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なぜスズキは「軽トラ」にCO2回収装置を載せたのか? マツダとの差別化に見る“日本式脱炭素”の勝算

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なぜスズキは「軽トラ」にCO2回収装置を載せたのか? マツダとの差別化に見る“日本式脱炭素”の勝算

環境価値を創出する車の新たな姿

 自動車が従来の移動手段を越え、環境に寄与する存在へと変わりつつある。世間の関心は世界的な大潮流である電気自動車(EV)への移行に集まりがちだが、日本の自動車メーカーは独自の視点を持ち、別の道も同時に探り始めている。

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 スズキは軽トラックにCO2を回収する仕組みを載せ、それを農業の現場で生かす方法に目をつけた。これに対してマツダは実証実験を重ね、集めた炭素を燃料として繰り返し循環させる形を描く。両社の試みは表面上は似た技術に見えるかもしれないが、狙う市場や用途の方向性はまるで違う。

 これは個別の技術開発に留まらない。自動車メーカーが従来の枠を越えて他産業と結びつき、二酸化炭素を減らすための選択肢を広げている。自動車産業の関わり方が、いま大きく変化している。

多角化へ進む自動車の脱炭素戦略

 不安定さが続く中東情勢を背景とした燃料価格の高騰は、世界市場でのEVへの移行を促す格好となっている。

 日本経済新聞が2026年6月2日付で伝えたニュースによると、世界37か国において同年3月、あるいは4月のEV販売台数が月間で過去最高を塗り替えた。国際エネルギー機関(IEA)による最新の報告書を見てもこの傾向は明らかで、2026年の世界におけるEVの売れ行きは前年に比べておよそ1割伸びる。台数にして2300万台に達する勢いであり、新車市場全体の見通しとしても、そのおよそ3割をEVが占める計算だ。

 だが、すべての移動手段やエネルギー源をひとつの仕組みに委ねてしまう形には、特有の危うさもつきまとう。配電網にかかる重い負荷や、原材料調達をめぐる国同士のかけひきといった難題が常に頭をもたげるからだ。こうした状況だからこそ、液体燃料とエンジンという従来の仕組みを残しながら二酸化炭素の排出を抑える試みが大きな意味を持ってくる。今あるインフラや物づくりの基盤をそのまま生かせるため、社会の初期費用の負担を抑えつつ、現実的な備えとすることが可能だ。

 スズキやマツダが取り組む、走行中の排気から二酸化炭素を回収する技術の開発は、これからの脱炭素に向けた道筋が決してEVという一本道だけにとどまらないことを気づかせてくれる局面にきている。そこには多様な選択肢の広がりが見え隠れしている。

回収炭素の用途をめぐる両社の違い

 両社が進める技術は、どちらもエンジン車から出るガスを捕まえ、空気中への排出を抑える点で目指すところは同じだ。しかし、集めた二酸化炭素の活用段階になると両社の姿勢は分かれる。

 スズキが「人とくるまのテクノロジー展 2026」で披露したのは、軽トラックのスーパーキャリイに回収の仕組みを組み込んだ「CARBON CAPTURE CARRY」だ。排気ガスから集めたCO2を農作物の育成に役立てる試みで、カーボンニュートラル燃料(CNF)と掛け合わせることで、出す量よりも吸い込む量を増やし、実質的なマイナスを目指す。ガスの通り道を三方弁で切り替えて熱い排気を呼び込み、効率低下のもととなる水分を取り除きながら、吸着材でCO2を分離する。多様な走り方に対応しつつ、いかに費用を抑えて効率よく集めるかという現実的な開発が進んでいる。

 これに対してマツダは、ジャパンモビリティショー2025で「Mazda Mobile Carbon Capture(MMCC)」を掲げ、すでにレースの場などで検証を重ねてきた。こちらは、小さな藻が育つときにCO2を吸収して作られるバイオ燃料を使い、製造段階で排出を大きく削ったうえで、走行時の排気からもCO2を回収する形だ。

 回収後の循環方法を見ると、両社の違いはよりはっきりする。スズキが狙うのは、地域の農家がその場でCO2を使い切る地産地消だ。もう一方のマツダは、集めた炭素を再び燃料を作る工程へと戻し、より広い市場へ流通させる仕組みを思い描く。これは性能を競う話ではなく、集めたCO2をどのように社会へ回し、事業として長続きさせていくかという新たな競争の始まりを物語っている。

軽トラと農業を結ぶ地域循環の形

 スズキが回収の仕組みを載せる舞台として軽トラックのスーパーキャリイを選んだのは、地域の暮らしを支える農業との深い結びつきがあるからだ。

 日本自動車工業会が2026年4月に発表した「2025年度軽自動車の使用実態調査」によると、軽トラックの主な使い道のおよそ3割を農業が占めている。運送業などの商業利用よりも農作業の現場に深く入り込んでいるのが実態であり、スズキが地方の生産者にとっていかに身近な存在であるかが伝わってくる。

 さらにこの取り組みは、灯油を燃やして出る二酸化炭素で野菜などを育てるハウス農業の仕組みにうまく噛み合っている。スズキの計算によれば、この仕組みを載せた車でおよそ20km走ったときに出る約2kgのCO2のうち、約半分にあたる1kgを捕まえることができる。これを20a(2000平方メートル)ほどの広さのハウスに運び込めば、これまで灯油を燃やしてまかなっていたCO2の約25%を代わりに補える。結果として農家が買い入れる灯油の量が減り、作物を育てるための費用を直接削ることにつながる。

 集めたCO2の行き先をすぐ近くに確保できるこの形は、移動の道具だった車が地方の農業をエネルギー面から助ける役割を持ち始めたことを意味している。車をただ作って売るだけでなく、地域の生産活動に深く関わっていく自動車メーカーの姿勢の変化が、産業の壁を越えた新たな循環を作り出そうとしている。

既存インフラを生かすマツダの未来

 もう一方でマツダが旗を振るMMCCは、環境に配慮した燃料で走りながら、同時に二酸化炭素も集めてしまう仕組みだ。燃料となる小さな藻は育つ段階でCO2を吸い込むため、作られた時点で排出量を約9割削れる。そこへMMCCが排気ガス中のCO2を2割捕まえることで、ふたつを合わせた計算上の削減効果は110%に達する。空気中の二酸化炭素を1割引き算するような考え方であり、エンジン車の持ち味を生かし、走ること自体で環境負荷を軽くしようという試みだ。

 マツダは2025年11月のスーパー耐久シリーズ第7戦で、レース車「MAZDA SPIRIT RACING 3 Future concept(55号車)」にこの仕組みを初めて載せて走らせた。燃料にはヨーロッパで広がりつつあるバイオディーゼル燃料を選び、細かな穴を持つゼオライトが排気ガス中のCO2を吸い付ける様子を確かめている。

 こうしたアプローチは、これまでの脱炭素の議論を「燃料と回収の仕組みをどう組み合わせるか」という方向へ引き戻す。エンジン車がこの先も選べるということは、部品メーカーや整備拠点、全国の燃料スタンドなど、長い年月をかけて育まれてきた物づくりの基盤を守ることに直結し、自動車産業に関わる人々にとっても無視できない重みを持つ。

 これまで培ってきた技術の延長線上で環境対応を進める動きは、エネルギー業界や既存の部品供給網とも手を結び、産業全体で炭素を上手く巡らせていくための確かな土台となっていく。

二者択一を超えた適地適車の思想

「EVか、それともエンジンか」という二者択一の構図で語られがちな脱炭素の議論だが、実際の暮らしを見渡すと、本質は使い道や地域に合わせた工夫の積み重ねにある。例えば都市と地方の対比だ。ビルやマンションがひしめく都会では誰もが使いやすい充電インフラを整えるだけでも一苦労だが、一戸建ての多い地方であれば、それぞれの家で電気を取り入れる環境を比較的スムーズに用意できる。

 こうした背景の違いは、乗用車と商用車の区別、あるいは先進国と新興国という枠組みで比べたときにもそのまま当てはまる。長い距離を重い荷物を載せて走るトラックや、日々の電力供給がおぼつかない地域に対して、都会と同じような充電網を短期間で敷き詰めるのは現実的ではない。すべての移動手段をひとつの型にはめるのではなく、地域の電気事情や生活様式に合わせて最適な乗り物を選び出す。この「適地適車」という姿勢こそが、長期的に最も費用対効果の高い排出削減をもたらす。

 地域の条件が場所によって違うという事実を受け入れることで、エンジン車がこれからも必要とされ続ける理由が見えてくる。二酸化炭素を減らすアプローチは特定の技術に寄りかかるのではなく、地域や用途に応じた複数の選択肢が並び立つ時期に入ってきた。走行中の排気から炭素を回収する試みも、移動の自由をあきらめずに環境への配慮を両立させる、地に足の着いた進め方として使われる場を広げつつある。

回収炭素の価値化と経済性の壁

 CO2を集める取り組みが広まっていくかどうかは、捕まえたCO2にどれほどの金銭的な価値を持たせられるかに尽きる。スズキが示したように、走行を通じて集めたCO2を具体的な収益へとつなげる道筋が見えてくれば、市場導入は自然と後押しされるはずだ。

 だが、クリアすべき課題も少なくない。車載する以上、その仕組みの重さが燃費や電費に跳ね返るため、軽量化への工夫が欠かせない。同時に、初期費用やメンテナンスにかかるお金が使う人の判断を左右するため、利用者の負担を軽くする補助や、環境効果を金銭的に評価する仕組みの構築も避けては通れない。

 さらに踏み込めば、集めたCO2を運び、実際に使う現場へと届けるための社会的な仕組みを整えることも不可欠だ。企業や利用者がこれを受け入れるかどうかは、結局のところ全体の採算が合うかどうかにかかっている。運用費用に対して、集めたCO2が税金の払い戻しや取引などを通じて手元に利益をもたらす環境が整って初めて、導入の波は社会全体へと広がっていく。

 最終的にこの技術が根づくかどうかは、かかった費用に見合うだけの見返りがあるかという天秤の傾き次第だ。環境への優しさに市場での収益性が結びついて初めて、この試みは産業の確かな土台として定着していく。

排出削減から炭素利活用への競争軸

 これから5年から10年の見通しを立てるならば、二酸化炭素を集める技術がどこまで行き渡るかは、市場の動きに応じていくつかの道に分かれていく。

 EVが主役となる未来が来れば、この仕組みはエンジンの生き残り具合に引っ張られるため、限られた場面での手助け役に落ち着くかもしれない。しかし、地域や使い道に応じて色々な乗り物が共存する未来であれば、日本のメーカーが掲げる歩み方に沿ってハイブリッド車を含むエンジン搭載車が一定の存在感を保ち続ける。その場合、EV施策と炭素回収技術は互いの足りない部分を補い合う対等な選択肢として並び立つ。さらに進んで、集められた炭素そのものが価値を持つ市場が育っていけば、炭素を捕まえる行為自体が儲けを生み出す独立した仕組みへと育っていく。

 今の段階でどの未来が正しいかを決めてしまうのは早計だが、自動車メーカーはすでに「作って売る」というこれまでの商売の枠から踏み出し、他産業の炭素管理を支えるパートナーへと立ち位置を広げつつある。スズキは農業という地域の生活の場に入り込み、その土地で集めたものをその土地で使い切る巡りを作り上げた。もう一方のマツダは、レースでの試みを足がかりにエネルギー産業の製造プロセスへ働きかけ、より大きな産業の枠組みのなかで炭素を回す形を思い描く。価値を届ける相手が違うからこそ、両社はそれぞれに独自のビジネスエコシステムを築くことができている。

 ここで本当に目を向けるべきは、集めた二酸化炭素を誰がどのように使い、社会の中でその価値をどう巡らせていくかという一点だ。二酸化炭素を減らす戦いは、出す量をいかに削るかという段階を終え、集めた炭素をどう生かし切るかという次の舞台へ移りつつある。スズキ and マツダの新しい動きは、動く車がほかの産業と溶け合いながら新たな環境価値を生み出し、産業全体の結びつきをより強固なものへ変えていく流れを物語っている。(成家千春(自動車経済ライター))

文:Merkmal 成家千春(自動車経済ライター)
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みんなのコメント

9件
  • セクシーハムスター
    安直にEV導入に補助金だすより、こういう事業に補助金だすべきだ。
  • csl********
    国や自治体が環境対策としてEV化を唱えるのは、言うは簡単だからでしょうね。手頃にやってる感を国民に示して支持を得やすいです。スズキやマツダの取り組みは実用化にはまだまだ遠いですし、他にも多くの策が研究されているものと思います。それらに期待しています。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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