29歳で人生初のフェラーリを購入した『GQ JAPAN』の編集部員のイナガキが、ひょんなことからあるスポーツカーを購入することに。はたして、“跳ね馬”そして“ゲレンデ”の次はいかに?
デフロスターのスイッチが動かない!
今、買える“時を止めた”中古車たち──Vol.3 ワンオーナー&1989年式の日産セドリック(Y31)
(前話から続く)大阪・扇町インターチェンジでの不意の雨という洗礼をなんとか切り抜け、名神高速道路へと合流した真紅のエスプリは、一路東を目指してひた走る。
雨は小康状態となったものの、ここに来て私はさらなる絶望に直面していた。エアコンが沈黙した車内で、フロントガラスが雨による湿気で白く曇りはじめる──。視界を確保しようとデフロスターのスイッチに手を伸ばしたが、驚くべきことにそのレバーは固着したかのようにびくとも動かないのだ。もはや風の向きを変えることすら叶わない。
窓を少し開けて換気するしかないが、そうすれば容赦なく雨水が車内を濡らす。まさに前途多難な後半戦の幕開けだった。
逃げるように滑り込んだ滋賀県の草津パーキングエリアで、一度自分を落ち着かせることにした。
クルマを降り、バスタブのように深いサイドシルを跨いで外へ出ると、雨上がりの湿った空気が火照った身体に心地よい。フードコートで喉を潤しながら、駐車場に佇むエスプリを眺める。低くワイドなその姿は、周囲のファミリーカーの中で異彩を放っている。
自分で手に入れた夢のクルマ……スイッチひとつ、レバーひとつが思い通りにいかない不便さすら、どこかこのクルマらしい愛嬌に思えてくるから不思議なものだ。
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草津ジャンクションから新名神高速道路へとルートを取ると、道中の景色は一変した。真新しい舗装が続くこのステージこそ、エスプリが真のグランドツアラーへと変貌する瞬間だった。
アクセルを深く踏み込めば、背後の2.2リッターターボエンジンが甲高い咆哮を上げ、ブーストの掛かりとともに暴力的な加速が身体をシートに押し付ける。
最新の「POTENZA RE-71RZ」が路面をガッチリと捉え、SPAX製ダンパーがうねりをしなやかにいなす(と、思っていたが後日ダンパーは微妙なことが発覚)。ノンパワステゆえに掌に伝わる路面情報は、高速域でこそ安心感へと昇華される。
次なる休憩ポイント、鈴鹿パーキングエリアへと滑り込む。モータースポーツの聖地・鈴鹿の名を冠するこの場所にロータスを停めることは、クルマ好きとして至福の瞬間だ。
F1の血統を感じさせるそのシルエットを見つめながら、これまでのトラブル続きの道中をいいネタだと笑える余裕を取り戻していた。
鈴鹿を出発し、ルートは伊勢湾岸自動車道へと繋がる。
海からの強い横風に見舞われたが、極低重心のエスプリは何事もなかったかのように直進し続ける。
橋の継ぎ目を越える際の「タン、タン」というリズミカルな振動が、コノリーレザーのシート越しに心地よく伝わってきた。
エアコン不動に続き、デフロスターのレバーすら動かない。そんな満身創痍の状態であっても、エンジンと足回りはどこまでも快調に回り続けている。不便さを飲み込み、機械との対話を楽しむ。
新名神から伊勢湾岸道へと抜けるこの道程は、エスプリが長距離をハイスピードで駆け抜けるために生まれた本物のスポーツカーであることを、全身に刻み込んでくれた。
東京まで、あとわずか。私は確信していた。この気難しい相棒となら、無事に帰り着けるはずだと。
I Bought A Secondhand Ferrari 360 Modena/ Installment One29歳、フェラーリを買う──Vol1. 運命の出会い熱狂的なフェラーリファンというわけではなく、スーパーカー好きでもない『GQ JAPAN』の編集者・イナガキ(29歳)が、ひょんなことから中古のフェラーリを購入した! はたして、勢いで買ってしまったフェラーリのある生活とは? 文・稲垣邦康(GQ)33歳、フェラーリを買う──Vol.1 転機はある日、突然やってくる29歳で人生初のフェラーリを購入した『GQ JAPAN』の編集部員のイナガキが、ひょんなことからまたフェラーリを購入した! はたして、2回目の“跳ね馬ライフ”はいかに?34歳、ゲレンデを買う──Vol.1 フェラーリからの次期愛車選びはこうなりました29歳で人生初のフェラーリを購入した『GQ JAPAN』の編集部員のイナガキが、ひょんなことから再び新しいクルマを購入することに。はたして、“跳ね馬”の次はいかに?【連載バックナンバー】
Vol.1 今なら、あのクルマに乗れるのではないか?
Vol.2 ついに実車と対面! 無謀とも言える決断とは
Vol.3 支払総額のリアルと納車前夜の葛藤
Vol.4 納車、そしていざ東京へ!
Vol.5 スタート1分でエアコン故障
Vol.6 給油もひと苦労
Vol.7 意外な居住性
Vol.8 驚きの燃費と誤作動
Vol.9 大阪到着、そしていざ東京へ
文と編集・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.)
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