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新連載【トムス吉武エンジニア/レースの分岐点】変化するウエット路面にどう対応するか。開幕ウイナー1号車の戦略

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新連載【トムス吉武エンジニア/レースの分岐点】変化するウエット路面にどう対応するか。開幕ウイナー1号車の戦略

 スーパーGTのGT500クラスで、2023年、2024年とタイトルを連覇し、2025年は3連覇に挑んでいるTGR TEAM au TOM’Sの1号車au TOM’S GR Supra(坪井翔/山下健太)の特別コラムがオートスポーツでスタートします。au TOM’S GR Supraで昨年までトラックエンジニアとして2連覇を飾り、2025年はチーフエンジニアを担当している吉武聡(よしたけさとし)氏が毎戦、レースのターニングポイントとなった部分を中心に振り返ります。

 4月12~13日の開幕戦岡山で1号車は、ドライコンディションのノックアウト予選で2番手、ウエットからドライへと変化する難しいコンディションとなった決勝では見事優勝を飾りました。コラム初回ではレースの分析にくわえて、優勝した1号車の作戦も解説していただきます。

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 autosport web読者のみなさん、こんにちは。TGR TEAM au TOM’Sで1号車au TOM’S GR Supraのチーフエンジニアを担当している吉武といいます。

 まずは今年の自分の役割も含めて、トムスの1号車のエンジニアリング体制を紹介します。今年からはエンジニアが3名体制となり、自分のほかにはトラックエンジニアの伊藤大晴(いとうたいせい)、データエンジニアの海宝教史(かいほうたかし)がいます。

 トラックエンジニアの伊藤がクルマのセットアップやドライバーとのコミュニケーション、レース中の決定事項を担当し、データエンジニアの海宝がいろいろな数値を見ながらトラックエンジニアをサポート、レース中は燃料の計算や給油のカウントもしています。

 そのなかで自分は、チーフエンジニアとして俯瞰してクルマのデータを見つつ、チームメイトの37号車Deloitte TOM'S GR Supra、そしてライバル陣営の状況などを整理して後方支援をしています。開幕戦では、周りのトヨタ/TOYOTA GAZOO Racing(TGR)勢が使っているタイヤの状況や次の戦略について見たり聞いたり、ほかにもTGR-Dからのアドバイスももらったりという感じで、その情報を伊藤エンジニアに伝えています。

 こうした新体制で臨んだ開幕戦は、伊藤エンジニアがよく頑張ってくれました。トラックエンジニアのデビューレースながらも、ウエットからダンプ、そしてドライへとコンディションが目まぐるしく変わっていく難しいレースをうまくまとめてくれたなと感じています。

 今回のレースで一番難しかったポイントは、やはりスタート直前の判断だったと思います。ほとんどのチームがウエットでスタートして途中でドライアップする展開を予想していたと思いますが、『ドライになるタイミングはいつなのか』と『最初の雨の量はどれぐらい降るのか』が読みづらかった。ですので、スタートタイヤのウエットタイヤのコンパウンド選択については、グリッド上で悩んだチームは結構多かったと思います。

 我々1号車は、ミディアムのウエットタイヤでスタートしました。おそらくライバルもほとんどがミディアムで、100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GT(山本尚貴/牧野任祐)はソフトだったのではと推察します。

 そのスタート前のセットアップとウエットタイヤ選択ですが、スタート時点ではウエットコンディションが何周目まで続くのか読みづらく、ミニマム(ドライバー交代が可能なレースの2/3の周回数)の29周以内で乾くか、それとも全然乾かずに第一スティントを引っ張ることになるかの両方が予想されました。

 マシンのセッティングをウエット寄りにするのかドライ寄りにするのかで、レースでのペースやタイヤの保ちが変わってきます。今回のレースではいざ走り出すと、路面は全然乾かず、水が少なくなった路面でウエットタイヤをどれだけ保たせられるかという戦いになりました。ですので、スタート前にそこを見極められるかどうかがポイントだったと思います。

 1号車は、雨量が少ない状況を狙ってタイヤを保たせるためにドライ寄りのウエットセットアップにして、タイヤの内圧も低め、ブレーキの冷却も少しセーブして温度を高めにしました。ウエットへの対応は基本的には車高の変更(雨では高くする)、そしてタイヤの内圧の変更(雨量の多い時を狙う時は高め、雨量の少ない時を狙う時は低め)になりますが、グリッドでアンチロールバーやダンパー、スプリングを交換する場合もあります。

 ですので、今回は水量の多い序盤はきつかったですが、そこはスタート直後の赤旗に助けられた部分もありましたね。逆にスタートで雨よりのセットアップ、そしてウエットタイヤのソフトコンパウンドを選択していたチームは、この赤旗によって雨量の多いチャンスがなくなり、レース再開後は雨量が少なくなってきたこともあってミディアムタイヤ勢が優勢になりました。この序盤の赤旗も今回のレースの大きなポイントになりました。

 前でスタートした14号車(ENEOS X PRIME GR Supra 大嶋和也/福住仁嶺)も同じくウエットのミディアムだったと思いますが、リスタート後に坪井選手が14号車を抜いてトップに立てたことが大きかったですね。そこからのペースや、乾き出してからのタイヤの保ちも良さそうだったので、このままいけば問題ないかなと思って見ていました。

 その後は、ウェットからドライへの切り替えのタイミングを伺っていましたが、29周を超えても一向に乾く気配がない。そうなると、ドライアップまで引っ張りたいけど、SCが入ったらドボン……その葛藤でした。この時、4番手の17号車Astemo CIVIC TYPE R-GT(塚越広大/小出峻)とのギャップが30秒くらいあり、仮に17号車Astemo CIVICがピットに入ってもラップダウンにできる計算でした。(実際46周目に入った#17をラップダウンする事に成功)。この時点でセーフティカー(SC)が入っても3位以上が確定しているような状況になり、勝負ありでしたね。

 これも今回、1号車にとってはキーポイントになりました。3位以下の可能性はほとんど消えたので、あとは後ろの14号車と37号車Deloitte TOM’S GR Supra(笹原右京/ジュリアーノ・アレジ)の動きを見て合わせるという、セオリーどおりの作戦を採ることができました。そしてもちろん、第1スティントの『水を得た坪井選手』のウエットでの別次元の速さ、後半の山下選手の安定した速さも優勝を決めたポイントでしたね。

 さて、次回の富士については、サクセスウエイトが40kgになりますが、サクセスウエイト100kgが上限の燃料リストリクターはまだ入らないので、ストレートスピードもそこまで落ちることもないですし、上位で戦えると言えば戦えるかなという気でいます。

 決勝は開幕戦とは違う3時間レースで長いので、予選で上位を確保できて、レースでコンディションに合わせたクルマ作りと戦略がうまくハマればサクセスウエイトが40kgでも上位フィニッシュできる可能性はあるのかなと思っています。ここでポイントをどれだけ稼げるかによって、チャンピオン争いも変わってきますので、とりあえず3時間きっちり走り切って上位を目指します。


●Profile:吉武聡(よしたけさとし)

福岡県出身、1979年3月23日生まれ。自動車メーカー勤務からTRD(現TGR-D)へ入社し、2013年にトムスへ入社。F3のエンジニアを経て2020年からはスーパーGT500クラスで36号車(現1号車)を担当。2021年、2023年、2024年に王者に輝いた。2025年は1号車のチーフエンジニアを担当し、スーパーフォーミュラ・ライツでは35、36、37、38号車の4台のチーフエンジニアを務めている。

[オートスポーツweb 2025年04月28日]

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