映画『ルノワール』が6月20日に劇場公開を迎える。気鋭監督と12歳の逸材は、少女が死と向き合うひと夏の物語にどのように挑んだのか?
早川千絵と鈴木唯、規格外の大型コンビ
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2022年に発表された『PLAN 75』は、大げさでなく映画界に衝撃を与えた。第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出されるとカメラ・ドール(新人監督賞)の特別表彰を与えられ、第95回米アカデミー賞国際長編映画賞部門の日本代表作品に選出。本作で長編映画に初挑戦した早川千絵にとって、これ以上ない華々しいデビューだったことだろう。
あの狂騒から3年──。周囲の期待もあり次作の発表にはさぞかしプレッシャーがかかっただろうが、早川監督はさらなる挑戦に打って出た。「75歳以上の高齢者を対象に、生死の権利を保障・支援する制度」が施行された近未来を描くコンセプチュアルな前作とは打って変わって、明確なゴールやテーマを定めないアプローチを取ったのだ。
「最初に頭に浮かんでいたのは、10代前半の少女を主人公にした物語にしたい、くらい。そこから『ひたすら泣いている子どもを観ている子ども』『自分のお葬式に出ている子ども』『父親のことを笑った若者を蹴る子ども』といったとりとめのないエピソードをどんどん書き連ねていきながら、私自身“1本の映画になるのだろうか”と半信半疑でした」と早川監督は述懐する。
6月20日に劇場公開を迎える映画『ルノワール』は、1980年代を舞台に11歳の少女・フキが死と向き合うひと夏の物語。時代の無防備さと無邪気さの中で息をする大人たち──その光と影が成長過程にある少女の目線を通して描かれ、観る者に安らぎと不穏を同時に与える。早川監督が「意識していなくても出てしまう」と自己分析するように余白が象徴的な一作であり、彼女の作家性を決定づける映画でもあるが、この舞台設定も後発だった。
「当初は現代でもいいんじゃないかと思っていました。なぜなら、そのほうが製作費がかからないから。ただ、(出会い系サービスの走りだった)伝言ダイヤルが物語上の重要なモチーフとなり、登場させるために必然的にこの時代になった形です」(早川)
イレギュラーともいえる制作プロセスは、思わぬ奇跡をもたらした。「フキ役が見つかるまで何百人もオーディションするつもりだった」という早川監督の覚悟は、最高の形で裏切られる。いきなり鈴木唯という未知なる才能が眼前に現れたのだ。彼女との出会いで早川監督の中にあったフキの輪郭が一気に鮮明化し「様々なディテールが加わり、彼女の動きに合わせて脚本なり演出を変更していきました」と振り返る。
本インタビューのフォトシューティング時にも「カメラの前で緊張しない方法」を早川監督に伝授するなど、堂々たる存在感を放つ鈴木。ワールドプレミアとなった第78回カンヌ国際映画祭でもまったく物おじせず、映画祭が選ぶ「注目すべき10人の才能」にも選出。演技のコツは「無心」と言い切る。
「台本を読んでいると、勝手にその世界に引き込まれて登場人物の心情が自分の中に入ってくるんです。悲しいなと共感して涙が出たり、時には熱くなったり……。その感情を、カメラが回っているときに出しているだけです。簡単にいえば掃除機のようなもので、“吸い込んで、出す”感覚です」(鈴木)
『ルノワール』の台本には行動やセリフは記されているが、「その時々のフキの心情は監督にはとくに言われておらず、自分で読み解く形でした。河合優実さんと共演した催眠術をかけるシーンでは、事前のオリエンテーションの場でセリフも自分たちで考えています」とのこと。
本人はト書きのみの脚本から作り上げた初主演映画『ふれる』で培った経験が生きたというが、元から備わっている感受性が図抜けているに違いない。『ルノワール』のスタッフ陣は40~50代が中心で80年代を過ごした者も多く共通認識が取れていたそうだが、鈴木に自身が生まれる前の時代を“生きる”難しさはなかったのかと問うと、すぐさま首を横に振った。
「難しさは感じませんでした。むしろ、私にとってはブラウン管のテレビや当時のエアコン、昔の駄菓子など、見たことのない新しいものがたくさん並べられていてとても楽しかったです。好奇心旺盛なタイプなので、見るもの全部が面白い!とワクワクしっぱなしでした」(鈴木)
そう言って屈託なく笑う鈴木の、なんと頼もしいことか。早川監督は「こちらが余計なことを言わなくてもわかっているから、放っておいても何の心配もなかった」と評価する。
「フキはセリフがあまりなく、ただ見ているだけのシーンも多くありました。大人の役者でも難しいものですし、“うまくできなかった場合にどう説明してあげられるだろうか”と考えていたところ、彼女はさらっとやってのけてしまうのです。非常に助かりましたし、唯ちゃんじゃなかったらどうしていただろうと思うくらいです。プロ意識もここぞという場面の集中力も高いため、彼女に全面的に任せていました。ちなみに、ラストシーンは前々から決めていたものの本当にうまくいくかわからず危険な賭けでしたが、唯ちゃんが見事に着地させてくれました」(早川)
事前に入念なリハーサルを行ったり、現場で密なコミュニケーションを取ったうえでツーカーの間柄になったのではなく、言葉を交わさずともその関係性が構築されていたというから驚きだ。早川監督は「フキについては私たちが1番理解しているという感覚を持ちながら撮影できました。不思議なことですが、何となく唯ちゃんとはどこかでつながっている気がします」と微笑む。
かといって、鈴木唯という人物が過度に大人びているわけではない。人生二度目の海外滞在となったカンヌでの想い出を聞くと「『魔女の宅急便』の世界に入り込んだみたいで、ホウキで飛びたくなりました」と語るなど、等身大の無邪気な部分もしっかりと持ち合わせている。早川監督が「自分時間で生きている人」と言うように、彼女の中に自身の宇宙や世界観が存在しているのだ。だからこそ、『ルノワール』で幾多の経験を吸収した鈴木に聞いてみた。
「今のあなたが思う“大人”とは?」。
「以前の私だったら『大人は大人』と答えたと思います。色々大変そうだし、面倒くさそうだから大人になるのは嫌だなって他人事として見ていました。でもいまは、大人も精一杯生きていて、子ども時代の経験が盾となっているのだろうなって──大人は子どもでもあって、子どもにも大人の要素があって、それぞれその時々にしか見えないものがある。どちらも同じ人間でそこに壁はなく、みんな悲しかったり楽しかったり、様々な心を持っているのだと思います」(鈴木)
言葉を紡ぎながら答えを探し、「あくまで今の私にはここまでしかわからないのですが」と付け加えた鈴木。それは翻せば、まだまだ飛躍的に成長する伸びしろを自分でも感じているということだ。今後の目標について話が及ぶと「まだ演技をはじめて2年ほどですが、お芝居をしていると“これが本当の自分”と感じるんです」と明かしてくれた。
「自分でも、演技をしていると輝いている感覚があり嬉しくて、もっともっと続けたいという気持ちが湧いてきます。“もう満足だ、やりきった!”と思えるまで──そのときは70歳くらいでしょうか、そこまでは続けたいと思っています。その頃には身体がしんどくなると思うから、最後の10年間はゆっくりと日本を旅して別荘を立てたり、最期くらいは贅沢して遊んじゃおう!という精神で余生を思いっきり満喫したいです!」(鈴木)
もちろん、『ルノワール』にはフキの主観のシーンだけ音楽を入れる等の創意工夫や、外界と室内を隔てる窓を意識的に盛り込み、そこから差し込む光が形作る陰影、人物の内面の不安にもリンクするカーテンの揺らぎ等々──早川監督の卓越した演出力と技術から導かれた強度がみなぎっていることは言うまでもない。
それは重々承知の上で、やはりスクリーンの内外で、鈴木の圧倒的な個性が傑出している。異例の長編映画デビューを飾った新鋭監督は、2作目にしてとんでもない才能を世界に知らしめてしまった。早川千絵と鈴木唯。規格外の大型コンビに“次”のコラボレーションがあることを、願ってやまない。
早川千絵1976年生まれ。短編『ナイアガラ』が2014年第67回カンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門入選、ぴあフィルムフェスティバル グラ ンプリ受賞。2018年、是枝裕和監督総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一編の監督・脚本を手 がける。その短編から物語を再構築した初の長編映画『PLAN75』(22)で、第75回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督)特別賞を受賞し、輝かしい才能が世界から注目されている。
鈴木 唯2013年生まれ、埼玉県出身。『ふれる』(24/髙田恭輔監督)で映画初出演にして初主演し、期待の演技派俳優として注目される。主な出演作は、『ここで吸っちゃダメ!』(24・短編/山口景伍監督)、『3月11日』(24/遠藤百華監督)、 『少年と犬』(25/瀬々敬久監督)がある。
『ルノワール』日本がバブル経済絶頂期にあった、1980年代のある夏。11歳のフキは、両親と3人で郊外に暮らしている。ときには大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性をもつ彼女は、得意の想像力を膨らませながら、自由気ままな夏休みを過ごしていた。ときどき垣間見る大人の世界は複雑な事情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的。だが、闘病中の父と、仕事に追われる母の間にはいつしか大きな溝が生まれ、フキの日常も否応なしに揺らいでいく──。
脚本・監督:早川千絵
出演:鈴木唯、石田ひかり、中島歩、河合優実、坂東龍汰、リリー・フランキー
6月20日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー
© 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
配給:ハピネットファントム・スタジオ
製作年:2025年/製作国:日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタール
上映時間:122分
写真・横山創大
文・SYO
編集・神谷 晃 AKIRA KAMIYA(GQ)
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