WRC世界ラリー選手権第10戦『アクロポリス・ラリー』でティエリー・ヌービル(ヒョンデi20 Nラリー1)が今季初優勝。ヒョンデ・シェル・モビスWRTにとってはシーズン4勝目であり、トヨタの5勝に次ぐ勝利数だ。一方、Mスポーツ・フォードWRTは開幕戦モンテカルロでセバスチャン・ローブ(フォード・プーマ・ラリー1)があげた1勝のみ。アクロポリスではローブがデイ2で首位に立っていたが、マシントラブルによりリタイアとなってしまった。
出走順のアドバンテージがあったとはいえ、Mスポーツのプーマ・ラリー1に速さはあった。それは、若手のピエール-ルイ・ルーベが一時総合2番手につけていたことからも間違いない。それでも、速さを結果に結びつけられないのは、信頼性が不足しているからである。
ヌービルがアクロポリス・ラリーで今季初優勝。ヒョンデはチーム史上初の1-2-3達成/WRC第10戦
今季ローブは4戦に出場、サファリでもエンジンルームの出火によりデイリタイアを喫している。そして今回のアクロポリスではオルタネータの破損が原因でリタイアに。元世界王者の実力と、出走順のアドバンテージを活かすことができていない。
ヒョンデもシーズン前半までは大きなトラブルが続出していたが、ここ数戦はかなり抑えられており、それがシーズン3連勝を飾ることができた理由のひとつである。一方で、信頼性の高さを誇っていたトヨタは、アクロポリスでエサペッカ・ラッピとエルフィン・エバンス(ともにトヨタGRヤリス・ラリー1)にエンジンおよび燃料系のトラブルが発生。表彰台獲得のチャンスを失った。
■初モノに強いが、次第にライバルに後れをとっていく
プライベーター以上、ワークス未満の体制であるMスポーツ・フォードは、昔から技術力の高さに定評がある。それは、前回のコラムでも書いたように、トヨタとヒョンデのテクニカル・ディレクターがMスポーツ出身者であることでも証明されている。
Mスポーツはこれまで、マシンレギュレーションが大きく変わる年に速さを発揮してきた。WRカーのエンジンがそれまでの2Lターボから1.6Lターボに変わった2011年、開幕戦を制したのはミッコ・ヒルボネン駆るフィエスタRS WRCだった。空力とエンジンの規定が大幅に緩和された2017年は、セバスチャン・オジエがフィエスタWRCで開幕戦優勝。その年はダブルタイトルも獲得した。そして、ハイブリッド元年の今季はローブがプーマ・ラリー1で優勝と、とにかく“初モノ”に強い。
初戦の勢いがなかなか持続しないのは、開発資金がライバルほど潤沢ではないからだ。パフォーマンスに関しても信頼性に関しても、徐々にライバルに後れをとっていくのが、Mスポーツのこれまでのパターン。オジエが在籍し2年連続でタイトルを獲得した時でさえ開発は滞り、新しいパーツを試すことも、投入することもできなくなっていった。それが、オジエのチーム離脱を招いた原因のひとつである。
また、資金不足もあって、タイトルを狙えるようなドライバーとレギュラーで契約することがなかなかできないのも辛いところ。どうしても、安く使える若手ドライバーに頼らざるを得ず、彼らが成長して力をつけると出ていかれてしまうという、サイクルがずっと続いている。
今年もすでに資金力不足の影響が出ており、予定していたテストをキャンセルしたり、エンジンのアップデートを来年に延期したりと、開発スピードが鈍っている。今シーズンに見切りをつけ、来シーズンにリソースを集中しているようにも感じられるが、フォードの援助が増えない限り、トヨタやヒョンデと対等に戦うことは難しいだろう。
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みんなのコメント
小さなクルマに強力なエンジンを載せるのはひと昔前から続くヨーロッパ流高性能車作りのトレンドですし、特に狭いコースでは機動性が良くなりますが、エンジンルームの狭さに起因する問題を解決できていない可能性もありますね(コンパクトな車はパッケージング上の制約からコンポーネントを本来望ましい位置に置くことが出来ない為)。