突然の運航停止
日本の隣にある台湾は、半導体などの最先端技術で栄え、所得水準が高い島となっている。そのため、ビジネスや観光の需要が非常に大きい。現在、最大手のチャイナエアラインと、2番手のエバー航空が中心となり、運航を続けている。
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最近では、スターラックス航空が北米や日本への路線を強化し、台東や高雄を拠点とする徳安航空も活動を続けている。
しかし、かつてはほかにもふたつの独立系航空会社が存在していた。そのうちのひとつが、今回紹介する遠東航空(以下、ファーイースタン航空)だ。ファーイースタン航空は台湾国内線を中心に運航していた名門航空だったが、2019年12月に突然運航を停止した。翌年には、トップが重大な経済犯罪を犯していたことが明らかになった。
それでは、その経緯を詳しく見ていこう。
成長の裏に潜む事故の影
ファーイースタン航空は1957年にチャーター便運航会社として設立された。しばらくはチャーター便専用で、定期便の運航はなかったが、1963年に定期便を開始した。その後、30年間にわたり、台湾本島や澎湖諸島、金門島などの離島への路線を運航し、国内線の大手航空会社として君臨した。
1996年、高雄からパラオやスービック(フィリピン)を結ぶ免許を取得。これを契機に国際線にも進出し、
・日本
・韓国
・カンボジア
・フィリピン
などへの路線が開設された。2004年には貨物便の運行を開始し、台湾の旺盛な貨物需要に対応した。同年、カンボジアのアンコール航空にも出資し、東アジア・東南アジア全域にネットワークを広げようとした。
だが、その成長過程には重大なインシデントや事故もあった。特に有名なのは、1981年8月22日に起きた103便の事故だ。台北・松山空港から高雄へ向かっていたボーイングB737-200型機が、離陸から16分後に三義村・火焔山上空で空中分解した。乗員・乗客合わせて110人が犠牲となり、台湾国内で発生した航空機事故としては2番目に多い犠牲者数となった。
この事故には、日本の脚本家・向田邦子氏も含まれており、日本でも大きな話題となった。事故の原因は、海産物の不完全なパッキングにより塩害が進み、与圧隔壁へのダメージが進行して貨物室の外板が破壊されたことにあった。事故後、ボーイングB737の貨物室の外板は厚いものに変更され、ファーイースタン航空は同型機を退役させた。
高速鉄道開業が引き起こした危機
事故の悲劇を乗り越え、ファーイースタン航空は運航を続けていた。しかし、2000年代に入ると経営危機に直面する。2007年、台北と高雄を結ぶ高速鉄道が開業。鉄道は市街地から直接乗れるため、空港までの移動が必要な航空路よりも利便性が高く、国内線の主要路線の需要がほとんど鉄道に流れた。国内線中心のファーイースタン航空は、売上を大きく減らすことになった。
さらに、2006年から2007年にかけて米国の景気後退と燃料費の上昇にも直面。鉄道の影響も加わり、三重苦の状況に追い込まれた。同社はリスクの高い投資を行い、アンコール航空への出資などで影響を回避しようとしたが、資金繰りが行き詰まり始める。
2008年、国際航空運送協会(IATA)への支払いも滞り、運航ライセンスを剥奪される。2008年5月13日、同社は運航を停止した。出資していたアンコール航空も2009年5月9日に運航停止となった。
B737MAX導入計画の頓挫
運航停止から2年が経った2010年11月27日、ファーイースタン航空は運航再開に向けたテストを台北・松山空港で実施した。その後、テストフライトを何度か繰り返し、2011年4月18日に運航を再開した。
2015年10月16日にはリストラを完了させ、台湾各地から澎湖諸島や金門島などへの国内線、そして中国本土、ベトナム、カンボジアへの国際線を運航した。日本でも台北から新潟に定期便を開設し、2015年から2019年にかけて、台中~関空、台北~秋田、台北~福島の3区間でチャーター便を運航した。
同社は、マクドネル・ダグラスMD-82、MD-83、ATR72-600などの機材を使用していた。しかし、これらの機材は機齢20年超であり、老朽化が進み、メンテナンスに支障をきたすようになった。そのため、ファーイースタン航空は11機のボーイングB737MAXを導入する計画を立て、機材の更新を進めようとした。
だが、2010年代後半になると、台湾でも格安航空会社(LCC)が台頭し、東南アジアの航空会社も次々と進出した。これにより、ファーイースタン航空は再び経営不振に陥った。
また、機材更新の資金が不足するなか、導入予定だったボーイングB737MAXでトラブルが発生。2018年10月29日にはライオンエア、2019年3月10日にはエチオピア航空で相次いで墜落事故が起き、合計346人が死亡した。そのため、B737MAXの運行が一時停止となり、調達が不可能になった。
その結果、ファーイースタン航空はB737-800を2機リースすることに決めたが、老朽機材の問題は解消されなかった。さらに、航空当局から運航に関する法的違反の疑いをかけられるようになった。利益を確保できず、機材更新も進まないなかで、ファーイースタン航空は「古い飛行機を楽しめる会社」として知られていたが、整備コストや燃費の悪さなど、老朽機材特有の問題に悩まされ続けた。
法令違反疑惑、CEO追放の背景
2019年12月12日、最悪の事態が発生した。ファーイースタン航空は会見を開き、翌13日を最後に全便の運航を停止すると発表した。オンライン予約システムは停止し、同社のホームページには「メンテナンス中」の表示が出るようになった。
顧客への払い戻しには対応できたが、金門島や澎湖諸島への乗客を中心に、多くの人々が行き帰りの手段を失った。そのなかには、当時国民党から総統選に立候補していた韓國瑜氏も含まれていた。
突然の運行停止は、乗務員にも事前に通知されておらず、約1000人の従業員が突然解雇されるという悲劇的な事態が発生した。この運行停止は、当局の許可を得る前に実施されたため、台湾の交通部は2020年1月31日にファーイースタン航空の運航許可を取り消した。
また、当時のCEOである張綱維氏は出航禁止となった。張氏は、2009年の運航停止時に法的違反の疑惑があった崔湧元会長から引き継いだ人物だった。しかし、張氏自身も法令違反を繰り返していた疑惑が強まり、国外に出られない状況に陥った。その罪状は次に説明する。
老朽機放置と開発資金流用
2020年7月、ファーイースタン航空の元CEOである張綱維は、台湾台北地方検察署に起訴された。容疑は35億台湾ドル(約128億円)の横領だった。張綱維はファーイースタン航空のために借りた資金を、自身が所有する樺福集團に送金したとされる。
初めての送金は2015年10月、張綱維は6.5%の利子で13億ドルを借りたが、その資金は樺福集團に送金された。結果、ファーイースタン航空は高い金利で資金を借り直さなければならなくなった。その後も、22億台湾ドルを合作金庫銀行から借りたが、これも2016年7月に張綱維が所有する安泰銀行の口座に振り込まれた。
さらに、張綱維には横領の他に詐欺、証券取引法違反、取締役の特別背任罪などの容疑もかけられた。裁判が長引いたが、2024年10月、台北地方検察署は張綱維に禁錮14年の判決を下した。
横領された資金は、樺福集團が関わった淡水市の不動産プロジェクトに使われたとされる。この資金は、もともと機材更新やLCC対抗のキャンペーンに使われるべきだったが、未完成の建物や開発が難航するプロジェクトに使われ、ファーイースタン航空がその負担を背負うことになった。
機材は機齢20年以上の老朽機で、乗客や乗務員の安全を脅かす状態だった。それを放置し、無駄な不動産開発に資金を使うという行為は、航空業界の経営者としてあってはならない行動だといえる。
空港に眠る1億9800万円
経営破綻から5年以上が過ぎた2025年2月。ファーイースタン航空が再び報道の話題となった。台湾法務部行政執行部桃園分署は、同社がかつて使用していたマグドネル・ダグラスMD-83型機のうち1機を差し押さえたと発表した。
この機体は、2019年12月の経営破綻以降、5年以上にわたって放置され続けていた。風雨に晒された結果、塗装は色あせ、サビやひび割れも目立ち、とても飛行に耐えうる状態ではなかった。
さらに、放置されていた間の空港使用料4394万8548台湾ドル(約1億9806万円。1台湾ドル = 4.51円換算)も未払いとなっていた。
この機体は1998年にデビューした古い型であり、譲渡先を見つけるのも難しい。差し押さえても活用できるかどうかは疑問が残る。
驚くべきことに、放置されている機材はこの1機だけではなかった。ファーイースタン航空は他の機体も同様に放置していたという。
同社がどれほど社会的責任を無視し、突然の経営破綻に踏み切ったのかを、改めて思い知らされる出来事となった。
ずさん経営が招いた空中分解
ファーイースタン航空、とりわけ経営陣の失態は目を覆いたくなるほどひどい。不動産開発の失敗を補うために航空会社を利用し、機材更新など本業への投資を怠った。こうした姿勢は、航空業界が好きで経営しているとは到底思えない。記事執筆のため同社を調べた筆者(前林広樹、航空ライター)も、先進国の航空会社でここまで杜撰な経営を目にしたのは初めてだった。驚きを隠せなかった。
台湾はもともと航空機事故が多い国である。老朽化した機材が原因の事故も起きており、2002年には尻もち事故の不適切な修理によって機体に亀裂が入り、空中分解するという悲劇もあった。そのため、当局も利用者も安全性には極めて敏感だ。それにもかかわらず、ファーイースタン航空は老朽化した機材を使い続けた。製造から20年以上経過した機体を運航に使い続けたのだ。
自社が台湾航空史上で2番目に死者数の多い事故を起こしていながら、安全性を軽視する行動は到底許されない。言語道断というほかない。もし擁護の余地があるとすれば、国内線市場がまだ活発だった1990年代から2000年代前半に、遠距離国際線へと軸足を移していればよかった。そうすれば、エバー航空やスターラックス航空のような地位に立つことも不可能でなかったはずだ。
もっとも、エバー航空はもともと台湾の大財閥傘下で資金が豊富だった。スターラックス航空もエバー航空の元トップが率いており、資金調達で有利な立場にあった。横領、そして老朽機材の放置。ファーイースタン航空の行為は、近年の航空会社の中でも類を見ないほど杜撰だった。
ただし、台湾にはもう一社、2010年代に大きな問題を起こした航空会社が存在する。
その会社については、あらためて次の記事で取り上げる。
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みんなのコメント
B747で空中分解事故を起こしています
確か200名以上が犠牲になったはず