笑顔が似合う気さくな帝王
ケン・ブロックは、さぞかしご機嫌斜めだろう。彼は昨夜、米国からロンドン・ヒースロー空港に飛び、ミルトン・キーンズ・スタジアム内のホテルで仮眠をとったが、そこでサッカーの試合に見入ってしまったそうだ。
【画像】ケン・ブロックとフーニコーン【写真で見る】 全35枚
早朝、筆者がシルバーストン・サーキットに到着すると、彼はすでにパドックにいた。パーカーを着て、キャップとサングラスをかけ、エナジードリンクを片手に「朝の3時みたいな感じだよ」と言う。
普通のレーシングドライバーなら、話をするタイミングではないだろう。しかし、ケン・ブロックは普通とは違う。フードにサングラスをかけ、満面の笑みを浮かべた顔に、銀歯が光っている。たとえ疲れ果てていたとしても、ケン・ブロックなら最高出力800psを超えるドリフトマシンで最高の走りを見せてくれる。
今日は良い一日になりそうだ。
6.7L V8の爆音マシンに乗り込む
彼のマシン「フーニコーン」は、アスファルトの上で重心を移動させてハンドリングバランスを変えやすいよう、ソフトに設定されているという。また、全長が長いので、ブロックが得意とする「四輪駆動によるドリフトやパワースライド」は、穏やかで華麗なものになる。
ブロックはシルバーストンの北コース、ナショナル・サーキットの下見に出た。ストレートから始まり、高速右コーナーのコプスを経てマゴッツ/ベケットに向かい、そこで右に急旋回して低速のブルックランズ/ラフィールド・セクションに戻るという、全長約2.6mのコースだ。
ブルックランズで左に折れた直後の、180度以上ある右コーナー「ラフィールド」が、スライドに最適なセクションだ。つまり、ブロックが左コーナーでスライドを開始し、右コーナーに移行して、出口でどうまとめるか、一連の流れを見ることができるのだ。ここが重要なポイントになる。筆者は息巻いて、彼の助手席に乗り込んだ。
フーニコーンの車重はおそらく1500kgくらいだし、速いだろうということは容易に想像がついた。予想外だったのは音だ。6.7L V8エンジンを8300rpmまで回転させ、857psを発生させるのだから、筆者が愚かだった。ヘルメット越しでも音圧で耳が痛くなるほど、うるさい。
加速も同様に驚かされる。V8は1500rpmくらいでアイドリングするが、ブロックは3000rpmくらいで軽くクラッチを滑らせながら走り出す。それからはクラッチをわずらわせることなく、フラットな状態でギヤをつないでいく。このマシンはクロスカントリー用のギアリングを使っているため、比較的ローギアードで、6速ですぐにリミッターに近づいてしまう。
過激で華麗な唯一無二のドリフト
120dBの爆音の中、人の声など聞き取れないので、ただブロックの操作を見ているだけとなった。彼は左足でブレーキをかけ、ブルックランズの左コーナーに突入する。最初はごく普通のライン取りに見えたが、エイペックスに近づくと少しアウト気味になる。ブレーキを踏みながら、3速にシフトダウンしていく。スピードメーターはないが、80km/hくらいだろうか。
次の瞬間、ブロックは長いハンドブレーキに手を伸ばすと素早く引っ張り、バックエンドが大きく軋んだ。エイペックスを通過するときにサイドウィンドウを見ると、ラフィールドの右コーナーに45度くらいで刺しているのが見える。これまでドリフトやスライドは何度か見てきたが、ブロックはやりすぎてスピンするんじゃないかと思った。
この状態が数秒続き、徐々にアタックアングルが小さくなってきたところで、スロットルを戻してフーニコーンを落ち着かせ、ノーズを立てる。すると、ノーズがグリップし、リヤのスライドが左右の振りに変化した。下手をすると、魚の尻尾のようになりかねない。
ブロックはそれを見事にやってのける。長いコーナーでは、より慎重にスロットルを調整している。フルスロットルだと直進してしまい、スロットルオフだとスピンしてしまう。その2つの間を巧みにキープしながら、カウンターをあてるなどしてステアリングを調節している。タイヤは常に、横方向にも縦方向にもグリップの限界を超えている。
スタートから約10秒後、コーナーから立ち上がり、車体がまっすぐになるまで加速し、そこで初めてブロックの動きが緩やかになる。どう呼ぼうと勝手だが、筆者の目から見れば、これはドリフトであり、これほど上手な人は他にいない。
運転席のブロックは、まだ微笑んでいる。
「フーニコーン」ってどんなクルマ?
ブロックの動画シリーズ『ジムカーナ』は当初、スバル車で撮影されていたが、フォードがスポンサーになるとWRC仕様のフィエスタに移行した。しかし、2015年はマスタング誕生50周年ということで、何か特別なものを作ることに。そこで、彼のチームは2年がかりで、1965年型マスタングをベースに「フーニコーン」を製作した。
ルーフやリアウイングの一部にはオリジナルの面影が残っているが、それ以外はほとんどオーダーメイドである。フルケージで強度を高め、Roush-Yatesの410エンジンがエンジンルームの奥、加工された独立サスペンションの後ろに収まっている。
リアサスペンションも精巧に加工され、シルバーストンを2周するごとに補給が必要な燃料タンクの近くに設置されている。プロペラシャフトとハーフシャフトはすべて特注品で、ダカールラリー用として設計されたサデヴ製6速トランスミッションをホイールに組み込んでいる。
ホイールは19インチで、ピレリのPゼロ・トロフェオRタイヤを装着。ピレリはドリフト用タイヤの製造を行っていないが、ケン・ブロックには標準タイヤよりも硬いタイヤを供給している。
ラリーへの挑戦
ロングビーチでスケートボードとともに育ったケン・ブロックは、コリン・マクレーに誘われてラリーに出会った。
「ラリーはいつもテレビで観ていたし、特にコリンは好きだった。やってみたら、自分にはちょっとした素質があることがわかったんだ」とブロックは言う。
ブロックが競技を始めたのは30代に入ってからだが、米国での個人ラリーで何度も優勝し、世界ラリー選手権でも好成績を収めている。しかし、彼の仕事の性質上、米国ラリーやWRCに一点集中的に挑むことはできない。
「スポンサーは僕にいろいろなことをやらせたがっているんだ。昨年(2014年)はグローバルとワールド・ラリークロス、米国ラリー、WRCを走ったし、僕のジムカーナグリッドやジムカーナ7もやった」
「1つのことに集中するのもいいだろうし、米国ラリーでの優勝は、競技をやめる前にぜひやってみたいことだ」
※本記事は2015年に英AUTOCAR誌で掲載されたものを翻訳・編集したものである。
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