2020年のF1最終戦アブダビGPでは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンがポールトゥウィンを飾った。同週末ではメルセデス勢がパワーユニットの出力をわずかに落としていたとはいえ、レッドブルは来たる2021年シーズンに向け、メルセデスと本格的にタイトルを争えるような状況に持ち込めたのではないか……そう考える向きもある。
というのも、2021年に向けてはシャシー開発が凍結されており、各チームは基本的に2020年のシャシーを2021年も継続使用することになる。そういう意味では、咋シーズンの最終戦でレッドブルが高いパフォーマンスを見せたことは、新たなシーズンに向けて励みとなるだろう。
■厳しい開発凍結の中で……レッドブル・ホンダの来季マシン『RB16B』は「今季と共通なのは60%」
ただ、これはレッドブルにとってある意味“いつものこと”でもある。レッドブルはここ数シーズン、終盤戦には力強いレースを見せるものの、その力強さを翌年の開幕まで維持することができず、“スロースターター”となってしまっているのだ。そしてそこから見事な開発を行ない、トップとの差を縮めてシーズンを締めくくるものの、また開幕時には一歩後退……その繰り返しとなっている。
過去3シーズンのフェルスタッペンの成績を例にとってみよう。2018年シーズンのフェルスタッペンは、序盤7戦で3位2回に留まったものの、終盤7戦は1勝含む6度の表彰台を記録。ホンダとのタッグがスタートした2019年シーズンは、序盤こそなかなか勝てないレースが続きながらも、中盤戦以降で3勝を挙げた。そして2020年シーズンは1年を通してコンスタントに表彰台に上り続けたが、初めてのポールポジションは最終戦アブダビだった。
このような傾向があることは、レッドブルの首脳陣もよく認識している。ただ、チーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーは昨年のアブダビGP後に、2020年のマシンから2021年のマシンに引き継がれるものが多いことから、これまでと異なる情勢にできるのではないかとコメントしていた。
「そうなることを願っている。今回はゼロからのスタートではないからね」
「F1の歴史で(このようなことが起きるのは)初めてだ。おそらく約60%のものが(2021年マシンに)引き継がれる。新しいマシンを(RB)17ではなく16Bと呼ぶのもそのためだ」
シャシー開発の凍結がレッドブルにとって2021年に向けての自信に繋がっていることは確かなようだ。しかし、その一方で空力開発に関しては制限がなく、そこには多くの不確実性が残っている。特に2021年はフロアに関する規則が変更となるため、そこで差がつく余地はある。
空力性能は長年にわたりレッドブルの肝となってきた部分であり、彼らはこれまでにもシーズン中にアグレッシブな姿勢で開発を進めてきた。ただ、これが“スロースターター”の遠因となっていることも否定はできない。
より性能の高いパーツを追い求め、シーズン中に積極的に開発を進めていくことはラップタイム向上には効果があるかもしれないが、マイナス面がない訳ではない。新しいパーツを試すということは、その都度新たなプラットフォームへの理解を深めていく必要があるのだ。そして新しいコンポーネントがすぐにパフォーマンスを発揮しない場合には、これがセットアップ次第でどうにかなるものなのか、それとも根本的な問題を抱えているのか、しばし頭を悩ませることになる。
実際、レッドブルはスロースターターだと感じるか? その点について、フェルスタッペンは昨年末にこう語っていた。
「そうだね、確かにそう見えるね」
「僕たちがシーズン序盤のパフォーマンスを改善しなければいけないことは分かっている。でも僕たちの場合、コロナの影響で頼みの綱だった実走行ができなかったことが痛かったと思う」
「僕たちはいくつかのことを修正しなければいけなかったのに、連戦が続いてしまったことで多くのポイントを失った。リタイアがあったことも痛かったね」
レッドブルが“実走行”を頼みの綱としていたというコメントは興味深いものと言える。これはつまりレッドブルが、マシンに対する知識さえ深まればパフォーマンスが大きく向上する……そう考えているということにもなる。
シーズン序盤が振るわないレッドブルが、このサイクルから脱するには何が必要だと感じるか、との質問にフェルスタッペンはこう答えた。
「おそらく、さっき言ったように僕たちは実走行に依存している部分がある」
「だから、風洞から出てきたマシンがいきなりその(実験結果)通りの走りをするような方法を見つけないといけない。そうすれば即効性もあるし、正しい方向に導いてくれる。僕たちはそこに取り組むよ」
以上のコメントから、彼らの目標は明確になっていると言える。パーツがサーキットに持ち込まれた段階でしっかりと機能すれば、レッドブルはライバルに対して後れを取らずに済むのだ。
それを確実なものとするためには、何か根本的に違うことをする必要はないだろう。風洞実験の結果と、実走行データの相関関係を正確にするために、小さな改善で妥協して勇み足となることなく、念には念を入れたアプローチを取り入れていくことの方が重要になる。そして最終的には、新しいパーツがマシンに取り付けられた時点で、それが機能すると確信できる状況にするべきなのだ。
レッドブルは過去にも、結果のためには物事のやり方を変えることも厭わないような姿勢を見せてきた。フェルスタッペンの言うように新しいパーツを最初から機能させることにスロースターター脱却の鍵があるとするならば、プロセスが微妙に変化するだけで、全く異なる結果が出るかもしれない。
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