見事な方向転換を決めたクラウンビクトリア
その日、メイングループと別れて、筆者は西へ向かうことにした。目指すのは、ネバダ州とカリフォルニア州をまたぐデスバレー国立公園。ラスベガスは通り過ぎた。アメリカらしく、まっすぐ地平線の向こうへ道が伸びている。
【画像】愛おしい1台との別れ アウディR8 V10パフォーマンス RWD RS6とRS4 兄弟のランボ・ウラカンも 全119枚
不意に、パトカーが反対側から接近してくる。得もいわれぬ、嫌な気持ちに襲われる。速いクルマに乗っていて、交通量の少ない道に出くわしたら、何かから逃れるように本能的にスピードを出したくなるものだ。しかも、筆者は今より若かった。
その前日、ホテルのロビーでスタッフから忠告を受けていたのを思い出す。この付近のパトカーには、対向車のスピードを計測できるドライブレコーダーが搭載されているから、充分に気をつけた方が良いと。
「クソッ」と口から汚い言葉が漏れるのとほぼ同時に、パトカーとかなりの相対速度ですれ違う。助手席の同僚は、ドアミラーで後方の様子を確認する。筆者も否応なしに、アクセルペダルを緩めながらバックミラーを覗き込む。
充分な道幅があったとはいえ、フォード・クラウンビクトリアは、今まで見たこともない速度からの華麗なハンドブレーキ・ターンを披露した。保安官は即座にニュートラルを選択し、ステアリングホイールを切りながらブレーキレバーを引いたのだろう。
見事な方向転換を決めた後、アクセルペダルが勢いよく踏まれたのがわかる。加速と同時に、サイレンとパトライトがオンになったことにも感心してしまった。間違いなくベテランの仕事だ。他人事のようだが。
自分がこれまで見たクルマで最も美しい
ロックオンされた筆者は、素直にクルマを路肩へ停める。パトカーが後ろに停まり、保安官がゆっくり降りてくる。ガッチリとした体格で、帽子を被っている。筆者はサイドウインドウを開き、クルマから降りず待つことにした。
「どうしたんですか、お巡りさん」。そう聞こうかと思ったが、やめておいた。
保安官は、観察するようにクルマを一周する。筆者は身も心も縮み上がっている。ガラス張りのリアハッチ越しに、4.2L自然吸気V8エンジンをじっくり眺めている。不思議な、緊張した時間が流れる。
「この道で、ここまで速く走っている人と会うのは久しぶりですよ」。保安官が皮肉を込めて口を開く。
「少し急いでいたかもしれませんね」。とわたしは答えた。
保安官は、「ろくでもないヤツだな」と毒を吐かなかったものの、そう思っていることは表情から感じ取れた。どの町から、どこを目指して走っていたのか質問される。
正直に答えると、「このクルマは一体何ですか?」。と、少し雰囲気を変えて尋ねてきた。「新しいアウディR8です」。「え、アウディ?」。もの珍しそうに聞き返される。
「最新のアウディです。ミドシップエンジンで、かなり速い・・」といいかけたところで止めたが、保安官は「わかります。速かったですね」と付け加えた。
さらに、「いつ以来かはわかりませんが、自分がこれまで見たクルマの中で最も美しい」。と表情を緩める。暗闇が広がっていた筆者の心に、明るい光が差し込む。
スピード違反チケットを戻すくらい素晴らしい
「助手席に座ってみますか? ご希望でしたら、少し一緒に走りませんか?」。と思いきって提案してみた。彼が葛藤しているのがわかる。少し間をおいて、立場的には正しい回答が返ってきた。「お断りしておきます。ありがとう」
「出発して構いません。ネバダ州へもう一度戻れるように、スピードには気をつけてください。事故が多いとはいえませんが、小さなものでは済みませんから」
アウディR8のスタイリングは、カリフォルニアのハイウェイ・パトロールがスピード違反のチケットをポケットへ戻すくらい、素晴らしいものだったようだ。2007年の出来事だった。
初代アウディR8は、その後のAUTOCARの年末恒例企画、ベストドライバーズカー選手権で見事に優勝を掴んだ。2007年の審査員全員が、他のモデルを選ぶことはなかった。
それから16年が過ぎ、筆者は少し大人になった。R8も成長し、2代目へ生まれ変わっている。寿命が近づいているのは、後者の方だけであって欲しい。
グレートブリテン島の南西部、南ウェールズ州のワインディングを、流れるように真新しいR8が駆けていく。少し特別な空間と時間が、これまでの印象深かった体験を自然と蘇らせるようだ。
もうすぐR8の生産は終了し、永久に新車では手に入らなくなるだろう。愛おしいモデルとのお別れは、いつも悲しい。歴代すべてのR8が、鮮明な印象を残したわけではないとしても。
この続きは、アウディR8 V10パフォーマンス RWD 愛おしい1台との別れ(2)にて。
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ネット社会になってからせせこましい精神の持ち主が増えた。