バスのお仕事とは、なにも運転士だけではない。貸切バスのバスガイドも重要な職業だ。現役バスガイドが楽しく真剣に仕事の魅力や大失敗談を赤裸々に語る「へっぽこバスガイドの珍道中」をお届けする。今回は貸切バスでお客様を宿泊先にお送りした後のバスガイドの仕事をのぞいてみよう。
文/写真:町田奈子
【画像ギャラリー】【へっぽこバスガイドの珍道中】貸切バスでお客様が宿に到着!ガイドも仕事を終わり温泉でゆっくり?(5枚)
編集:古川智規(バスマガジン編集部)
(詳細写真は記事末尾の画像ギャラリーからご覧いただくか、写真付き記事はバスマガジンWEBまたはベストカーWEBでご覧ください)
■お客様が宿入り後も、ガイドの仕事は終わらない。
観光を終えてホテルや旅館に到着すると、お客様は荷物を持って宿へ向かう。「ガイドさんもこれで仕事が終わりで温泉にでもつかるのかな?」と思われる方も多いかもしれない。
しかし、実際にはここからが私たちの仕事の始まりでもある。まずは車内の忘れ物の確認。そして車内清掃に翌日に向けた準備を行う。お客様の目に見えない時間にも、ガイドは慌ただしく動き回っている。
今回は、そんな「宿入り後」の仕事をご紹介しよう。まず最初にするのは、忘れ物チェックだ。お客様をお見送りしたら、一番最初に行うのがこの忘れ物の確認である。座席の下、網ポケット、荷物棚の上、さらには座席と座席の隙間まで、一つひとつ丁寧に見ていく。
特に修学旅行では、ホテルへ入ってから必要な物を忘れたことに気付き、先生に怒られながら慌ててバスへ戻ってくる生徒を何度も見てきた。修学旅行あるある話である。
それでも不思議なことに、これだけ確認したはずなのに掃除を始めると帽子やハンカチなどが様々な物が出てくることも珍しくない。だからこそ降車前には「ホテルで使う物は忘れずにお持ちくださいね」と必ずお声掛けをする。それでも忘れ物はなくならないのが不思議だ。
と、ここまで偉そうに書いておきながら、実は私自身も忘れ物をしてしまい、宿に入ってから運転士さんに「すみませんドア開けてもらえますか?」とお願いしたことが何度もあるのだ。人のことは言えないへっぽこぶりである。
■いよいよ車内の大掃除
忘れ物の確認が終わると、次は車内の掃除が始まる。まずはリクライニングシートやシートベルトを元の位置へ戻し、シートカバーのシワを整える。そして座席のホコリやゴミをミニ箒(ほうき)で落とし、座席の隙間まで入り込んで床のゴミをかき集める。
続いて窓、テーブル、手すりを順番に拭いていく。特に修学旅行では、窓一面に子どもたちの指紋が付いていることも多い。車窓の案内をするのだから、その都度窓に顔をこすりつけるように見てくれるのはガイド冥利に尽きる。
しかし、そのために水拭きと乾拭きを繰り返しながら、一枚一枚丁寧に磨き上げるのだ。ガイド冥利と掃除はトレードオフの関係なのかもしれない。新人の頃は雑巾一枚まともに絞れず、「雑巾一つもしぼれないわけ?」と先輩に怒られたこともあった。
今では「もう水分が残っていないのでは」と思うほど絞れるようになったのだから、人は慣れるものだとつくづく思う。テーブルも一見きれいに見えて、溝にはホコリや飲み物の跡が残っていることがある。最後は床全体をモップ掛けし、ようやく掃除がひと段落する。
■サロン席は想像以上の戦場!?
後方の座席をコの字型にし、真ん中にテーブルを置く「サロン席」を希望されることがある。ここだけの話だが、サロン席にしない予定でもサロン車が貸切車に充当されることがある。その場合は最後尾から3列ほどのシートピッチはかなり広い。2列の座席を横に向けるための回転機構が付いているので、その分のスペースが必要なためシートピッチが広いのだ。
サロン席では、お酒を楽しまれるお客様も多い。そのため掃除を始めると、床いっぱいにおつまみのお菓子が散らばっていたり、テーブルにお酒がこぼれていたりすることもしばしばだ。中でも一番衝撃だったのは、一升瓶が床に転がっていた時である。
幸い割れてはいなかったものの、中のお酒は床一面に広がり、車内はベタベタ。思わず悲鳴を上げたのを今でも覚えている。そのためのサロン席なので飲んでいただいて一向に構わないのだが、ここまで汚れていると掃除もひと苦労だ。
それでも翌朝、お客様から「昨日は汚しちゃってごめんね。こんなにきれいにして待っていてくれてありがとう。」と声を掛けていただけることがある。その一言を聞くと、不思議と疲れなんて吹き飛んでしまう。「昨日、頑張って掃除してよかった。」そう思える瞬間である。
だからこそ一つだけお願いしたい。バスはゴミ箱ではない。次に乗られるお客様も気持ちよく過ごせるように、そしてそのバスを誰かが毎日心を込めて掃除していることを、ほんの少しだけ思い出していただけたら嬉しい。
■掃除だけでは終わらない
宿入り前の仕事は掃除だけではない。新人ガイドには、掃除をしながら先輩たちの進み具合を見て全体のゴミを回収したり、翌朝でも間に合う作業を判断したりと、周囲を見ながら動くことも求められる。これが想像以上に難しい。
私は目の前の掃除に集中すると周りが見えなくなってしまうタイプだった。そのため、「掃除が遅い」「ゴミを回収に来ない」と先輩に叱られたことも一度や二度ではない。一つひとつを丁寧にこなすだけではダメなのだ。
全体を見て優先順位を考え、仲間と息を合わせて動くことも、バスガイドには欠かせない仕事なのである。
■見えないところの「おもてなし」
宿に着いてもバスガイドの仕事は終わらないのがお分かりいただけただろうか。忘れ物を探し、車内をきれいに整え、翌日の準備を進め、お客様を気持ちよく迎えるために見えないところで汗を流している。
華やかにマイクを持ってご案内する姿だけが、バスガイドの仕事ではない。お客様が見ていない時間にも、誰かが翌日の旅のために心を込めて準備をしている。そんな”見えないおもてなし”があることを、このシリーズを通して少しでも知っていただけたら幸いである。
次回は、お客様が旅を終え降車した後から車庫へ戻るまで、そして営業所に戻ってからどのようなことをしているのかを明かしたい。
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