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豪雨が味方した1995年のル・マン マクラーレンF1 GTR(2) 優勝車の興味深い余談とは?

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豪雨が味方した1995年のル・マン マクラーレンF1 GTR(2) 優勝車の興味深い余談とは?

史上最も雨に降られた1995年のル・マン

1995年のル・マン24時間レース。第63回を数えた耐久戦は、史上最も雨に降られた1戦になった。しかし、これがマクラーレン勢にチャンスを与えた。以前から弱点とされていた、トランスミッションの負荷を抑えられたからだ。

【画像】老舗百貨店がスポンサー マクラーレンF1 GTR P1とセナのGTR 1995年の優勝車59番も 全102枚

プロトタイプマシンのライバルに、トラブルが続出したことも追い風になった。期待されたクレマー・ポルシェは雨に苦戦し、スプリングとダンパーの交換に迫られた。夜間のサルト・サーキットは、燦々たるコンディションだったようだ。

ハロッズのF1 GTR、51号車を駆ったデレック・ベル氏が振り返る。「本当に酷かった。すべてのマシンがスピンした場所もあったかな」。彼は、ドライバーで息子のジャスティン・ベル氏と、アンディ・ウォレス氏に説得され、参戦を決意していた。

「ドライバー交代で、息子のジャスティンはアドバイスが欲しそうな目で自分を見たんです。ミュルザンヌ・コーナーは少し滑りやすいよと、伝えました。それでも不安そうでした。息子と二度と会えないんじゃないか、心配になったほど」

国際開発レーシングへ有利に傾いたレース

13グリッドでスタートしたハロッズのF1 GTRは、大雨の中、2時間後にトップへ。日が暮れると、同じくデビッド・プライス・レーシング(DPR)が擁する、ウエスト・コンペティションのF1 GTRがリード。しかし、クラッチトラブルで幕切れとなる。

深夜には51号車と、JJレート氏にヤニック・ダルマス氏、関谷正徳氏が駆る、国際開発レーシングのF1 GTR、59号車がレースを牽引。特に59号車は、ナイトスティントで驚きの速さを見せた。

ウォレスが振り返る。「デレックさんは、勝てるチャンスが有ればギアを1段上げることができました。素晴らしい走りでしたね」

ところが日曜日のお昼が迫った頃、ハロッズのF1 GTRにもクラッチトラブルが発生してしまう。チームは、不調を覚悟していた。最終的に、レースは国際開発レーシングへ有利に傾いていった。ジワジワと。

最後の数時間は5速と6速だけで走った

この3日前の金曜日、マクラーレンF1のデザイナー、ピーター・スティーブンス氏は、クラッチの部品を探すために費やした。技術面でも大きく貢献していた彼は、強化クラッチの圧力が高く、割れてしまうベアリングの対応に追われていた。

オリジナルのクラッチへ戻すことも、DPR側は考えたらしい。だが、新しいクラッチの調達は難しいというのが、マクラーレンの返答だったようだ。

レース終盤を迎える頃には、デレックは変速へ苦労していた。最終的には、フォード・シケインで故障。国際開発レーシングのF1 GTRと、アンドレッティが駆るクラージュ・ポルシェC34に抜かれるものの、51号車は3位フィニッシュを果たした。

デレックの話では、最後の数時間は5速と6速だけで走ったという。それでも、初参戦となったF1 GTRは、国際開発レーシングの59号車によって歴史的な総合優勝を飾った。

古い仕様のベアリングが組まれていた優勝車

ただし、物議を醸す結果でもあった。マクラーレンはDPRとは別にワークスカーを走らせていると、公道用のF1を申し込んでいた1人、レイ・ベルム氏が発言したからだ。

国際開発レーシングのチームが、どの程度ワークス態勢だったのかという答えは、今でも出ていない。少なくとも、マクラーレン側がチーム・ドライバーを起用し、マシンの所有権を握っていたことは事実だ。

他方レース本番では、国際開発レーシングの騒然とするピットから、マクラーレンの主要スタッフが追い出されていたことも事実。リーダーのポール・ランザンテ氏は、発言者が多すぎると判断したらしい。

これには、興味深い余談がある。優勝したF1 GTRには、クラッチトラブルを予見し、古い仕様のレリーズベアリングが装備されていた。替えが、1つだけ存在していたのだ。それはマニクール・サーキットで、22時間使い込まれた部品だったという。

番外編:公道仕様へ変更されたハロッズのF1 GTR

1995年を戦ったイエローのマクラーレンF1 GTRは、フランスのル・マン24時間博物館で現在展示されている。ただし、デレック・ベル氏とアンディ・ウォレス氏、オリヴィエ・グルイヤール氏の3人で6位入賞を果たした、1996年仕様で仕立ててあるが。

シャシー番号06RのF1 GTRは、1997年からはFIA GT選手権に参戦。ドイツのマーティン・ヴェイル・レーシングチームが走らせたが、成功を収めることなく、シーズン半ばで引退している。

その後、DPRによってレストアされ、1997年にデビッド・クラーク氏が購入。2005年に公道走行できる状態へ改造され、ジョン・ハント氏へ売却された。現在は、ル・マンで2度クラス優勝を遂げた、フランソワ・ペロド氏がオーナーだ。

執筆:ゲイリー・ワトキンス(Gary Watkins)
画像提供:マクラーレン

文:AUTOCAR JAPAN AUTOCAR JAPAN
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