かつてプロデューサーから、ポップコーン女優(ライトな娯楽映画に出演する美しさがウリの俳優)と呼ばれ悩んでいたと主演女優賞を初受賞したゴールデングローブ賞のスピーチで明かしたデミ・ムーア。自身のキャリアを体現するような本作『サブスタンス』で、新境地を築き、仕事、美しさ、性差などにパラダイムシフトを起こした。超話題作『サブスタンス』が描く固定概念からの解放とは何だったのか。
仕事ができるだけじゃダメですか?
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『サブスタンス』は、デミ・ムーア演じる主人公のエリザベスが、50歳の誕生日を迎える場面から始まる。周囲から「おめでとう」と声をかけられながら颯爽と歩く彼女は、自信に満ち、人生を謳歌しているように見える。だが、その祝福ムードは一転し、エリザベスは自身がホストを務めるエアロビクス番組を突然解雇されてしまう。理由は?──年齢?番組の進行に何の支障もないにもかかわらず? そう、プロデューサーが口にする「年齢」は、「健康で仕事ができること」とは別の意味を持っているのだ。この理不尽な仕打ちに憤りながら、自信を失ったエリザベスは、「サブスタンス」と呼ばれる再生医療を受けることを決意する。すると、背中を突き破るようにして、「スー」と名乗るもうひとりの自分が現れた。どうやら、「よりよいバージョンの自分」らしいが、はたして。
若さに殺される
いくら年齢を重ねても、記憶の中の「若さ」が消えることはない。大人らしい振る舞いが上手くなるだけで、若さゆえの万能感は、心の奥深くに残る。もちろん、細胞分裂や修復機能が低下し、身体の回復は遅くなるため、昔みたいにムリはできない。加齢とともに求められるのは、自分の中に残る若さと、どう折り合いをつけていくかということだ。
「サブスタンス」により、エリザベスの内なる若さは、「スー」という実体となって目の前に現れる。ふたりは7日ごとに身体を交代し、片方が活動している間、もう片方は意識を失い、もぬけの殻になる。ふたりは交代で、まるで別人のように、それぞれの生活を送ることになる。これは、エリザベスの中で「若さ」がもはやコントロール不能なものとして、肥大化していることの顕れだろう。
スーは「老い」を嫌悪し、エリザベスは「若さ」を妬む。世代間の断絶が、自分の中で巻き起こる。内面化された思考の分裂が、もうひとりの自分として可視化され、向き合わざるをえなくなる展開は、ドラマ『セヴェランス』や、映画『ミッキー17』など、近年の話題作に共通するモチーフだ。
人工的に整えられた画面
エリザベスとスーの対立、つまり若さのコントロールをめぐる葛藤が、ここまで深刻化する背景には、男性中心主義的な社会システムの圧力がある。若さを消費する男性のまなざしや、美しさを過剰に要求する社会の価値観を、『サブスタンス』は画面のデザインによって象徴的に映し出している。
たとえば、広角レンズによって引き伸ばされたパースや、左右対称の構図は、人工的に整えられた美を強調し、画面全体に異様な均整をもたらす。スタンリー・キューブリック作品を彷彿とさせる、奥行きが強調された構図の中で、ぽつんと立つエリザベスは、まるで「この画面にふさわしい存在であれ」と脅迫されているかのようだ。
ソーシャルメディアや広告による圧力も、映像言語で巧みに視覚化されている。エリザベスの部屋のパノラマウィンドウは、まるでスマートフォンの画面のように広がり、その向こうには、つねにスーの巨大な看板が張り出されている。リビングの壁には、それと対をなすように、エリザベスのポスターが飾られており、ふたりは「美しさ」がもたらす、仮そめの成功イメージに挟まれて生きていることがわかる。
そんな本作において、唯一、「まなざし」から解放される空間がバスルームだ。そこで映し出されるエリザベスとスーの身体は、いかなるバイアスも介さず、きわめてフラットな視点で捉えられている。そのバスルームには「隠し部屋」があり、ふたりの交代は、そこでひっそりと行われる。どちらか一方が人生を送るあいだ、もうひとりは暗闇の中で死体のように横たわっているのだ。『サイコ』(1960)のシャワーシーンを彷彿とさせるその姿は、若さや老いを切り捨て、見たくないものとして封じ込めることの危うさを突きつけてくる。自分の中に存在する矛盾と向き合わなければ、心のバランスはすぐに崩れてしまうのだ。
完璧な美しさ
『サブスタンス』は、画面をデザインで支配することによって、記号の交換で成り立つ人間関係の異常性を浮き彫りにする。理想化されたシェイプを追い求めるまなざしは、人間を消費可能な記号に変えてしまう。本作に登場する男性像が類型的なのも、記号を求める人々が、自らもまた記号へと還元されていくことを端的に示している。
そして、本作の画面のデザインに、違和感や不快感を覚えるのは、その理想とされるシェイプが、ジェンダーの不均衡、とくに女性に押しつけられる規範のいびつさを如実に反映しているからにほかならない。その構造的な偏りは、エリザベスを解雇するプロデューサーをはじめ、「サブスタンス」を最初に勧める人物や、電話窓口の対応者といった役割を、すべて男性が担っている点にもはっきりと表れている。
人間は記号を内面化したときに、その形を変えてしまう。賢くなればいい?諦めればいい?いや、もう、止めることはできない。劇中で『めまい』(1958)の楽曲「The Nightmare and Dawn」を引用しているのも示唆的だが、ショービジネスの世界で、人間の形は誰もが憧れる記号──例えばハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムの星型のプレート──に象られてしまう。
『フランケンシュタイン』(1818)の時代から、女性作家たちは、ボディホラーというジャンルを通して、自らの身体が男性社会によって記号化され、形を変えられてしまうことに復讐してきたのかもしれない。そのバトンは、たしかに『サブスタンス』に引き継がれている。ラストにおいて、みんなの期待に応えるために、形を変えたエリザベスとスーは「完璧な美」に到達する。そのあまりの美しさに、あなたはきっと息を呑むだろう。
『サブスタンス』5月16日(金)全国公開
配給:ギャガ
©2024 UNIVERSAL STUDIOS
文・島崎ひろき
編集・遠藤加奈(GQ)
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