再配達コストの限界
「置き配」とは、宅配便の荷物を配達員が手渡しせず、玄関先や宅配ボックスなどの指定された場所に置いて届ける方法である。配達員と受取人が直接会う必要がない仕組みだ。人手不足や再配達の増加に対応するために導入された。
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この制度については、
「日本人は人を信頼する文化だから成立した」
とする意見もある。しかし制度の背景にあるのは信頼ではない。置き配が広がったのは、再配達にかかるコストが限界に達したからである。制度設計には、人への信頼という考え方は含まれていない。
実際には、
「盗まれるかもしれないが、それでも置くしかない」
という判断に支えられている。置き配は、人の善意に頼る制度ではない。なるべく人の手を使わずに荷物を届ける、最後の手段として生まれた。配達員の労働負担や人件費の削減、再配達の減少が緊急の課題となっていた。そのため、対面での受け取りの形が見直された。
つまり、置き配は信頼を前提とした制度ではない。むしろ信頼が成立しない状況を前提にして作られた制度である。現在では、防犯カメラや盗難保険、スマートロックといった安全対策が次々と用意されている。
「人はみな善である」
という考え方は、この制度には含まれていない。
「人の目」なき空間の危うさ
兵庫県姫路市で、女子中学生が置き配された「韓国のり」を盗み、「ハズレだった」と話した事件が起きた。この出来事は、置き配という空間に「世間の目」がないことを象徴している。
日本人の道徳心が強くはたらくのは、
「人に見られているとき」
である。例えば、財布を拾ったとき、それを届けるかどうかは、まわりに人がいるかどうかに大きく左右される。人は信頼されているから善いことをするのではない。
「信頼を失いたくないから、信頼されているようにふるまう」
のである。そこにあるのは、社会のルールではない。
「人からどう見られているか」
という意識への反応である。つまり、人の目がない場面では、日本人の行動は変わることがある。
置き配とは、その「人の目」が届かない場所に成り立っている。玄関の前や、アパートの共用廊下、自転車置き場の裏などは、人に見られることが少ない空間である。そうした場所では、制度は初めてむきだしのリスクにさらされることになる。
世間の監視社会
日本の社会は信頼によって成り立っているとよくいわれる。しかし、制度の実態をよく見ると、それは正確には「社会による信頼」ではなく、
「世間による監視」である。
ここでいう「社会」とは、互いに顔の見えない個人が、
・法
・制度
を通じて結びつく仕組みのことである。
・契約
・責任
・権利
といった近代的な枠組みが秩序の基礎となっており、個人の行動は制度によって裁かれ、守られる。裏切りも想定したうえで関係が成立するため、信頼とは本来、リスクをともなう選択である。
一方、「世間」とは、互いの顔が見え、暗黙の了解や空気によって統制される共同体的な感覚である。そこでは制度や法律よりも、「どう思われるか」や「迷惑をかけないか」といった感情的な配慮が優先される。責任の所在がはっきりせず、誰とも知れぬ他者の目に振る舞いが規定される。
このように、日本の秩序の実質的な基盤は社会よりも世間にある。人々は裏切られても信じるのではなく、疑われないように行動する。つまり、信頼されているから善くふるまうのではなく、信頼を失わないように見せることで自分の立場を守っているにすぎない。幼いころから身につく
「迷惑をかけるな」
「空気を読め」
といった規範も、制度ではなく名もなき他者の視線から生まれる圧力である。世間は実在する誰かではない。内面に形成される他者の集合的な想像であり、逃れられず、責任の所在が曖昧なまま人を縛る。
芸能人の謝罪会見で繰り返される「世間をお騒がせしました」という言葉は、この構造を如実に示している。そこに向けられた謝罪は法律や契約の違反ではなく、「空気」の乱れに従うことである。法に違反しなくても責められるのは、世間が制度とは異なる別の秩序の原理に基づくからである。
世間の目消失による規範崩壊
置き配とは、そのような「世間の目」が意図的に欠如した空間である。玄関先、共用通路、無人の屋外などでは「誰かに見られている」という前提が崩れるため、行動の規範が変わる。つまり、制度設計において社会的信頼が働いていないだけでなく、世間による監視も成り立たない場所で制度が運用されていることを意味する。
ここに置き配制度の根本的な脆さがある。制度の背景に社会がないだけでなく、世間も存在しない。そのため、人間の欲望や衝動、怠惰や利己心といった素朴な感情が、他者の目による抑制を受けずに表に現れる。
繰り返す。置き配が成り立っていたのは、人々が倫理的だったからではない。盗難による損失が、全体の物流コストから見て確率的に許容できる範囲内だったからである。制度の裏側にあったのは信頼でも規範でもなく、単なる数値上の損益分岐点である。
しかし、その限界は徐々に近づいている。置き配用ボックスの普及、監視機能の強化、配送業者による顔の見えない受け渡しの補強措置は、人が見ていない場所では制度は続かないという現場の理解の表れである。つまり、世間の目の不在を補うために、今まさに制度が社会に近づこうとしているのである。
見えぬ責任と置き配の現実
人の移動が自動化され、効率よく進む一方で、都市の中では人のいない空間が増えている。宅配もそのような空間を通っていく過程の一部である。そうした場所では、制度は最後には倫理ではなく「構造」によってしか守られない。
つまり、どれほど信頼されていたとしても、誰も見ていない場所においては、その制度自体が強くつくられていなければ成り立たない。日本の住宅地では、
「誰かが見ているようで、誰も責任を取らない空間」
が目立つようになっている。それが置き配という仕組みの土台にある不安である。
置き配は、人を信頼しなくても機能する制度を追い求めた結果として生まれたといえる。だからこそ、盗まれたり壊されたりする危険が、あらかじめ制度のなかに組み込まれている。
「日本人は性善説だから置き配ができた」
という主張は、現実を見ていないだけでなく、社会の仕組みについて考えることをやめている。大切なのは、人が善人かどうかではない。制度が、悪意をもつ人にも耐えられるかどうかである。
「世間」という構造を越えて
この国では、空気に従うことが善とされ、空気を乱すことが悪とされてきた。しかし、空気は制度ではない。空気は変わりやすく、世間は曖昧であり、善意も限られている。
これからの制度設計は、世間や性善説に頼らず、誰もが見てわかり、共有できるルールと責任の仕組みのもとで成り立たなければならない。
置き配の仕組みが問いかけているのは、どこまで人の善意に頼れるかではなく、善意がなくても機能する制度をいかに作るかである。(伊綾英生(ライター))
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外国人とか関係ないよ