ポルシェ初の量販EV(電気自動車)「タイカン」に、今尾直樹が京都で試乗した。ポルシェらしいEVとは?
電気があれば、なんでもできる。
舞台は、2020年師走の京都。794(なくよ)うぐいす平安京のいにしえより、たびたび戦乱の渦に巻き込まれてきた古都であります。直近では19世紀半ば、勤皇の志士たちと新撰組、長州、薩摩、そして徳川幕府が謀略と諜報、テロ活動を繰り広げた、明治維新、革命発祥の地。いま、その京都にドイツ・シュトゥットガルトから、SDGs、持続可能な開発目標という名の錦の御旗を掲げた、新たな革命戦士、新たなチャレンジャーが飛来したわけであります。
アウトバーンという戦いのリングに、スポーツカーの虎の穴、ポルシェAGが送り込んだ電動高性能マシン、目指すは天下統一、世界制覇。スポーツカーを制す者は電化を制す、もとい天下を制す。乾坤一擲、電化分け目の大一番。ドイツ民族が産んだ燃える電魂、タイカンとは、いったいどんなクルマなのか? ヤマモトさん、そろそろ、このへんでプロレス中継のマネはやめて、冷静な筆致に転換したいものであります。
電気ですかぁぁぁぁッ。電気があれば、なんでもできる。1、2、3ッ、だぁぁぁッ!
ポルシェ初のフル電動スポーツカー、タイカンを体感した筆者は、このフレーズが書きたかったのでございます。ポルシェ自身、タイカンをこう表現している。「ソウル、エレクトリファイド」。燃える闘魂、電化の魂。
♪ポルシェ・ボンバイエ、ポルシェ・ボンバイエ!
1、2、3ッ、だぁぁぁッ!
意外とコンパクトに見えて、結構ビッグ
ポルシェ初のフル電動スポーツカー、タイカン日本仕様の京都1泊2日試乗会の初日、新幹線でJR京都駅に到着するや、隣接したホテルの地下駐車場から早速、タイカンの最高性能モデル、ターボSに乗り込んだ。ホントはお昼をいただきながら解説を聞いたあとで出発したのですけれど、前に進まないので省略させていただきます。
「キャララホワイトメタリック」という純白のボディ色をまとったタイカンの旗艦ターボSは意外とコンパクトであるようにも見えた。小艦とはいえぬまでも、中艦ぐらい。
近づくと、意外とでっかい。大艦であった。全長5m近くで全幅はほぼ2mというサイズは、パナメーラよりわずかに小さい程度。2900mmのホイールベースは、パナメーラより50mm短いだけだ。
全高は1378mmと、パナメーラより5cmほど低くて、前後のボンネットもキャビンも、全体に薄く、おまけに21インチ という巨大なホイールを履いている。パナメーラも21インチ ですけれど、EV専用モデルならではのプロポーションといえる。
ドライバーズ・シートに座ると、そこはパナメーラとかカイエン等でお馴染みの世界をもうちょっと未来にした感じ。助手席のダッシュボードにまでスクリーンが広がっている。ポルシェだったら必ずメーター・ナセルの中央にあるはずのタコメーターは当然ない。センター・コンソールには、あってもいいはずのシフトレバーがない。
電源オンのボタンはポルシェの伝統にのっとり、ドア側に一応設けられているけれど、カギさえ持っていれば自動的に通電し、右ハンドルの試乗車の場合、ドライバーはステアリングホイールの付け根の左側にある小さなレバーをDレインジにしてアクセルを踏み込むだけで走り始める。
いかにもポルシェらしい
前後アクスルにそれぞれ1基ずつ搭載されたモーターは、ふたつ合わせて最高出力761ps、最大トルクは1050Nmを発揮する。この大トルク、大パワーのツイン・シンクロナイズド・モーターのおかげで、EVのつねではあるけれど、軽くアクセルを踏み込んだだけで、車重2380kg(車検証)のスーパー・ヘビー級ボディがスッと発進する。
試乗ルートは鴨川沿いの一般道を北上し、平安神宮の前をかすめて、さらに北上、比叡山ドライブウェイを走りまわるというもので、古都をキョロキョロしながらフツウに走っていてビンビン伝わってくるのは、いかにもポルシェらしいボディの剛性感だ。ステアリングとペダルの操作感にもポルシェらしい剛性感と、重さ、手応えがある。ポルシェ感がみなぎっている。
最近のポルシェ同様、ステアリングホイールの4時ぐらいの位置に、丸いドライブ・モードのスイッチがあって、これをクリックするとモードが変わる。ノーマルでも十分乗り心地は硬い。フロントが265/35ZR21、リアが305/30ZR21というスーパーカー・サイズにふさわしい乗り心地だともいえる。しかし、カチンコチンではなくて、しなやかさがある。分厚い筋肉の上に乗っているようなイメージ。体幹がメチャクチャ鍛えてある。タイカンなだけに。
このモードを「スポーツ」に切り替えると、ステアリングは心もち重く、乗り心地もまた心持ち堅くなる。とはいえ、筆者の感覚としては、劇的な変化はない。どちらも終始ひきしまった堅さの乗り心地を披露し続ける。
比叡山ドライブウェイに入って、さらに「スポーツプラス」を選ぶと、それまで静かだった室内に、ひゅううううううううッ、という電子音が轟き始める。個別にオン/オフもできる「E-Sport Sound」なるデバイスが作動するのだ。タイカンを駆るドライバーの脳内には東宝SF映画の伊福部昭の行進曲が流れてきて、敵宇宙船と交戦している気分になってくる。スペース・オペラ、タイカン劇に大感激。
コーナー脱出時にアクセルを踏み込むと、デジタルのメーターがレブリミットを示すように青く発光して、猛烈な加速を見せる。ローンチ・コントロール使用時の0~100km/h加速は2.8秒! というスーパーEVである。でも、そんなのを使わなくても、ドカンときて、息を飲む。あと何秒。というカウントダウンなしで、いきなりワープするのだ。
918スパイダーを彷彿とさせる
コーナリングはめちゃくちゃ安定している。前席のフロアあたりに高性能バッテリーを敷き詰めていることで、重心は911よりも低いそうだけれど、ひゅううううううっとクールに曲がる。
前後重量配分は、車検証によると前1170kg、後1210kg、49対51で、ほとんどイーブン。フロント・エンジンみたいなフロントの重さも、リア・エンジンみたいなリアの重さも感じない。ロールはほぼ皆無で、前後均等にベターッと大地に貼りつきながら旋回するのだ。
パナメーラ系と同様の、「アダプティブ エアサスペンション」と「リア・アクスル・ステアリング」、いわゆる4WS、それにロールを制御する「ポルシェ・ダイナミックシャシー・コントロールシステム(PDCC)スポーツ」、左右後輪に個別にブレーキをかけて、より曲がりやすくする「ポルシェ・トルクベクトリング・プラス」の相互作用を図る「ポルシェ4Dシャシー コントロール」なる電子制御デバイスが働いてもいる。
PCCB、いわゆるカーボン・ブレーキは強力で、2トン・オーバーの車重をものともせず、きっちり止める。
『麒麟がくる』(NHK)の織田信長が焼き討ちにしたばかりの比叡山は、紅葉を一部残し、そこだけ赤に燃えている。比叡山の頂上あたりからは琵琶湖が見え、安土城はいずこにあるや。スペース・オペラからいつの間にか筆者は、タイカンが主役のタイカン・ドラマ……。
え、なんです?
おほん。大河ドラマの信長になった気分。天下布武。EVワールドを圧倒的高性能で制圧しよう、というのがポルシェ・タイカンで、なかでもターボSなのであった。
ポルシェ・タイカン・ターボSは、パナメーラ・ターボS、いや、筆者は乗っていませんけれど、もしかしたら2013年にポルシェが送り出した限定918台のハイブリッド、918スパイダーからV8ユニットを取っ払って、そこに後席を設けたようなスーパーカーなのではあるまいか。そんな想像を、タイカン・ターボSはたくましくさせるのだった。
ちなみに、タイカンの後席はルーフの低さに合わせて、お尻が落とし込まれていて、大人ふたりが座れないことはないけれど、半地下のような閉所感がある。試乗車が装備していたパノラミックガラスルーフは、後席にひとを乗せようというひとにオススメしたい。
航続距離は、筆者が乗り込んだとき、389kmを指していた。比叡山ドライブウェイの山道を走り、その後、ドライバーを交代して、琵琶湖に出て、高速道路経由で京都市内に戻った。走行距離はちょうど100kmで、車載コンピューターはあと247km走れると告げていた。
タイカンというカタチで新しい扉を開いた
ポルシェ・ジャパンは「ポルシェ・ターボチャージング・ステーション」という急速充電システムを備えた拠点を、ディーラーほかに設ける計画で、2023年までに44拠点を予定している。
液冷のこのシステムを使えば、バッテリー容量の約80%を24分で充電することができるという。1日の走行距離が30km程度であれば、週1回、そのステーションでチャージしてもらえば、こと足りる。
タイカンは、通常の400Vではなくて、800Vの電圧システムを採用している。電圧をあげることで、出力の増大と充電時間の短縮を狙った、と、ポルシェは主張している。
EVの欠点は、電流が大きくなると熱損失が大きくなることで、性能をあげようとすればするほど、熱を冷やすためのクーラーが必要になる。電流というのは電子の数、電圧は電子のスピードを指す。水にたとえると、電流は水の量、電圧は滝の高さである。ポルシェは、水の量をより少なくして熱損失を小さくし、少ない量の水に勢いを与えることで大きなエネルギーを得ようとしているのである。
ただし、電圧を上げるとバッテリーの寿命が短くなるという説もあるから、EVも単純ではない。
ということを、2019年9月某日、九州で開かれたジャガー「i-PACE」の試乗会に参加したおり、清水和夫さんから教えてもらった。電気のさっぱりわからない筆者は、なるほど、そうだったんだと、ふに落ちた。
試乗会2日目にタイカン4Sにちょっとだけ試乗した。そのおかげで、タイカン・ターボSはタイカンのなかでも異次元のスペシャルなモデルであることがわかった。4Sはモーターの出力を、最大490ps、650Nmにおさえ、ホイールも20インチにとどめている。それだって、単独で見ればすごいスペックで、0-100km/h加速も4秒と、911カレラより0.2秒速い。つまり、十分以上に速い。それでいて乗り心地は穏やかで、エレガントな4シーターのスポーツカーに仕立てられている。
911カレラ4Sと911ターボSの関係とおなじで、ターボSは異次元の存在なのだ。価格も、タイカン4Sは1448万1000円、ターボSは2454万1000円と、1000万円以上も高い。筆者的には4Sのほうが好ましく思うわけですけれど、世のなかには鬼のように1番スゴいヤツを欲する方もいらっしゃるわけで、そういう方向けなのがターボSなのである。
してみると、ポルシェがEVなのにターボと名づけたのは、今後の車種展開を考えてことではあるまいか。いまのところ、タイカンには4S、ターボ、ターボSの3タイプしかないけれど、ほかのモデル同様、Sのつかないタダの4とか、なんにもつかないタイカンだけとか、あるいはGTSとか、といった派生モデルが出てくることもあるかもしれない。
タイカンのプラットフォームを使って、スポーツ・ツーリズモという名称のワゴンも、カイエンみたいなSUVだって、つくれるだろうし、おそらくつくるだろう。電気があれば、なんでもできる。この場合の、電気ということばには、暗に電気自動車のプラットフォーム、という意味も含まれているわけですけれど、その電気をどうやってつくるのか? など、EVにはEVの課題がたくさんあることを前提にしつつ、ともかくポルシェはタイカンというカタチで新しい扉を開いた。「この道をいけばどうなるものか(中略)迷わず行けよ 行けばわかるさ」と、アントニオ猪木も言っている。
筆者個人としては、356ぐらいのサイズと性能のEVがあったらなぁ、と思う次第です。
1、2、サンッ、ゴ、ロクゥゥゥッ!
ポルシェ356のEV、みんなも欲しいと思う。
文・今尾直樹
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