自分の生活が裕福かどうかというのは価値観の問題で安易に計ることはできないが、住んでいる街が裕福かどうかを表す数値は存在する。今回はそんな日本有数の「裕福な村」を走るコミュニティバスに乗車したのでレポートする。
文/写真:東出真
【画像ギャラリー】ハイデッカーなコミュニティバスが高速道路を走る?日本一お金持ちの村に行ってきた!(15枚)
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
(詳細写真は記事末尾の画像ギャラリーからご覧いただくか、写真付き記事はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBでご覧ください)
■充実し過ぎるコミュニティバス
今回の出発地は愛知県海部郡蟹江町の近鉄蟹江駅である。名古屋から近鉄電車で約8分、急行だと最初の停車駅である。駅としての規模はそれほど大きいわけではないが、駅前には商店街が広がり往来は多い。駅の北西部には尾張温泉があり夏の大相撲名古屋場所が始まると、町内の龍照院が高砂部屋の宿舎になっていることもあり賑やかになる。
そんな駅前に出てみると路線バスが停車していた。これが今回乗車する「飛島公共交通バス」、通称「飛島バス」である。「飛島バス」は蟹江町の隣、飛島村が運営するコミュニティバスで、運行は三重交通が行っている。
近鉄蟹江駅から村内を巡り、南側にある公民館分館までを結ぶ蟹江線と、公民館分館から工業団地内を巡回し名古屋港駅までを結ぶ名港線の2路線がある。また2路線でも工業団地内を経由する便もあり経由地により運賃も異なる。
蟹江線は公民館分館までの区間は1乗車200円、その先の工業団地まで乗車すると400円である。バス停の時刻表を見るとパターンダイヤで、平日は1時間に2~3本、土日祝日は1本運行されている。また運行されている時間帯も朝6時台~23時台までと、とてもコミュニティバスの時刻表とは思えないほどだ。
そしてバス停は飛島バス専用デザインで、車両はほぼ三重交通の車両であった。前面と後部に「飛島バス」という表示があるほかは運賃の支払いも、交通系ICが利用できるなど三重交通の路線バスの規格と揃えているようだ。
■タクシーかバスしか移動手段がない?
停車していたバスに乗車し、しばらく待っていると扉が閉まりバスは動き出した。平日の午後という時間であったが10人弱の乗車があったであろうか。飛島村には鉄道路線がなく公共交通としてはタクシーか飛島バスしかないので需要も高いのだろう。
蟹江町内をしばらく走行すると徐々に海の方へと走行していく。日光川にかかる日光大橋を渡ると弥富市へと入る。その後も南下すると「神戸山」バス停までやってきた。ここからが飛島村である。ここからは降車があり何度も停車するが乗車する人はいないようだった。
そして近鉄蟹江駅を出て20分ほど、「飛島村役場」バス停で一旦下車した。ここは降車する人が一番多く、ほとんどがここで降りていった。徒歩でバス停を離れる人や、停めてあった車や自転車などに乗り換えていく人など様々だ。少しの停車の後、バスは終点の公民館分館へと向けて走っていった。
■日本一金持ちな村?
バス停の向こうにあるのが飛島村役場だ。案内看板を見ると隣にあるのが体育館や公民館、ホールや郷土資料室ということだったが、これがまた村役場とは思えないほど立派な建物だ。それもそのはずで、飛島村は「日本一裕福な村」として知られるのである。
そもそも飛島村は1889年(明治22年)10月1日に飛島新田、政成新田、服岡新田が合併して海西郡飛島村が発足した。この頃は新田を作るべく海を干拓して土地を確保することが行われており、村の全体が干拓や埋め立てによってできた。稲作を主とする農村風景が広がる村であったがそれだけに当時は財政力に乏しい、貧しい村であったそうだ。
それが一変したのが1959年(昭和34年)にこの地方を襲った伊勢湾台風である。村のほぼ全域が海抜ゼロメートル地帯であったことから大半が水没し、大きな被害が出た。その後、湾岸地域に臨海工業地帯の建設が計画され、1962年から1981年にかけて伊勢湾岸の埋め立てが行われた。
1968年には33万平方メートルの貯木場が、臨海工業地帯には輸送関連会社・倉庫会社・木材関連事業所・鉄鋼関連事業所・火力発電所などが立地され、今では名古屋港の物流の重要な地域となっている。これが飛島村に莫大な固定資産税収入をもたらし、次第に裕福な村へと変化していった。
ちなみに2024年度の決算によると歳入額は約63億9700万円で、うち固定資産税は約33億4700万円と半分を占めている。同年度の財政力指数は1.99であり、もちろん日本最高値である。過去には2.21という指数だった年もあり「日本一の金持ち村」として取り上げられることもあるほどだ。
■工場地帯の中のパワースポット
そんな役場庁舎を横目に、次のバスが来るまでの間に近くにあるパワースポットに参詣した。徒歩で8分ほどで着いたのは飛島善光寺である。その名の通り長野県にある信州善光寺を通じて御分身仏を勧請し、1905年(明治38年)に飛島善光寺本堂が建立された。
飛島善光寺の御本尊「一光三尊阿弥陀如来」は、信州善光寺の御分身として安置されている。古来より「一度の参拝で必ず往生できる」との御利益が伝えられ、人々の深い信仰を集めてきたという。
全体を見てみるとサイズはもちろん違うが信州善光寺の本堂に似たような形をしている。周りには人もおらず、庭の手入れをしている人がいるくらいで静かな境内であった。ゆっくりとお参りし再びバス停まで戻ることにした。
飛島村役場に戻るとちょうど次のバスがやってきた。今度のバスも三重交通カラーの車両だ。蟹江線という路線名はあるものの、系統番号があるわけではないので前面に表示された「公民館分館」という大きな文字に少々驚きと新鮮さを感じる。
乗車すると今度はすぐバスは走り出した。途中道路上で飛島バス専用カラーリングの路線バスとすれ違い、あとはのどかな風景が続くところをバスは進んでいく。飛島村役場を出て約15分ほどでこの蟹江線の終点「公民館分館」バス停に到着した。
ここまで乗車したのは筆者1人であったので降車を確認したらバスはすぐ転回して敷地端に沿うように停車した。公民館分館という場所なので飛島村の施設があるのだが道路向かいに立地しているのと、木々が植栽されているのでどこにあるのかぱっと見は分からない。
そして周辺の景色もここに来ると一変し、工場が立ち並び道路には大きなトレーラーやトラック、大型フォークリフトが行き交う工業地帯という風景になる。これもまた飛島村の風景で、この臨海工業地帯には多くの企業が立地しており多くの人が働いている。
飛島村の人口は2026年4月1日現在4,670人であるが、昼間の人口はこの3倍近くに膨れ上がる。この従業員などの輸送を担っているのが次に乗車する名港線である。
■コミュニティバスが高速道路を走る?
先ほど乗車した蟹江線とは違った側面を持つ名港線は公民館分館から臨海工業地帯を巡り、名古屋市にある名古屋港駅までを結ぶ路線バスである。名古屋市へは飛島インターより伊勢湾岸自動車道を通るルートとなっており、高速道路を走るコミュニティバスなのだ。
次の名港中央インターで降りて名古屋市港区内を走行し、途中あおなみ線と接続している稲永駅や、地下鉄と接続している築地口、名古屋港に停車するので名古屋駅や金山駅方向にも移動可能と利便性もいいようだ。平日は27本、土日祝日は17本が運行され約30分で結んでいる。
10分ほど待つと名港線のバスがやってきた。高速道路を通るので使われているバスは高速車だ。村が運営するコミュニティバスという形で見ると豪華な車両である。そして先ほどすれ違った路線バスと同様、このバスも飛島バス専用のカラーリングとなっている。
全体がライトグリーンで黄、ピンク、青のラインが描かれた車体で運行事業者である三重交通の文字と前面にはマークも確認できる。もちろん三重交通としてこの車両で運行しているのはここだけなので違和感はある。バスはしばらく臨海工業地帯を進んだあと他のトラックなどに紛れ込むように飛島インターから伊勢湾岸自動車道へと入った。
工場が並ぶため何かが写り込むと機密にも関わるからだろうか、乗車時に厳しく撮影について注意されたため車内での撮影はできなかったが、伊勢湾岸自動車道に架かる名港西大橋から見渡す名古屋港や遠くに見える名古屋駅周辺の高層ビル群はとても素晴らしい風景であるので、乗車する価値はあるだろう。ちなみに名古屋港から飛島村へ向かう下り線だと、すぐ眼下に金城ふ頭にあるレゴランドを見下ろすことができるので見逃し注意だ。
筆者は終点手前の「稲永駅」バス停で下車した。あおなみ線に乗り換え名古屋駅に向かうことができるからなのか、乗車していた半数ほどが下車したようだった。なお運賃は1乗車500円で、支払いは現金のほか交通系ICカードも利用できる。臨海工業地帯内での下車の場合は1乗車200円だ。降車が済むとバス停を離れ、名古屋港を目指して走っていった。
■ハイデッカーなコミュニティバスは乗るべき!
今回は愛知県飛島村を走る「飛島バス」についてお届けした。「日本一裕福な村」として知られる村営のコミュニティバスはどのようなものかと乗車したが、専用カラーリングの車両があり、運行ダイヤも朝から夜までと本数も多く、他の市町村のそれと比較できないほど充実した交通機関だと感じた。
それはもちろん村内に鉄道路線がなく、バスが唯一の手段なのは確かだが、それだけの理由でこれほどの本数を走らせることができるのは住民サービスの極みだろう。10月からはデジタル定期券とデジタル回数券も導入されるようで、さらに利便性の向上が図られる予定だ。
のどかな田園風景が広がる蟹江線、工業地域と名港西大橋からの名古屋市内を望むことができる名港線という違った風景を体験しに飛島村を訪れてもらいたい。ちなみに飛島村はほぼ全域が干拓と埋め立てによってできているためほぼ平坦で、いわゆる「坂」のない街としても有名だ。ウォーキングにもってこいだが、道路状態もよくバスの揺れが少ないような気がしたので乗車して確認していただきたい。
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みんなのコメント
もしかすると思っているより飛島村は愛知県との結びつきは薄いのかもしれない