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偉大なる経営者、ひとり去る──スズキ・鈴木修会長退任へ

掲載 更新 12
偉大なる経営者、ひとり去る──スズキ・鈴木修会長退任へ

2月24日、スズキは、鈴木修・代表取締役会長が退任し、相談役に就くことを発表した。長きにわたりスズキを牽引した偉大な経営者に、大谷達也がことばを寄せる。

エイジレスという概念

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最近はジェンダーレスに対する意識が高まっているが、今後はエイジレスという概念も必要になるんじゃないか。鈴木修さんが退任すると聞いて、私はそんなことを考えている。

鈴木さんは、いま91歳だ。普通に考えれば経営の第一線からとっくに退いていてもおかしくない年齢である。でも、年齢によって判断するというのは、女性とか男性とかの性別によって資格能力を判断するのと、おなじじゃなかろうか?

「年齢を重ねても能力が優れている人はいる」

そういう考えに立てば、エイジレスという概念は成立すると思う。

若き日の鈴木さんは本当にチャレンジャーだった。ホープ自動車という名もなき自動車メーカーから「ジムニー」の元になる知的所有権を買い取り、いまに至る大ヒットに導いたのは鈴木さんの功績である。いまから40年以上も前に全国統一47万円の価格で「アルト」を売り出して、これまた大成功を収めたのも鈴木さんの手柄だ。

でも、鈴木さんの手腕を物語るのは、そんな過去の栄光ばかりではない。スズキがインドで大成功を収めていることはたびたび報道されているけれど、ハンガリーでも1991年に現地生産を立ち上げていて、いまも年平均10万台ほどのコンパクトカーを世に送り出している。フォルクスワーゲンとの提携は不幸な行き違いで頓挫したが、スズキは驚くほど国際的な企業でもあるのだ。そしてそれは、流暢な英語を話す鈴木さんの鋭敏な国際感覚によるところが大きいとされる。

若い人たちがときとして抱く“頑固ジジィ”というイメージと鈴木さんはかけ離れた存在だ。

失敗をはるかに上まわる成功

40年以上もスズキのかじ取りをしてきた鈴木さんであるが、役職にしがみつくようなところは一切なく、これまでに何度もトップの座を手放そうとしていた。

実際、2000年に長男の俊宏さんに社長のイスを譲ったものの、2008年に会長兼社長となって経営の最前線に返り咲いた。この辺の事情を鈴木さんは詳しく語っていないが、「やっぱりトップの座が恋しかった」というよりは「見るに見かねてトップに戻った」ように私の目には映る。俊宏さんのバイタリティが、鈴木さんには物足りなく映ったのだろう。

そのくらい、鈴木さんは活力に溢れた人だ。挑戦の人といってもいい。

創業家の鈴木姓は名乗っているものの、実は2代目社長の婿養子だったことは広く知られている。つまり、シンプルな世襲で企業のトップに立ったのではなく、競争にもまれて社長の座を手に入れたのだ。「経営は待っているだけではダメ。攻めの姿勢が必要」という主旨のことを以前、語っていたが、チャレンジの人なのである。

もちろん、失敗もあった。1970年代には排ガス規制の対応が遅れて経営危機に陥っている。当時、鈴木さんはまだ専務取締役で社長にはなっていなかったけれど、それでも経営責任はあったというべきだろう。完成検査不正だって、鈴木さんがトップのときに起きた。

でも、鈴木さんは失敗をはるかに上まわる成功を収めてきた。それも過去の栄光ばかりではなく、鈴木さんの経営哲学は現在のスズキの繁栄にも大きく貢献している。

失敗を恐れずにチャレンジし続ける姿勢

「1gでも軽く作れ」は原材料費がクルマのコストに重くのしかかることから発した言葉であるが、実際にはこれがスズキ車の省燃費性、つまり環境性能の向上に役立っている。しかも、最近のスズキの軽自動車は、乗ってみると驚くほど走行性能が優れているし、安っぽくもない。つまり、とてもバランスの優れたクルマに仕上がっているのだ。これについては現場で働く技術者たちの努力も賞賛すべきだが、鈴木さんが「1gでも軽く作れ」と発言したことで開発現場が活性化し、効率的なクルマ作りを実現できたのは事実だろう。こういうわかりやすい指針を示せることは経営者として非常に重要な能力だと思う。

最近では大変革期に差し掛かった自動車産業界に対して改革の必要性を説いている。柔軟な発想でこの難局を乗り切らなければいけないとも訴えている。いずれも“頑固ジジィ”の発言とは思えない。

失敗を恐れずにチャレンジし続ける姿勢。ゼロの状態から新たな価値を作り出す創造力……そういったものを持ち合わせている人は少ない。自動車メーカーにかぎらないが、手堅い経営判断だけを下していると確実に没落する。攻めの姿勢、豊かな発想力が必要不可欠なのだ。通常、年齢の若い人のほうがそういった能力を多く持ち合わせているケースは多いが、年齢だけで人を判断すると大切なことを見誤る。だからエイジレスという概念が必要なのだ。

鈴木さんは、エイジレスで評価されるべき人だ。その退任を、私は心から残念に思う。

文・大谷達也

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みんなのコメント

12件
  • 中国じゃなくインドを選んだ
    VWに子会社扱いされケンカして提携解消
    この人はスゴイ
  • 戦後の日本の自動車産業の成長を支えてきた最後のカリスマだと思います。
    お疲れさまでした。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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