環境に優しく強度・耐久性に優れた「改質リグニン」を使用するGFRP
10月23日(火)、国立研究開発法人の産業技術総合研究所と森林研究・整備機構 森林総合研究所、そして宮城化成、光岡自動車の4機関が都内で記者会見を開き、木材の成分を用いた自動車用の内装および外装部品を世界で初めて実車に取り付けて評価試験を共同で開始すると発表した。
この試みは、スギから抽出した改質リグニンを樹脂成分として用いたガラス繊維強化プラスチック(GFRP)を内外装部品として使用するということで、屋外環境下での実車に搭載して試験を行うというもの。
リグニンとは、木材を構成する主要成分の一つで、木材成分の約3割を占める主要成分。陸上植物の細胞壁を固くしっかりとした構造とするために生み出された物質で、すべての木材に含まれている。
リグニン由来の素材は強固で耐熱性が高く、素材としてのポテンシャルは高いものの、樹木の種類や生育環境、さらにはその部位によって性質がバラバラで、工業材料としては難しいとされてきた。
ところが森林総合研究所は、リグニン源を絞り込み(日本固有の針葉樹で一種一族であるスギ)とポリエチレングリコール(PEG)と結合させ、物理特性を改質した「改質リグニン」を開発に成功。安定した工業用材料とすることに成功したのだ。
原料となるスギについては、スギリグニンを構成する基本単位が一種類と構造のバラつきがなく、日本国内で最も多い樹木で安定供給が可能ということもる。といっても、この改質リグニンを抽出するために新たな伐採は不要で、林地残材や製材時の端材を活用することができるという。
このスギから抽出した改質リグニンを樹脂成分として用いたGFRPだが、加速劣化評価(劣化寿命の検証を行うもの)を行ったところ、引っ張り弾性率は、エポキシ樹脂を使用したものよりも10~20%向上。また吸水率はエポキシ樹脂よりも低く抑えられるという結果が出ている。
共同発表した4機関のうちの一つ、宮城県栗原市の宮城化成は、光岡自動車のビュートなどの内外装パネルといったFRP製品を製造するメーカー。この宮城化成が、今回のパーツの製造を担当。ガラス繊維樹脂に改質リグニンを注入する真空含浸法で成形するが、揮発性有機化合物(VOC)の発生量は他の樹脂と比べ、極めて低く抑えられている。また、加熱硬化後の収縮率はほぼ0%ということで十分な寸法安定性も確保している。
この改質リグニンを使用した内外装部品を装着するのは、光岡自動車のビュート。改質リグニンを使用した素材は、ドアトリム及びアームレスト、そしてスピーカーボックスに使用されている。外装では、幅1370mm×奥行870mmのフロントボンネットフードとなる。装着された実車ではすでに塗装や内装表皮が貼り付けられている(塗装も問題ない)ため、残念ながら中身を見るとこはできなかった。
世界で初めて実車に取り付け評価試験を行う今回の実証実験車両は、この改質リグニンGFRPパーツを実際に制作した宮城化成が社用車として1年ほどの走行実験を行うこととなる。実際に車両搭載に問題がなければ、採用も広がっていく可能性もある。この改質リグニンによって、中山間地域の活性化、そして環境負荷の低減にもつながることに期待したい。
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