今から約1年前にFIA国際自動車連盟がアナウンスした2026年の新F1技術レギュレーション詳細により、パワーユニット(PU)とシャシーの大幅見直しを背景に、今季2025年と来季2026年の車両開発のバランスを取る必要性が繰り返し言及されてきた。約1億3000万ドル(約193億5000万円)というコスト上限の基準額や空力テスト規則(ATR)の各種開発規制も念頭に、相対的戦力差でマクラーレンを追うレッドブル、メルセデス、フェラーリの3チームは、より難しい決断を迫られている。
PUに関しては2014年以来の新規軸だった熱回生、いわゆるMGU-H(熱エネルギー回生システム)が廃止され、エンジン(ICE)出力は550~560kWから400kWに減少、その一方でMGU-K(運動エネルギー回生システム)の電気出力は120kWから350kWに増加し、これまでICEで80%近い出力を担ってきたエネルギー配分は、電動部分が約3倍の出力を得ることで50:50のマネジメントに変化する。
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また、オーバーテイク促進のための『マニュアル・オーバーライド』モードが導入され、後続車の方がより多くのMGU-Kエネルギーを使用することができるようになり、燃料も100%持続可能なカーボンニュートラルフューエルが使用される。
一方の車体側も“機敏なマシン”というコンセプトに基づき、コース上でのバトルしやすさ向上を狙い車重が現在より30kg減らされ、ホイールベースは200mm、車幅は100mm、最大フロア幅は150mmとそれぞれ短縮。さらにDRSに代わり『アクティブ・エアロダイナミクス』と銘打ち、ストレート、コーナーで異なる空力効率を具現化するべく“X・Yモード”と呼ばれる動的なエアロシステムが導入され、外部からも視認可能な可動式の前後ウイングが装備される。
こうした劇的な環境変化を前に、各チームとも計画していたリソースの想定上の配分を基に、今季モデルと来季向けの新型車両開発の割り当てを調整するなか、先月のカナダGPとオーストリアGPでは、コンストラクターズ選手権の順位に基づき、風洞とCFD開発(ATR)のリソース配分が変更されたと、北米のモータースポーツ専門サイト『RACER.com』が報じている。
このうち名目上の100%割り当てはランキング7位のチームのみとなり、残りのチームは5%ずつ増減し、ランキング1位のマクラーレンは70%、最下位のアルピーヌは115%と想定されている。
周知のとおり、ドライバーズ選手権とコンストラクターズ選手権の両方で圧倒的な優位性を誇るマクラーレンは、1周の速さだけでなくリヤタイヤの温度を巧みにコントロールできるため、レースペースでもその強力さを誇示。シルバーストンでは新型フロアとリヤブレーキダクトのインレットを刷新したが、前者は実戦投入を見送る余裕も見せていた。
「2025年型でどれだけのパフォーマンスを引き出せるのか、そして2026年型までにどれだけのパフォーマンス向上を達成する必要があるのか。それを理解するのは本当に難しいが、非常に良い挑戦だ」とオーストリアGP時点で語ったのは、マクラーレンのエンジニアリング・テクニカル・ディレクターを務めるニール・ホールディ。
「現時点では、2025年型マシンで実現可能なものはすべて実現できている。さらにいくつかの小さなアップグレードと、おそらく次のレースでもう少し大きなアップグレードを行う予定だ。そして、テクニカルオフィスは数名ほどの人員で2026年型マシンの開発に全力で取り組んでいる」
レッドブルを退任するチーム代表のクリスチャン・ホーナーは、同じくシルバーストンで「現在、ほぼ90%の焦点は2026年シーズンに集中している」と明かした。しかしホーナーが予想外に解雇されたことで、レッドブルが技術的にどう変化し、何が達成できるかは誰にも見通せない状況となった。
同じく上位を追うメルセデスも“今季を諦める”決断がつきやすい状況にあると言え、なぜ高温になるとタイヤがひどく性能低下するかを理解する必要がある。
「まったくそのとおりだ」と応じたトト・ウォルフ代表。「レギュレーションが完全に変わり、グラウンドエフェクトカーがタイヤへの影響を伴わなくなり、すべてがリセットされるという事実こそが、我々にとってのチャンスとなるかもしれない。しかし根本的には、製品という点でタイヤはそのまま引き継ぐ。仕様は変わるかもしれないが製品自体は同じだし、何がその振動を生み出すのかを理解する必要がある」
同じくメルセデスのテクニカルディレクターであるジェームズ・アリソンも、少なくとも解決策の一部はリヤタイヤ周辺のさまざまな熱伝達と冷却のメカニズムを最適化することにあると示唆し、これを「非常に繊細なエンジニアリング」と呼ぶ。これが技術規則改定とともに“自然解消する”と想定するのは、やはり軽率にすぎるだろう。
そして、上位陣でおそらくもっとも不利な立場にあるフェラーリは、2025年に向けマシンに大きな変更を加えていた。ホイールベースはそのままに、空力性能を高めるためにギアボックスを短縮し、コクピットを後方に移動させた『SF-25』は、皮肉なことにこれら改変でリヤダンパーが小さくなりすぎ容量が足りず、高速走行時に適切な車高を維持する力が不足。結果、車高を全体的に高めに設定する必要があり、ダウンフォースを大幅に犠牲にした。
オーストリアでは改良されたフロアが登場し状況は改善されたが、重要な変更点としてスパに向けては改良されたリアサスペンション内部構造が導入され、この段階でも2025年型のパフォーマンス向上に取り組み続ける必要に迫られている。
「マクラーレンに挑戦するのが非常に困難であることは、私たち全員が認識している」と、今季未勝利で窮地に追い込まれているフレデリック・バスール代表。
「サーキットやコンディションによっては、彼らと互角に戦えることもあるが、全般的に……またチャンピオンシップにおいても彼らは大きなアドバンテージを持っている。例え、ここから最後まで全勝したとしても、チャンピオンになれるかどうかは分からない」
「しかし、我々はまだメルセデスやレッドブルと戦っている。2026年と2025年のリソース分散については心配しないで欲しい。私たちは何をすべきかを知っているからね」
[オートスポーツweb 2025年07月16日]
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