来月2月にはF1の新車が発表されるが、注目されるのはそのスタイリングだ。エアロに頼っていたフォルムがグランドエフェクトになり、さらにホイールも18インチになった。そして燃料がE10に変更されることでエンジンパワーと燃料消費がかなり変わるはずで、レースにはどう影響するのか? 元F1メカニックの津川哲夫氏に解説していただいた。
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■新車公開は2月からだが、戦略的にテスト初日に公開するチームも
2021年のチャンピオンが先日のアブダビ最終戦の最終ラップで大騒ぎの末に決まったばかりなのに、それから1カ月もしないうちに2022年のまったく新しいF1が動き始めた。
2月中旬には既に3チームの新車発表日が決まっていて、下旬にはバルセロナテストが始まる。開幕前にわずか2回しかないテストチャンス、新車を無駄なく効率良く走らせなければ、開幕に向けて新車の仕上げは極めて難しい。
そもそもエアロもサスペンションも、そしてホイールとタイヤもこれまでとは全く異なり、まさにこのバルセロナテストが全くの初サーキット走行となるわけで、どのチームも走行データは全て未知の領域なのだ。
■18インチの扁平タイヤ化でF1マシンの特性はどう変わる?
全てが新しいこのF1、これまでと特に違うパーツのひとつが18インチホイールの採用だ。これまでは13インチホイールであったが、ついに近代的な大径ホイールと扁平タイヤへと変更されたのだ。
この18インチホイールそして扁平タイヤは、普通に考えれば「だからどうした? スポーツカーでは常識だろう」といわれそうだが、これが結構な難物なのだ。ホイール径は5インチも増加してタイヤの扁平率も大きく変り、タイヤの側面、ショルダー部分の厚みは極めて薄くなる。幅も直径も若干これまでよりも増し、タイヤ・ホイールは重さも増加している。
2021年型のフェラーリSF21に装着された18インチホイール。タイヤの側面、ショルダー部分の厚みは極めて薄くなったが、違和感はあまりない
また、安全性の向上を図るため車体の衝撃耐久など強度剛性も強化され、全体的に重量は増加し、最低重量は何と790kgにまで増えている。昨年から38kgの増加だ。この重くなった車体を扁平タイヤが全て受け止めるのだが、これまでの13インチから充填空気容量は減少し、タイヤでのサスペンション効果は極めて少なくなる。したがって路面からの振動はタイヤでの緩衝が少なくなり、ダイレクトにサスペンションに伝わる。
ちなみに殆どのF1チームは身内にF2チームを持っており、昨年から18インチタイヤを使っているF2チームからのデータはもちろん充分に持っているはずだが、エアロもパフォーマンスも大きく違うF2からのデータはあくまで基本的なものでしかない。実際タイヤにかかるストレスは、F1とF2では大きく違うのだから。
■足回りは18インチ化だけではなく、サスペンションにも規制変更が
2022年、今年からF1は今までと違った振動形態を想定したサスペンションが必要になる。また前後サスペンションともに、サスペンションのアッパーアームのマウントブラケットに規則変更があり、これまでの様な上方へのエクステンションは規制され、ごく通常のダイレクトマウント方式になる。したがってこれまでの様な特殊なサスペンションアーム様式ではなく、見た目にはスタンダードなアーム構成になりそうだ。ただしこれはあくまでも予想で、マウント方式が規制されているだけでジオメトリーはもちろん自由であり、サスペンションの構成も自由だからどんな形になるかは新車を見てのお楽しみだ。
この規則もまたサスペンションアームが後方エアロを乱す渦流の増加に繋がるのを抑えるためだ。
2022年はサスペンションの一部が変更になる。サスペンションの構成も自由だからどんな形になるかは見てのお楽しみだ。写真は2020年メルセデスAMG W11
18インチタイヤは構造もコンパウンドも異なり、グリップだけでなく温度制御・管理もピレリのデータからシミュレーションはできているはずだが、データが豊富であったこれまででさえ、その制御・管理は難しく、各チームとも頭を悩ましてきたところなのだ。
そうなると若干でも有利なのは、例えばタイヤ開発に協力してきたアルピーヌだ。ルノー自体がF2にも係わっており、データは多少なりとも手持ちは多いかもしれない。
タイヤ管理とエアロは重要な関係にあり、ダウンフォースと出力デリバリーのバランスを走行状況に応じて巧みに制御管理できなければ、異常な温度変化をもたらす。特にハイパワー化している昨今、リアタイヤのオーバーヒートやフロントタイヤの冷え過ぎ等、様々な現象を引き起こしてタイヤを痛めてしまう。
昨年タイヤの温度管理に苦労したメルセデス、もちろんその苦悩はトップエンドでの話だが、タイヤ管理とその交換作戦で昨年のチャンピオンシップを逃している。今シーズン、新規則下のW13でどこまでその制御・管理を向上させるのか?
また昨年まではグリップ管理に長けたレッドブルだが、新エアロ規則下でどこまでその優位性を保って行けるか?
そして、他チーム以上に時間をかけて開発をしてきたフェラーリの復活はあるのか? などなど興味は尽きない。
■10%のエタノール含有に改正されたE10燃料とは
2022年はエアロだけでなくPU的にも大きな変化があった。PU自体の規則変更は幾つかのセンサーに及び、そして計測器等の増設があった。燃料流量の計測やチャージ温度センサーなどが新規則で強化されている。これらは以前の記事で触れた2019年のフェラーリ、2021年のメルセデスの不正疑惑問題などが絡んでの測定強化かもしれない。
これに加えてPU的にもっともセンセーショナルな規則変更は燃料問題だ。これまでの燃料規制により欧州規定のE5燃料であったものが、今シーズンからE10へと変更されるのだ。Eとはエタノール(アルコール)の含有率を表している。昨年までは5%、今シーズンからは10%のエタノールの含有が強制されている。これらはバイオ燃料で、それも穀物等の農産物からの精製ではなく、有機廃棄物(余剰食品や食品廃棄物など)などからの再生燃料である事が条件だ。
E10は既に日常では流通しており、欧州のレギュラー燃料は既にE10とされているのだ。したがってE10関連のノウハウは各PUメーカーとも充分に持っているのだが、これがハイパワーの維持と燃料消費率の維持を考えるとこれまでのE5とは大分異なってくる。消費率が悪ければレース中の燃料セーブやパワーデリバリーの組立に大きく関わってくる。エアロでの接近戦は面白いが、中盤~終盤の燃料セーブ走行は見たくない。PUメーカーがこれをどう対処してくるかが見所だ。常に燃料消費ではリーダーシップを握ってきた日本の技術、ホンダは第二期ターボ時代もこの燃料消費で天下を取っている。果たして2022年のPU戦線では如何に?
■グランドエフェクト化とPUパワーの格差も縮まり多くのバトルが生まれるか?
今年と同様な大幅な規制変更があった2009年は新生ブラウンGPがチャンピオンに。2022は大番狂わせがあるか
そして2022年の新F1は、エアロ的により白熱した接近戦が展開されるだろう、といわれている。後方渦流の管理が行き届いたエアロ規則により、後走車が先行車にこれまで以上に接近した走行が可能となるのだ。特にDRS稼働前のコーナーでテール・ツー・ノーズのままでのコーナリングが可能となり、これによりストレートでのスリップストリームの利用がより早い時点で可能となる。
つまりこれまでよりも追い越しを仕掛けやすくなるというわけだ。したがってレース中のコーナリング速度は特に後方車で増し、先行車との間隔は縮まる……。加えて燃料変更により、これまでのようなPUのパワー格差も縮まる気配だ。
2022年いよいよ激戦の始まりだ。
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津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
・ブログ「哲じいの車輪くらぶ」はこちら
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みんなのコメント
フェラーリ、マクラーレン、レッドブルの三つ巴を見てみたいかな。
アストンマーティン、アルピーヌあたりもどこかで勝てたら尚最高。