2018年7月にデビューした、乗用車登録のジムニーがジムニーシエラだ。現在の国産車では唯一無二のオフロード性能を持つこの小型クロカン4駆とともに今回は、数日間過ごしてみた。(Motor Magazine 2019年11月号より)
ボディ本体サイズは軽のジムニーと同じ
2018年7月に「20年ぶりのフルモデルチェンジ」が注目されたジムニーシリーズ。今回は、1.5Lエンジンを搭載したジムニーシエラ(以下、シエラ)の4速AT車を試した。
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まず、シエラについて少し解説する。軽自動車のジムニーに対して全長は+155mm、全幅は+170mm、全高は+5mmと大きい。これらのサイズ変更はトレッドの拡大に合わせて装備されたフェンダーや大型化されたバンパーによるもので、スチール製のボディ本体のサイズはジムニーと共通だ。
したがって、車内寸法はジムニーとシエラはほぼ変わらない。ちなみにトレッドはジムニーよりもフロント+120mm、リア+130mmずつ拡大されている。
現行型になりシャシは大きく進化した。歴代モデルで引き継がれているラダーフレームには2本のクロスメンバーとひとつのXメンバーが追加され、ねじり剛性が従来の約1.5倍にアップ。フレームとボディをつなぐボディマウントゴムの大型化により防振性が高められ、フレームからボディへと伝わる振動を低減している。
乗って初めて実感できるジムニーだけの世界観
いざ、運転席に座ってみるとそそこから見える景色はほかのコンパクトカーとは明らかに異なる。身長175cm超の私の場合、アイポイントは軽トラックとほぼ同じ高さで見晴らしが良く、角張ったボディのおかげでボンネットの左右先端の位置をつかみやすい。サイドウインドウのボトムラインはオフロード走行を意識して低められており、前、左右ともに視界がすこぶる良いのだ。
運転席周辺の設えもジムニーシリーズ特有でとても凝っている。メーターベゼルやインパネにはヘキサゴンボルトを模した装飾が施され、まるでネジ止めされているように演出。さらに先代では2WD/4WDの切り替えは味気ないスイッチ式だったが、現行型ではトランスファーレバーに変更された。これが「クロカン四駆に乗っているぞ!」という気分を一層盛り上げる。
走り出しは極めて穏やかだ。スズキの1Lターボ、1.4Lターボ搭載車のほうが、1.5L NAエンジンのシエラよりも動きは機敏に感じる。だが、シエラにはこの穏やかさがマッチしている。そもそも決して力が足りないわけではなく、きちんとアクセルペダルを踏んでエンジンを回せば、必要十分な力を引き出すことができる。
ステアリングフィールは、ハンドルを切ると一瞬遅れてボディが動きだす。まさにラダーフレームを持つ本格的なクロカン四駆の挙動だ。だが、車体の傾きが大き過ぎたり、いつまでも揺れが収束しないといったことはない。先述の剛性アップなどの成果だろう。
シエラの走りで気に入った点は高速走行時の余裕だ。軽自動車の660ccのエンジンとは異なり、1.5Lエンジンのシエラは高速道路での合流や追い越しなど、加速が必要な場面でもストレスがない。
また、約80km/hの走行時は、風切り音が少し気になるが、エンジン音が騒がしいとは感じなかった。ちなみに走行中のエンジン回転数は、70km/hで2000rpm強、100km/hで約3000rpmだった。
今回は4WDの性能を試せるようなシーンは残念ながらなかった。しかし2019年2月の早朝に、現行型ジムニーとシエラを含むジムニーの愛好家集団が、群馬県のあるスキー場に向かう除雪前の長い急坂を、ズンズンとハイペースで登っていく姿を見たが、そこから四駆性能の高さは想像に難くない。
もうひとつ、シエラで気に入った点がある。それは、自宅の駐車場にシエラが停まっているだけで満足感を覚えること。特別な性能を持つクルマが身近にある充足感と、愛嬌があるルックスが見る人に抱かせる愛着によるものだろう。シエラを眺めているとクルマではなく、長く一緒に暮らす「ペット」のように思えてくるのだ。
大抵の場合、取材後は万が一の事故やトラブルを避けるために借りた試乗車を一刻も早く返したいと思う。だがシエラは違った。もう1日でいいから我が家の駐車場にいてほしい。そう思えたのだ。(文:小泉優太)
■スズキ ジムニーシエラJC 主要諸元
●全長×全幅×全高=3550×1645×1730mm
●ホイールベース=2250mm
●車両重量=1090kg
●エンジン= 直4DOHC
●排気量=1460cc
●最高出力=102ps/6000rpm
●最大トルク=130Nm/4000rpm
●駆動方式=パートタイム4WD
●トランスミッション=4速AT
●車両価格(税込)=205万7000円
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