この記事をまとめると
■アルピーヌA110の生産が2026年6月に終了するという公式発表がなされた
ルノースポールが消えてアルピーヌ!? なんて鼻で笑うのはちょっと待て! 歴史を知るとじつはスゴイ「アルピーヌ」というブランド
■最後のA110となる3モデルに日本の蓼科で試乗することができた
■いすれのA110も純ICE車でありながら未来につながる1台であることを再認識した
さよならアルピーヌA110
蓼科での試乗会に向かう道すがら、どこか寂寞とした気分を抱えていた。欧州でGSR2こと新たな安全基準ノルマが課されるにあたり、対応しきれない現行車種が──多くのスポーツカーだが──さまざまなコンストラクターのラインアップから昨今、ディスコンしつつある。アルピーヌA110にも、ついにそのカウントダウンが始まった。
以前からCEOが雑談レベルの発言として、理論的に現行A110の生産が可能なのは2026年6月いっぱいまで、というニュアンスは明かされていた。残された時間枠を目いっぱい使い切る格好で、ディエップ工場での生産を来年6月に終えると公式発表されたのは10月下旬のこと。
とはいえアルピーヌA110は、本国では2017年デビュー、日本市場では2018年発売だったから、あと半年も経てば足かけ9年という長いモデルサイクルをまっとうする訳で、なかなかの長寿モデルだったともいえる。納車デリバリーは来年後半までかかるだろうが、日本での受注は3月末いっぱいまで。もとより1日あたり最大でも20台強という少数生産体制なので、場合によっては生産枠がもっと早く干上がる可能性は否めないだろう。
これを裏づける根拠は、今年夏に1955年の創業から70周年記念ミーティングを取材しにディエップを訪れたが、すでに工場ではA110の生産台数は11台。並行してBEVにして5ドアのスポーツファストバックであるA390の生産が、同一ライン混交で始まっていた。そして近隣のドゥエ工場では、A290がルノー5 E-テックとともに生産されている。つまり、アルピーヌはもうBEVへのステップを半歩どころか2歩も3歩も踏み込んでいる。ただし、この新しいBEVモデル×2台が、走りや動的質感の指標として掲げているのが、過去そして現在のA110なのだ。
実際、A290には昨年、スペインのマヨルカ島で試乗してきたが、最後はBEVであることすら忘れさせられるほどの軽快さと優れたハンドリング、それ以外にもBEVだからこそ楽しめる部分の多々ある1台に仕上がっていた。パリの街なかでは、すでにA290やルノー5E-テックをチラホラ以上の頻度で見かけるし、地方の村でネイビーの5 E-テックから上品な年配マダムが降りて来たのを見かけたときは、フランスの日常的な光景が日本のそれよりよっぽど未来的でこなれていることに、衝撃を受けた。
ここまで脇筋のようだが、だからこそA110の最終モデル×3車種はアルピーヌ・ブランドの転換期という内輪の話だけでなく、先進国の成熟社会や自動車業界が電動化に向かう時代の端境期、そんな外的視点で眺めても記念碑といえるモデルだ。
今回は最終3モデルとなる「アニバーサリー」「GTS」「R 70」を、日本の中央&南アルプスを望みながらビーナスライン周辺で試乗する、特別な機会となった。
現行A110が世界中の評論家筋から絶賛されているのは周知のとおりで、シャシー&ハンドリングの素晴らしさが強調されるが、ミッドに積まれた日産ベースの1.8リッター直4シングルターボのエンジンも、大きな美点と筆者は考えている。
アルピーヌ&ルノー側ではM型、日産でMR型と呼ばれるファミリーのそれは、ブロックやクランクケースにオイルパンといった主要部分はそれこそセレナあたりと共通ながら、元ルノー・スポール直伝のノウハウで320Nm・252馬力もしくは340Nm・300馬力にまで高められている。そこにマグナ・グループに吸収された旧ゲトラグ製の湿式7速DCTが組み合わされ、シフトアップ時にはウエイストゲートの音すら艶っぽく、DCTならではのダイレクトな駆動感が腰に伝わってくる。なのに、オイルフィルターは純正では恭しくルノー・サムスン印のホログラム入りだが、ドレンボルトやらOリングなど消耗品は、とにかく日産互換が相当に利く。要はメンテナンスが日本では相対的に容易なエンジンなのだ。
今回、最初に試乗したのはブランニューシャシーにして新規グレードの「GTS」。スペック的には340Nm・300馬力で1200万円。かつオプションのアクラポヴィッチ製の専用チタンエキゾーストを備えていた。足まわり剛性がノーマル比でざっと約1.5倍増しのシャシースポールに、試乗車では未装着ながら、A110 Rに限りなく近いカーボンエアロキットを、希望すればオプションで選ぶことができる。
GTSの美点は、何といってもレザー張りのスポーツシートにある。これはリネージやGTに設定されてきたものの基本を同じくするサベルト製で、リクライニング機構に加えシートヒーターは、初冬の蓼科で何より効果を発揮してくれた。山並をモチーフとしたステッチパターンに、淡いグレーの新色でもある。
一方でボディ外装も、ヘリテージカラーとしてオリジナルA110に存在した30数色のひとつ「ブルー・ポン(孔雀の青)」で、各色110台分だけ復刻リリースされた台数限定オプション。撮影車両のシフトコンソール下には、110台のうち52台目であることがプレートに刻まれていた。
シャシースポールは、A110ベルリネットのなかではもっともゴーカート的というか、ドイツ車から乗り換えても違和感のない乗り味だ。ステアリングを操舵してから足まわりの反応が速く、剛性感たっぷりに返してくる。ノーマルシャシー+320Nm・252馬力の組み合わせより明らかに力強いライドフィールに、アクラポヴィッチならではの「ヴポポポポ」という乾いた音質のエキゾーストノートが重なってくる。簡潔にいうなら、エレガント系のハイパフォーマンス・ツーリングパッケージとして、全包囲にプラスアルファの味わいを添えた、特別感のあるA110といえる。
続いて乗り込んだのは「アニーバーサリー」こと320Nm・252馬力仕様で、前期型でいうピュアやプルミエールエディションに近い素のグレード、いまでは25台限定のモデルだ。
アニバーサリーのよさは、その外連味なく純粋なライトウエイトスポーツぶりにある。アルカンターラ張りのバケットシートはリクライニング機構が省かれ、座面高の調整は3つのネジ穴から選んで固定する方式だ。試乗車では真ん中で固定されていて、身長175cmの筆者には少し高かったが、乗り手のポジションに一度合わせてしまえば何ら問題はないはずだ。
エンジンのトルクやパワーの感触は、先に乗ったGTSと比べ、-20Nmと-48馬力の差は無論ゼロではないが、かったるさはまったく感じさせない。むしろもっともソフトなシャシーアルピーヌゆえ、前後荷重の移動や左右のロールがドライバーの操作に対してより大きく表れるし、路面のちょっとした凹凸にも鷹揚でハーシュネスがなく、快適ですらある。
ノーマルマフラーのエキゾーストは、アクラポヴィッチほどタイトな音質ではないが、ボボボという野性味ある音色はオリジナルA110に通じる好ましさ。ファーストカーとして公道で乗るのがメインなら、やはりこれがベストの選択肢と思わせる。
1790万円がお得な気さえするA110 R 70
最後に乗り込んだのは役モノ仕様、世界770台限定モデルの「A110 R 70」だった。今夏に発表された際、同時に発表された3色各70台づつのA110 R BBR(ブルー・ブラン・ルージュ、つまり青白赤)の陰に隠れていたが、初期Rで採用されていたデュケーヌ社のカーボンホイールが復活して1790万円という価格は、新車価格のここ数年の全般的な上昇幅を思えば、もっともお得な気さえする。一般論ではないからこそ、わかる人には十分に通じるはずだ。
ところで当初からアルピーヌが主張していたことだが、A110 Rの「R」とは「レーシングのR」ではなく「ラディカルのR」とされる。ボンネット、ルーフ、リヤフードという上物3点をカーボンパネルに換え、スワンネックのリヤウイングに、リップスポイラーとサイドスカート、リヤディフューザーも延ばした専用のカーボンエアロキット装着で、高速域でのダウンフォースをマシマシに稼ぎ倒しつつ、ZFレーシングの20段階アジャスタブルダンパーや専用スタビライザーを備えた仕様、それがシャシーラディカルだ。
エンジンは340Nm・300馬力仕様でGTSと同じだが、R専用でGTS用とは異なるアクラポヴィッチのチタンマフラーが奢られている。
アルピーヌの場合、本気のサーキット向けには車検取得を前提としない、シグナテック謹製の専用サブフレームを前後ともノーマルより高めにマウントした(つまりキャビン高と重心位置は下げた)カップカーやGT4、ラリー用のRGTなどがあるので、あくまでもA110 Rはメーカー自ら公道チューニングを施したような仕様といえる。
ちなみにニュルブルクリンクのラップタイムはA110 Rが7分35秒。エンジンチューニングをメカクロームが手がけて350馬力にまで高め、空力パッケージもさらなる高速域対応させたA110 Rウルティムは、7分15秒を刻んでいる。
これはポルシェ718ケイマンGT4 RSに対し約6秒譲る記録だが、排気量が2倍以上のライバルにそこまで迫れること自体が驚異的。しかも全世界110台限定のRウルティムは4000万円超えの価格にもかかわらず、日本では5台も売れたとか。シャシーチューニングでさまざまな仕様を生み出してきたアルピーヌのノウハウを、ストリートで味わいたいという需要は、根強いものがあるのだ。
A110 R 70はそこまで極端でないとはいえ、5点式ハーネスを備えたカーボンモノコックのバケットシートに座り込むのは、日常使いではそれなりに面倒くさい。電源ONにすると初期Rでは完全に塞がれていた後方視界が、液晶ルームミラーに映し出された。ミラー内にロゴ違いの「ALPINE」が一瞬表示され、「ん?」となるが、聞けばこれはアルパイン社製のオプションで、初期型ではまだ対応し切れていなかった装備なのだとか。さすが最終型だけあって公道での乗り易さも向上させているのだ。
ちなみにRはフロントボンネットこそカーボン製だが、その下のトランクスペースはGTSやアニバーサリーと同様で、荷室容量は失われていない。
いざ走り始めると低い着座位置と視界、ゴツゴツした感触はないがストロークが短いサスペンションの動きに、やはりRは別モノと気づかされる。そもそも装着タイヤはミシュランPSカップ2なので、温まるまでグリップは過剰にアテにはできない、そんな注意すべき留保の多さも、役モノならではの非日常感だ。大きめの段差でそれなりに鋭い突き上げを感じるものの、しなり感のある足まわりで、ハンドリングのスッキリ感やステアリングに伝わってくる接地感の質に、やはりサーキットが本籍という素性が窺える。
というのも、従来のGTやGTSと同じ300馬力仕様のエンジンであるはずなのに、明らかにアクラポヴィッチマフラーの抜けがいいせいか、吹き上がりまで軽く、速く感じる。エキゾーストノートは昇りつめるほどに「プワワァーン」という滑らかに澄んだ音質で、リヤの強烈なスタビリティも手伝い、早くアクセルを開けろとクルマのほうからドライバーを駆り立ててくる。この刺激を公道で追い求め始めたら、コーナーで速度がのり過ぎて免許が何枚あっても足りない。公道も走れるが解き放つにはやはりクローズドコースが必要で、そこまで一応自走で行ける仕様というニュアンスが強く滲む。いわばファーストカーを無理なくこなせるアニバーサリー、GTSと違って、サーキットを頻繁にこなしたい人向けの最高のセカンドカー、それがRだ。
試乗会後の11月末、創業70周年と最終モデルイヤーを記念して、アルピーヌ・ジャポンは「A110ブルーアルピーヌエディション」を追加発売した。さらに30台のA110と、同じく30台でブルーアルピーヌ外装のGTS、10台のR 70という、計70台の日本専用限定モデルだ。
こちらのA110はアニバーサリーと同じ仕様というより、ブラックレザーのリクライニング&シートヒーター付きで、内装は実質的に旧リネージに近い。ブレーキキャリパーもレッドで、ちょっとお得感がある。GTSはグレーレザーのシートにグレーステッチで、通常のGTSに準ずる仕様。さらに、R 70ブルーアルピーヌは、アクラポヴィッチ・マフラーと先述の液晶ルームミラーが標準装備されながら+60万円にとどまるお得な仕様でもある。
いずれ現行のA110は、過去のオリジナルA110からハードウェアとして引き継いだものは皆無ながら、オリジナルのオーナーもそれを知らない世代も、ステアリングを握って走ってみたら瞬く間に魅了してしまうところがある。ヨーロッパ・アルプスの峠道で、創業者ジャン・レデレが感じたドライビングプレジャーを再現することを目標に始まったスポーツカーブランド、それがアルピーヌであることは有名だが、つとめて現代的な日産ルノーアライアンスの共通コンポーネントを多分に用いるにもかかわらず、ほとんどタイムマシンじみたところがある。だから純ICE車でありながら、未来に繋がる1台となったのだ。
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