少しずつ殺しているのだと思います。
まあ、映画は100年も続きました。もう、これで十分、物事には終わりがある。そういうことなのかもしれません。ただ、私は今を「映画とは何か」が、再定義されつつある時期なんだと捉えています。正直、それがどうなるか、誰にもまだわからない。でも、私は信じています。人を感動させ、楽しませ、何かを共有する力において、映画はいまだ他のどんな表現よりも優れていると。
──では、映画を殺さないために、私たちにできることは何だと思いますか?
うーん、率直に言えば、「映画館に足を運ぶこと」。結局は、それに尽きると思います。ちょっと夢のない話かもしれませんが、言ってしまえば「お金で投票する」ようなものなんです。もし『MaXXXine マキシーン』のような「中規模映画」を本当に求めているなら、観客がそれを実際に観に行くことが必要なんです。そうすれば、その映画がヒットして、ハリウッドは、また似たような映画を作る。ハリウッドは決してオリジナリティで知られている業界ではないので、人々が観に行くものを作りますからね(笑)ヒット作が出れば、無数のフォロワーが生まれるんです。
かつては、誰もコミック映画なんて観ていませんでした。しかし、『アイアンマン』(2008)が登場し、それが大成功したことで、「映画といえばコミック原作」みたいな時代がやってきた。「中規模映画」も同じです。結局は、観客が関心を持つかどうかにかかっている。とはいえ、それは簡単なことではありません。なぜなら、私たちにはスマートフォンがありますから。スマートフォンはそれだけで面白いし、常に気を引く存在です。だから「100分の中規模映画」に人の注意を向けさせるには、マーケティングも、文化的な変化も必要になってくる。でも、最終的にはとてもシンプルなんです。「観客が観に行けば、映画はまた作られる」ということなんですよ。
──「100分の中規模映画」という話が出てきましたが、監督のフィルモグラフィーを拝見すると、どの作品も上映時間がほぼ100分前後に収まっています。この長さは、編集だけでなく撮影の段階から意識されているのでしょうか?
私としては、映画が80分でも180分でもいいんです。大事なのは、その映画が最もよく機能する長さを知っていることです。私の作品はどれも比較的「限定された世界」の中で展開されるタイプの映画なので、たとえば『X エックス』を3時間の大作にするのは、正直、あの農場の中だけでそこまで引っぱるのは難しいと思います(笑)
『MaXXXine マキシーン』の脚本は、3部作の中で一番ボリュームがありました。もし撮影したシーンをすべて詰め込んでいたら、もっと長い映画になっていたでしょう。カットされたシーンのなかには、それ単体ではすごく面白いものもありましたが、映画全体のリズムや没入感、物語の「流れ」を考えると、逆にそのシーンが足を引っぱることもある。結果的に、3作とも上映時間がほぼ100分におさまったのは偶然です。とくに狙っていたわけではなく、自然と「そのくらいがちょうどいい長さ」になったという感じですね。
奇妙な映画作りは続く
──『MaXXXine マキシーン』では、エリザベス・デビッキ演じる映画監督が登場します。彼女が撮影現場で、俳優の口に血のりを塗るシーンがとても印象的でした。あの場面にいるのは3人とも女性で、全員に血のりがついてしまう。映画業界で働く女性たちの連帯が「血のり」によって象徴されていると感じたのですが、そういう意図はあったのでしょうか?
なるほど。たしかに、あのシーンには3人の女性が登場しますが、そういう意図はありませんでした。むしろ、あのシーンで描きたかったのは、映画づくりの奇妙でバカバカしい側面です。エリザベス・デビッキが演じる監督は、自分の意図を誰にも理解してもらえず、結局、自らの手で血のりを塗るしかない。でも、冷静に考えると、人の顔に血のりを塗るなんて、日常生活ではありえない行為ですよね。すごく変なことなんです。
リリー・コリンズが演じる俳優は、真剣に演技しようとしているけれど、監督の演出の一部として、どこか小道具のように扱われて、ただ顔に血を塗られるだけの存在になっている。そして、マキシーンは、その光景をじっと眺めながら「自分もああなりたい」と思っている(笑)。とても奇妙な状況です。でも、これが映画の縮図なんです。映画づくりって、本当にヘンテコなことを真剣にやっている世界なんですよ。あのシーンは、その奇妙さを象徴的に描いたものでした。私が真剣にやっていることは、突き詰めると、ああいうバカバカしいことの積み重ねなんです。
──現在の映画市場のことを考えると、中規模予算のオリジナル作品を劇場公開という形で成立させるのが、今後さらに難しくなっていくと思います。そうした状況の中で、監督が理想とする「映画づくり」を続けていくためには、どのようなことが必要だと感じていますか?
私は基本的に、「そのとき取り組んでいるアイデア」以外のことは、あまり考えないようにしています。というのも、映画を取り巻く状況は、自分ではどうしようもないことがあまりに多い。そこに意識を向けすぎると、たぶん頭がおかしくなってしまう。自分が出した企画が最後まで形になって、それに誰かが参加したいと思ってくれるなら素晴らしい。でも、もしそうならなかったとしても、それは仕方がないし、べつに世界の終わりじゃない。そもそも、それが数年前だったら成立したのか?と言われても、結局のところ誰にもわからない。みんな「昔のほうがよかった」と思いたがるけどね。
結局のところ、私の情熱は「映画づくり」にあるし、それが自分の仕事でもある。だから毎日、少しずつでも考えたり、書いたり、撮ったりする。そうやって日々積み重ねていくことで、いつか何かが形になると信じています。それがどうやって世の中に届くのか──それは正直、自分にはコントロールできない。でも、自分が持っているベストなアイデアを信じて、あとは流れに任せる。願わくば、それが誰かにとって意味のあるものになればいいなと、そう思っています。
──次回作に向けて、すでに何か準備を進めているのでしょうか?
そうですね、そろそろという感じです。次にやろうとしている作品は、このトリロジーとはまったく違う方向性のもので、やりたいこと自体はすでにある程度固まっています。あとは「いつやるか」というタイミングの問題ですね。もともとは秋に撮影に入るかもと思っていたんですが、今の生活とのバランスを考えると、来年の年明けのほうがいいかもしれない。ちょうど今、そのあたりを調整しているところです。でも、ひとつ言えるのは、必ずまた映画を撮りますよ。
『MaXXXine マキシーン』6月6日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024 Starmaker Rights LLC. All Rights Reserved.
文・島崎ひろき
編集・遠藤加奈(GQ)
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