岩佐は2019年に鈴鹿サーキットレーシングスクールのフォーミュラ部門、SRS-Fでスカラシップを獲得すると、翌2020年はフランスF4に参戦した。そこで岩佐は全21レース中優勝9回、表彰台15回、トップ5フィニッシュ20回という抜群の成績で見事チャンピオンに輝いた。
渡欧1年目とは思えない安定感と、高い適応力。これが最終的にレッドブルジュニア入りとハイテックからのFIA F3参戦に繋がった訳だが、そこには彼のバックボーンが関係しているのかもしれない。
■次代のF1候補生“岩佐歩夢” 第1回:レッドブル育成として臨むFIA F3では「優勝狙える」と自信
父が中古車関係の仕事に就いており、祖父がチューニングショップを営んでいたという岩佐は、文字通り車に囲まれた環境で生まれ育った。そんな中で彼は、小学生の頃から“箱車”をミニサーキットで走らせていたのだという。父親がメンテナンスを請け負う形でカートレースにも参加していた岩佐だが、同世代のカーターとは違う経験をしたことが現在でも役に立っていると考えている。
「箱者は重たくて、ラジアルタイヤでグリップが低いですよね。僕はドリフトも好きでやっていましたし、マシンを動かすという面ではそういったドライブの経験によってコントロールの幅が増えたかなと思います。だからアジャストしやすいドライビングスタイルになったのかなと思っています」
「カートに関しては父がメンテをする形でレースをしていましたが、中学の時は土曜日まで学校があり、日曜日だけレースをすることもありました。初めて行くサーキットでも早くタイムを出さなければいけなかったので、そういうところでも身についたのかなと思っています」
「基本的に初めて乗るマシンで1セッション目からある程度のタイムを出すだとか、フィーリングを掴むスピードだとかは自信がありますね」
そんな岩佐は自らのレーススタイルについて、“頭を使って、落ち着いて仕掛けるスタイル”と分析する。ただ、冷静さだけではさらなる高みには到達できないと自覚しているようだ。
「僕のこれまでのスタイルは、頭を使って相手に勝負を仕掛ける、マシンを走らせるというスタイルでした。ただ、海外でレースをして分かったのが、その(頭を使って判断した)時点でもう遅いことが多々ある、ということでした」
「まず頭よりも先に身体が勝手に動き、そこから次どうするかと考えるような戦い方が僕に欠けているところだと思うので、そこを改善しようとしています」
そう語った岩佐。現在は感覚を研ぎ澄まし、瞬間的、本能的な判断もできるようなトレーニングを積んでいるといい、その詳細を明かしてくれた。
「タイム的に言えば1周あたり100分の何秒、1000分の何秒という部分をちょっとしたことで詰めていけるように、日本に帰国した時は、日本のトレーナーさんとトレーニングしていました。『これだったら変わっていけるかも』としっくりくるメニューもあり、日々のトレーニングからも改善していけるということも実感しました」
「その中でジャグリングをやっていました。僕はボール3つでのジャグリングが全くできなかったので、その分ボールがどこかに飛んでいったりしてしまうんですけど、それをとことん拾いに行っていました」
「最初は頭で『あっ、取れない』と思ったら取りに行かなかったりしていましたが、そこを勝手に身体が拾いに行くような動きに改善していきました。今はジャグリング自体も8周や10周出来るようになりました」
またSRS-Fで指導を受けた佐藤琢磨や中野信治からは、次のようなアドバイスをされていると言う。
「おふたり共『とにかくプッシュするように。もちろん結果にもフォーカスしないといけないけど、今はとにかく攻め続けて良いことも悪いことも吸収するべきだ』という風におっしゃっていただいています」
「攻め続けることの大切さは、一昨年、昨年とレースを戦うたびに身に染みて感じています。振り返ってみるとプッシュしてアタックする部分が欠けているなと思ったので、そこを改善するためにも日々のトレーニングからも改善して、結果が出るように頑張っていきたいなと思います」
余暇の過ごし方を尋ねると、体を動かすこと以外にも、過去のレースやデータを分析することもリラックスになると語ってみせた岩佐。その言葉の端々からも彼の冷静沈着さや聡明さが垣間見えた。ここに現在トレーニングによって鍛えているという“野生の本能”が加わった時、F3を戦う岩佐にどのような化学反応が起きるのか注目だ。(次回に続く)
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