エンジン変更や2ペダルの設定で話題となった
「4G63ファイナル」こう銘を打ったキャンペーンとともに終了したのが、第3世代の三菱ランサー・エボリューション(以下:ランエボ)。1992年の発売から2007年まで、人気と話題と時に議論を巻き起こした名車が生まれ変わった。それが2007年発売開始のエボリューションX(以下:エボX)で、新開発の2ペダルATのツインクラッチSST(スポーツ・シフト・トランスミッション)と5速MTを用意した、意欲的なモデルだ。
電動化してでも後継モデルが見たい! こだわりの四駆制御や2ペダル化など進化し続けた「ランエボ」の軌跡
ボディはエボ9と大きくは変わっていない
外観はすでにWRC(世界ラリー選手権)からは撤退していたため、競技というよりはスポーツセダンとしてのスタイルを追求(競技向けのRSの設定はあった)。ベースとなったのはギャラン・フォルティスである。当時の三菱のデザインアイコン、ジェットファイターグリルと呼ばれる逆スラントノーズを持ち、ブラックアウトされたバンパー部分もあいまって、大口径の台形グリルが印象的なスタイリングだ。逆スラントノーズと言えば8代目のギャランが採用しており(6代目も雰囲気はある)、ある意味伝統を活かした形といえる。
エンジンフードとフロントフェンダーにはエアアウトレットを備え、ターボ用のエアスクープを設ける。そして張り出した前後のフェンダーもランエボらしさを残しており、骨格にアルミ合金を用いたリヤウイングは、両端と中央では迎え角を変えた形状を採用している。
全長4495×全幅1810×全高1480mm、ホイールベース2650mmというサイズだが、先代比で全長は+5mm、全幅は+40mm、ホイールベース+25mm、トレッドは+30mmの1545mmと、じつはそれほど大きくなってはいない。
新開発のエンジンはパワーと環境性能を両立
新開発の「4B11」型MIVECツインスクロールターボエンジンは、従来の鋳鉄からアルミ合金製のシリンダーブロックとヘッドを採用したことで12.5kg軽量化。過激なチューニングには向かないものの、最高出力280ps/6500rpm、最大トルク422N・m/3500rpmとトルクがいちだんと分厚くなり、環境性能が高められている。
ちなみにMIVECは吸排気両方に備わり(従来は吸気側のみ)、ロッカーアームから全バルブをカムダイレクトドライブ式に変更。吸気ポートは等長アルミ合金製に、排気側ではステンレス製のマニホールドとチタン+アルミ合金のターボを設置(インコネル+アルミ合金はオプション)。排気マニホールドとターボとマフラーの間が短くなったことで、EGRを用いなくても平成17年排ガス基準の50%低減レベル(☆☆☆)を達成している。
それを支えるのは従来とは逆の前方吸気後方排気となったことで、エンジンの搭載位置は10mmほど低くなり運動性能に貢献。さらにフロントオーバーハングが先代比でー20mmとなるなど、さまざまなメリットを発揮した。
新設定となったDCTでGT性能も高まった
すべてのギヤでトリプル&ダブルシンクロを採用した新開発5速MTに加えて、注目のツインクラッチSSTが新設定された。現在ではすっかりおなじみだが奇数と偶数のギヤに分けてクラッチを設けることからツインクラッチの名がつけられており、2、4、6速の偶数段と1、3、5速の奇数段、それぞれ3軸の3速MT構造をふたつ並列に組み合わせ、ひとつの出力軸へ駆動力を伝達する構造である。クラッチは大トルクに対応するため湿式多板式で、Dレンジでは普通のATとして走ることができる。
そしてモード切り替えでノーマル/スポーツ/スーパースポーツがセレクトでき、市街地から時にはサーキットまでシフト操作を気にすることなく走りが楽しめる。もちろんマニュアルモードを選べば右がアップシフト、左がダウンシフトのパドル操作でレーシングカーのように走れるほか、Dレンジでもパドル操作は反応するので、下り坂や高速道路でもう少しエンジンブレーキを効かせたいなどの場面で重宝する。
電子制御もさらに進化を遂げている
注目の電子デバイスはS-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)と名づけられた。1987年に登場した、WRCでも活躍のギャランVR-4のアクティブ4に始まり、1996年にAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)、2001年にアクティブ・センター・デファレンシャル(ACD)+AYCへと進化を続けてきた。その延長線上にS-AWCがあり、この時代の三菱の電子制御の集大成というわけだ。
その内容は、ACDが前後輪の作動制限と操舵応答性、トラクションを高めるシステムで、AYCが後輪の左右のトルク差を制御して旋回性能とトラクションを向上するシステム。そして、ASCの四輪ブレーキ制御とエンジンの出力制御で車両を安定させる制御とABSを統合している。これらをまとめてコントロールすることで、走り曲がる止まるを高次元で達成させるシステムであり、スムースに走りのサポートができるようになっている。
パワフルなエンジンと電子制御を生かすためボディも補強
それを支えるボディは全方位の衝突安全のためにさまざまなメンバーの形状を見直したほか、従来同様のアルミ合金製フェンダーに加えてルーフやバンパービームなどもアルミ合金製として軽量化を図り、高張力鋼板も採用。さらにバッテリーをトランクルームに移し、前後の重量配分の改善につなげている。スポット打点も増えており、ギャラン・フォルティスとは別のボディといっていい内容だ。
サスペンションはフロントがストラット式、リヤがマルチリンク式と特徴は見られないが、全面刷新となっている。クロスメンバーの高剛性化、ハブベアリングの大型化、リヤのトレーリングリンクとアッパー及びロアアームの支持点をピロボールブッシュとしたことで、キャンバー剛性で約56%、トー剛性で約53%も向上した。
フロントのダンパーは倒立式に、リヤのダンパーとスプリングはナックルにマウントすることで、サスペンションのレバー比を減少させ、ストロークに対する効率を高めた。リヤの非線形特性スプリングは、接地性を高めてしなやかなストローク感を取得。サスペンションが正確に動くので、電子デバイスもより性能が発揮できるようになっている。ちなみにオプションでビルシュタイン社製ダンパーとアイバッハ社製のスプリングも選べる。
専用開発のブレーキは標準でブレンボ社製が備わるが、オプションではさらに高性能なブレンボ社製の2ピース仕様が備わり、単体で1.3kgも軽量となるなど走りへのこだわりはすごい。ホイールもRSは16インチながらアルミ合金製、GSRは2種類の18インチを用意する。標準でも軽量なエンケイ社製ホイールに加えて、BBS社製を選択すると4本で約3.7kgも軽量となり、大径となったホイールの重量を相殺。第4世代となってもランエボはランエボだといえる、三菱のランエボに対する想いを感じられる内容だ。
苦しい時代に誕生したまさに不遇の名車だ
ランエボXはWRCに参戦していないことに加え、当時の三菱の企業としての状況、そして年々高まっていた環境への配慮など、さまざまな状況が相まって、複雑な時代に販売された。それでも改良幅の多い最後のファイナルエディションの名前がランサー・エボリューションXIだったら、と思ってしまう。そうであればランエボXはもっと日の当たる、話題のクルマとなったであろう。
ランエボXは、ランエボのおよそ23年の歴史で十分にランエボの名に相応しい、素晴らしいマシンだったと思っている。
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