淘汰される独自規格
日本のキャッシュレス決済を語るうえで、「おらが町の交通系ICカード」の存在は無視できない。SuicaやPASMOといった全国共通カードではなく、地域の交通事業者が発行するローカル仕様のカードだ。本稿では、それらを便宜上「地域カード」と呼ぶ。
【画像】マジ!?(汗) これが45年前の「広島駅」です! 画像で見る!(計10枚)
地元での移動や買い物に限れば、地域カード1枚で十分対応できる。私鉄、路線バス、商店での支払いに使え、独自の割引特典が用意されている場合も多い。住民にとっては、日々の生活を支えるインフラになっている。
しかし近年、この地域カードが全国ブランドの交通系ICに押され、次々とサービスを終了するケースが出てきた。
広島県「PASPY」のサービス終了
広島県内の交通事業者が参画していた地域カード「PASPY(パスピー)」。2008(平成20)年から地域の交通インフラに組み込まれていたが、2025年3月、ついにサービス終了を迎えた。
もともとPASPYは、磁気式プリペイドカード「バスカード」の後継として登場した。しかし、導入から15年以上が経過し、端末機器の老朽化は避けられなかった。加えて、機器やシステムの更新には多額のコストがかかる。さらに、PASPYは全国交通系ICカードに非対応という弱点も抱えていた。
こうした要因が重なり、地域住民に惜しまれつつも、PASPYはその役割を終えることとなった。
現在、広島県内の鉄道やバスでは、全国交通系ICカードに対応した機器への切り替えが完了している。だが、その導入過程で想定以上の混乱が生じている。
シームレス化の課題
広島電鉄の電車と路線バスでは、機器の交換とともに乗車方式が大きく変わった。これに利用者が戸惑う事例が相次いだ。新しい乗車方法は
「紙の整理券」
を使う仕組みである。広島電鉄の路線バス(広電バス)では、乗車時に整理券を取る必要がある。ICカードをかざす場面はなく、降車時に整理券を料金箱に入れる。その後、ドライバーが機器に運賃を手入力し、利用者が全国交通系ICカードで決済する。
実質的には、従来の現金支払いをICカードに置き換えただけの構造だ。キャッシュレス決済の特徴であるシームレスな通過は実現されていない。
同じ広島電鉄でも、電車での混乱は少ない。運賃が大人240円、子ども120円の一律料金だからだ。一方、バスは区間制であり、乗車・降車の両方でICカードをタッチしなければ正確な運賃が算出できない。
また、広島市内では広島バスも路線を担うが、こちらは乗降時の2回タッチで決済が完了する仕組みを導入済みである。この仕様の違いも、利用者にとって混乱の一因となっている。
新決済「Mobiry Days」導入の課題
実はこれに並行して、広島電鉄は新たなキャッシュレス決済手段「Mobiry Days」を導入している。
これは、同社がNECとレシップ(岐阜県本巣市)と共同で開発した決済システムだ。専用のICカードのほか、スマホアプリに表示されたQRコードを使う方法もある。残高はアプリを通じてクレジットカードや銀行口座からチャージでき、定期券購入機能も備えている。機能面では、全国交通系ICカードを凌駕するといえるだろう。
しかし、現時点でMobiry Daysには
「車内での現金チャージ」
ができないという欠点がある。これは、PASPYにはあった機能で、スマホ操作に不慣れな人にとっては、ドライバーに現金でチャージしてもらう方が便利だ。
さらに、Mobiry Daysは広電バスでは利用できるが、広島バスでは一部路線のみ対応している。そのため、広電バスと広島バスで決済手段を使い分ける必要がある。
ICカード改修、地方財政に重圧
広島電鉄が講じる対策として、Mobiry Daysの車内チャージ機能の導入は2025年8月に予定されている。また、全国交通系ICカード対応のため、専用端末の改修も進めており、これによりICカードの読み取りが可能になる方向だ。
しかし、この改修が全車両で完了するには、現時点で不透明な要素が多く残る。端末の改修が低コストで行えるのか、さらには既存の利用者層にどれほどの影響を与えるかについては、慎重な分析が必要だ。
広島電鉄のこの対応策は一見、利便性の向上を目指すように思えるが、実際には将来的な負担や混乱を考慮に入れた長期的なビジョンが必要だ。例えば、システム改修を行う際に想定外のコストが発生した場合、それをどのように賄うのかが大きな問題となる。
現在、全国交通系ICカードの導入に伴う設備投資は、地方自治体にとって一大プロジェクトであり、その予算配分の見直しが求められる。補助金の振り分けに関しては、自治体の財政的な限界を考慮した場合、特に都市間競争を加速させる可能性がある。
このような状況において、広島電鉄のような地方交通事業者は、単に目の前の問題に対応するだけではなく、広域的な視点で見た場合のメリット・デメリットを十分に考慮した意思決定が求められる。全国的にみても、キャッシュレス決済の普及は今後ますます進展することが予測されており、地方交通事業者の競争力が問われる局面に突入している。
例えば、広島電鉄が新たに導入する決済方法が他地域に比べて優れたものであれば、それ自体が地域振興につながる可能性もある。しかし、それには迅速かつ効率的に実装できるシステムが不可欠だ。
特に、現行の設備に対する改修費用や新たなシステム導入にかかるコストが、地域の経済環境に及ぼす影響を無視することはできない。広島市のような地方自治体がこのような問題に直面した場合、行政は税収や補助金の配分をどのように調整するのか、その選択が今後の交通サービスの持続可能性に大きな影響を及ぼすことになる。
初期投資と回収難の二重苦
ここで注目すべきは、交通事業者と自治体が抱える
・維持コスト
・投資回収
という二重のジレンマだ。全国交通系ICカードに切り替えれば、長期的には利用者の利便性向上が見込まれるが、その導入に必要な初期投資は容易に回収できるわけではない。
一方で、地域特有のサービスに依存する選択肢を維持し続ける場合、公共交通の持続的な運営が難しくなる可能性が高い。このジレンマにおいて、経済的な合理性だけではなく、地域住民の意向や地域経済への影響も踏まえた慎重な判断が求められる。
加えて、広島電鉄が導入しようとしている新しい決済システム「Mobiry Days」は、全国交通系ICカードを凌駕する機能性を持っているものの、まだ普及段階にある。普及のスピードとその浸透率が鍵となるが、その過程で予想外の障壁が発生する可能性がある。
例えば、交通事業者が一方的にシステムを導入しても、利用者側にとってその利便性を実感できなければ、普及が進まないという問題が生じるだろう。また、広島電鉄が抱える課題のひとつは、地域住民が既存のカードシステムに慣れ親しんでいることだ。そのため、急激な変革が逆に混乱を招く可能性もある。
このような背景を踏まえると、広島電鉄が選択すべき最適解は、システム改修のコスト削減に留まらず、利用者の実際のニーズに応じた段階的な導入戦略を採ることにある。例えば、初期段階では新システムと既存のシステムを並行して使用することで、利用者の負担を軽減しつつ、新しい決済方法の浸透を図るといったアプローチが考えられる。
また、地方自治体がどのように財政的な支援を行うかも重要で、限られた資源をどのように投じるかによって、地域の競争力が大きく変わるだろう。
広島を含む地方自治体が抱えるキャッシュレス決済の未来への選択は、単なる短期的な便益を超えて、地域経済の長期的な競争力に直結する。地方自治体の選択が、今後の公共交通のあり方を大きく左右することは間違いなく、地域住民の利便性や自治体の財政をいかにバランスよく考慮するかが、重要な課題となるだろう。
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みんなのコメント
広島電鉄と広島銀行の利権
ICOCAを支持します。
広電の幹部が時代遅れな思想しか持ってない。
混乱が生じているのは周知に時間がかかるからなんて言ってる始末
せっかく広島駅と接続が良くなるのに
現場の運転手や窓口対応の社員の方々気の毒で仕方ない