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梶野彰一が紐解くフレンチ・アイビー──「フレンチ・アイビーは存在しない」

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梶野彰一が紐解くフレンチ・アイビー──「フレンチ・アイビーは存在しない」

アメリカ由来のアイビーだが、英国的なクラシックやフレンチ・シックを取り入れた独自のスタイルも注目を集めている。パリに魅せられ、パリをこよなく愛するフォトグラファーの梶野彰一さんフランス流のアイビーを考察する。

フレンチ・アイビーは存在しないフレンチ・アイビーは存在しない。事実、英語とカタカナでしか通用しない「フレンチ・アイビー」。空間的にも時間的にもツイストしたこの美意識は現在どのように存在するのだろう。ここではフランス・パリにその範囲を限定して考えてみたい。パリジャンのほとんどはこの表現を知らないし、彼らの口からその言葉を聞いたことはない。それもそのはずで、本来’ 60年代半ばにアメリカ東海岸の大学生に端を発するアイビー・スタイルが、パリに飛び火、パリジャンは持ち前のルールに捉われない自由奔放に解釈した着こなしを楽しんでいた。’ 80年代になり、英国や日本の雑誌がそんなムードを取り上げ、キャッチーにタグ付けしたことによって生まれたのが「フレンチ・アイビー」というスタイルなのだ。パリジャンの意識にあるのは、ただその着こなしのエスプリだけだ。

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いわゆる「フレンチ・アイビー」の着こなしは、フランス以外の国の雑誌の誌面で、典型的なアイテムとともに語られてきた。

例えば、ブルックス ブラザーズのボタンダウンのオックスフォードシャツ、色の落ちたリーバイスの501、あるいはホワイト・デニム、タック入りのチノパンツ。夏ならラコステのポロシャツやセントジェームスのボーダーシャツ。シャツは白か水色で、綺麗なカラーリングのセーターを肩からかける。定番の紺ブレ、ネイビーブレザーはダブルが好まれ、ラルフ ローレンに限らず、レノマやサンローランが選ばれるのはパリ的である。薄いベージュのトレンチあるいはステンカラーコートはアクアスキュータムかバーバリーの二択というのはパリジェンヌも同様。ハリス・ツイードのジャケット、グローバーオールのダッフルコートなど英国味も少なくない。足元は白またはボルドーのソックスにJ.M.ウエストンのローファー、ボリュームのあるパラブーツのミカエルやUチップのシャンボードなどがすぐに思い浮かぶ。バカンスなら裸足にバトーと呼ばれるデッキシューズを履いているし、白いスニーカーはケッズ、スタン・スミス、ジャック・パーセル……。2000年代以降のアップデートとして、デニムはアー・ペー・セーのリジッドが最良とされ、前立てのないシャルべのシャツにイニシャルを刺繍すれば間違いなし。カラーコンビが楽しいL / UNIFORMは、エルエルビーンのトートやブレディーのサドルバッグに代わる新たなクラシックとなった。

ブランドを追うまでもなく、彼らはフランス製に固執することなく、アメリカやイギリスの定番も肯定的にミックスする。確かに自分の周りにもこの手の着こなしのパリジャンは多くいたし、今も少なからずいる。

ただ彼らを観察していると、着こなしの源流は明らかに「フレンチ・アイビー」と呼ばれるスタイルだけではない。わがままなパリジャンたちにはアイビーだけでは物足りないのだ、きっと。最近のアップデートに欠かせない要因に、B.C.B.G.(ベーセーベージェー)の復権があったはずだ。B.C.B.G.もまた’ 80年代に生まれた「趣味の良さ(Bon Chic)、育ちの良さ(Bon Genre)」を漂わせるスタイルの呼称で、プレッピーな面は「フレンチ・アイビー」と呼ばれるスタイルと少なからず共有する感覚があると思うが、’ 80年代当時、高級住宅地としてもてはやされた16区に特化して生息していたという局地的な特徴がある。一方で2000年以降、北マレ界隈~右岸のピンポイントでBOBO(ブルジョア・ボヘミアン)という意識の格上げもあった。ミリタリーやワークジャケットなどのヴィンテージが、上品に組み込むのを条件に歓迎されるようになったのは彼らの功績に違いない。

アイビーに限らず、何がフレンチかという「フレンチネス」の再定義をあらためて考える機会が増えたのは、この10年のことだ。2015年以降、アフター・デムナのモードへの反動が大きかったのだと思う。多くのメゾンが極端なオーバーサイズや、逆張りのアグリー・スタイル、ロゴとタグ付けの消費を推し進めたことへの反動で、“趣味の良い”パリジャンたちは一気にモード界隈から逃走した。エディのセリーヌ以外のメゾンが「フレンチネス」を意識していただろうか。アイビー、B.C.B.G.へのクラシック回帰への逃げ道が切り開かれたのは必然だった。

奇しくも2015年、にわかに16区が賑わったのを覚えている。バジル・カディリが「BEIGE HABILLEUR」という感度の高いクラシック回帰のセレクト・ショップをオープンし、その後、ファッション・ディレクターのゴーティエ・ボルサレロはヴィンテージ・ショップを、エマニュエル・アルトのパートナーのフランク・デュランは旅行雑誌『HOLIDAY』のコンセプトストアとカフェをオープンした。タグ付け不要の彼らの“趣味の良さ”は、そのまま雑誌『l ’ étiquette』(2018年創刊)へと展開していく。

一昨年、16区からリュクサンブール公園近くに移転した「BEIGE HABILLEUR」のブティックをのぞく。ここは現時点でパリで最も趣味の良い空間だろう。良質でクラシック回帰の仕立てで信頼を得たHUSBANDS PARISも左岸サンジェルマン界隈に小さな2店目をオープンしたのも同じ頃だった。号を重ね、今や英語版、女性版も出版する『l ’ étiquette』は2022年、パリジャンのスタイルを決める100の銘品を一冊の本にまとめた。この周辺を繋いできたゴーティエ・ボルサレロがディレクターを務めるFURSACは今年1月、初めてのランウェイ・ショーを成功させたばかりだ。

2025年のパリを歩いて「フレンチ・アイビー」そのものを見つけるのは容易ではないかもしれないが、この街の男たちには、トラッドとモードをミックスする自由で寛容な精神があふれているのは見てとれるだろう。

少なくとも、今のパリで大事なのはそういうエスプリだけを視界に入れるように、目を細めて歩くことだ。だってそれ以外があまりに醜いのだから。

SHOICHI KAJINO10代でパリに魅せられて以来、パリと東京を反復し、音楽、映画、ファッション、アートのシーンにどっぷり浸る。ジェーン・バーキンからクロワッサンまで、写真を撮り、「何もしない」で生きている。

WORDS BY SHOICHI KAJINO  PHOTOGRAPHS BY SHOICHI KAJINO

文:GQ JAPAN 梶野彰一
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