スピンドル「グリル」からスピンドル「ボディ」
執筆:Wataru Shimizudani(清水谷 渉)
【画像】レクサス「RZ」と新型「RX」【デザインを見比べる】 全90枚
トヨタの高級ブランドとしてレクサスが北米で展開を始めたのは、1989年。
デザインの基本理念には「L-finesse(エル・フィネス)」というキーワードがあったが、抽象的理念で具体性には乏しかった。当時のレクサス車のデザインは比較的地味なものが多く、上品ではあったが個性に欠けていたのも事実。
そこで、BMWのキドニーグリルやアウディのシングルフレームグリル、ロールス・ロイスのパルテノン・グリル、アルファ・ロメオの盾型グリルなど、ひとめでレクサスと分かるフロントマスク=グリルが模索された。
そして2012年に発表された4代目のGSから採用されたのが、「スピンドル(紡錘)グリル」だ。
それ以前のモデルでは上下2分割グリルで上が逆台形、下が台形だったのだが、4代目のGSでは上下のグリルを繋いだ形状でインパクトのあるデザインとなった。
発表当時は賛否両論あったスピンドルグリルだが、「継続は力なり」というわけでもないが、GS以降に登場するモデルに採用され続けることで見慣れてきた感もあり、もはやすっかり「レクサス=スピンドルグリル」の公式が定着してきた。
それから10年。
顔から先のボディまで 「RZ」と「RX」
2022年4月、レクサスはブランド初のEV専用モデル「RZ」を発表した。
EV専用モデルであるから、エンジン冷却用のラジエーターは不要となる。したがって、EV専門メーカーのテスラのようにフロントグリル・レスでもクルマとしては成立する。
だが、レクサスのアイデンティティであるスピンドルグリルをどうするのか。
レクサスデザインのPCD(プロジェクト・チーフ・デザイナー)である草刈穣太氏によると、いかに「塊(かたまり)」としてスピンドルを作っていくかに注力したという。
グリルから一体化してボディを作っていき、ボンネット前端が少し飛び出した独特のグラフィックだけでなく、“フードも含めた一体として”スピンドルの形に造り上げていった。
こうして生まれたのが、RZの「スピンドルボディ」だ。もはや、スピンドルは顔つきだけでない、ボディ全体となったのだ。
そして、新型RXだ。ハイブリッド車なども設定されるとはいえ、RXはエンジン車だ。
当然ながらラジエーターは装備しているし、ラジエーターを冷却するためのフロントグリルは必要だ。
だが、RZでスピンドルボディに進化したデザインを、再びスピンドルグリルに戻していたのではデザインに進化はない。
近くで見る 融け込んでいくグラデーション
「できるだけ塊としてボディを一体に見せたい。冷却に本当に必要な開口はどのくらいなのかを考えると、レクサスのLマークの真ん中から下側くらいがあればいいと分かったんです」と、草刈氏。
だが、上はグリル不要とバツンと切ってしまうと、かつての台形グリルのようになってしまう。
そこでスピンドルの上側はグラデーション的に穴が開いているように見せ、ボディとグリルを融合させた新たなアイデンティティが生まれた。これが、レクサスRXの「スピンドルボディ」だ。
グリルはフレームレスとなっている。グラデーションのデザインにはフレームがあると違和感があり、フレームレスとしたことでボディにスムーズになじんでいる。
最近、プジョーやホンダなど、他メーカーでもフレームレスグリルを採用するモデルが登場しているが、「2次元的なグラフィックから塊に見せるには、フレームレスグリルのほうがいいと思います」と、草刈氏。
SUVはグリルの縦幅もあるから、より立体感を強調するにはフレームレスグリルのほうが似合うのかもしれない。
役割が変わればカタチも 将来は?
草刈氏は続ける。「クルマが電動化に向かっている現在、いつまでも冷却開口であるグリルに顔のアイデンティティを頼ってはいられません」
となれば、これからのクルマ、少なくともレクサスのデザインはどう変わっていくのだろうか。
「いまのクルマは、機能からこのデザインになった、というものが多いです。今後は、どう機能が変化するか。例えば自動運転のセンサー類など、その機能に応じた新しいチャレンジで、顔つきやグリルなどのデザインが変わっていくでしょう」と草刈氏。
ところで、レクサス車にはスピンドル以外にもデザインのアイデンティティはある。
たとえば、L型のシグネチャーランプと3眼ヘッドランプ。このデザインには特に方向性はないと草刈氏は言うのだが、最近のモデルは3眼ヘッドランプを目立たせなくしている傾向にある。
L型シグネチャーランプ以外はブラックアウトして、昼間ランプが点灯していない状態でも、シンプルにL字型だけを見せるようになっている。
また、リアのエンブレムはその「L」のマークから「LEXUS」ロゴに変えられている。
後ろから見ても、新しいデザインに
これも「シンプルでクリーンにしたかった(草刈氏)」ということもあるが、丸いエンブレムを付けることでデザインに制約があることも事実。
丸いエンブレムを付けるためには、ある程度のスペースは必要だし、一文字のテールランプを新たなリアのアイデンティティにしてシンプルに見せるには、やはり「L」マークでは……というわけで、新しいチャレンジとなった。
そのリアの一文字テールランプにも、レクサスならではのこだわりがあった。
スピンドル形状の流れが続くボディのサイドビュー、“車両の軸”となる位置からリアに回り込んだ高さに、一文字のテールランプは装着されているという。
前述のように、グリルがクルマのアイデンティティとなる時代は終わりを迎えつつある。いまや、グリルをブランドのアイコンとしてきた多くのメーカーは、試行錯誤で悩んでいる。
そんな中、いちはやく「グリル」から「ボディ」にアイデンティティを変革させたレクサスは、やはり先見の明があったといえるだろう。
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