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”悪態”もライダーの個性のひとつ? FIAの取り締まりとは正反対、基本原則を貫くMotoGP

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”悪態”もライダーの個性のひとつ? FIAの取り締まりとは正反対、基本原則を貫くMotoGP

「クラッシュのせいでタイヤ戦略が台無しになった(Our tyre plan was f***ed up by the crash)」

 これは4月末に行なわれたMotoGPスペインGPの金曜日、グレシーニのチームマネージャー、ミケーレ・マシーニが語った言葉だ。チームのライダーであるアレックス・マルケスにとって波乱の1日となったその金曜日を受けてのコメントだった。

■ドライバーへの“言葉狩り”や相次ぐスタッフ辞任……ベン・スレイエム政権下のFIAに起きた数々のスキャンダルまとめ

 もちろん、モータースポーツ界ではこの手の発言は珍しいものではない。しかし、これはマシーニがチームのガレージの奥でひっそりとつぶやいた言葉ではない。MotoGPの国際中継で、はっきりと放送されたのだ。

 さらに、第4戦カタールGPの土曜日、ドゥカティファクトリーチームのフランチェスコ・バニャイヤも、自らの不本意な走行を簡潔に「ミスった(I f***ed up)」と振り返った。

 この発言はそこまで多くの視聴者に届いたわけではないが、MotoGPの公式記者会見でのモノであり、公式ウェブサイトでは中継、そしてアーカイブとして誰でも視聴可能だ。

 同じくMotoGP公式サイトでは、昨年10月にペドロ・アコスタ(当時はテック3)が10秒間に3回Fワードを発した場面も確認できる。これはSpotifyなど、公式ポッドキャストが配信されているプラットフォームでも同様だ。

 こうした発言に対して、罰金や処分が科されたことは一度もない。もうお分かりだろう。

 つまり、MotoGPの運営側は、他の世界選手権に比べて“暴言”に対してずっと寛容な姿勢を取っているということだ。

 FIAの統括するF1やWRCでは、ここ数ヵ月、ドライバーの不適切な言葉遣いを厳しく取り締まる動きが見られる。F1王者マックス・フェルスタッペン(レッドブル)の“豊かな語彙力”のおかげで、この問題はたびたび注目を集めてきた。

 沈黙による抗議、団結の姿勢、そして不安定な休戦状態……WRCがこの問題に一応の決着をつけた後、FIAのモハメド・ベン・スレイエム会長は、「もしかするとFIAの強硬な姿勢は見直すべきかもしれない」と認める発言をしたほどだ。

 しかしこうした選手権の現状を端的に言えば、競技中の悪態は許されるものの、正式なメディア対応での悪態は制裁の対象となるということだ。ドライバーはコックピットを離れたら舌打ちや放送禁止用語に気をつけなければならない。

 FIMとドルナによって運営されているMotoGPでは、”ボキャブラリー・ポリス”が登場する気配はまだない。マシーニのようなコメントは発言者から謝罪を引き出すかもしれないが、そこまでだ。

F1とMotoGPが持つ文化の違い

 MotoGPの態度は、選手権の伝統的な「リラックスした」イメージと完全に一致している。サーフィンと同様、バイクレースも数十年前にカウンターカルチャーの色彩を帯びた娯楽として登場した。近年は観客の多様化に努めているものの、F1が金持ちの子供や裕福な実業家の遊び場というルーツから脱却しているとは言いがたい。

 バイクレースは、組織面でのプロフェッショナリズムの進歩は明らかであるにもかかわらず、カウンターカルチャー的な要素をいまだに残している。その理由の多くは、競技者が四輪レーサーにはないレベルの危険に直面していることにあるだろう。

 目に見える形で怪我をするようなバイクレースでは、自らをクリーンで用心深い人間だと見せかけようとするのはナンセンスなことだ。

 レース中にライダーが無線で怒りのメッセージを世界に発信することがないというのもひとつだ。四輪の選手権では、ステージの結果が悪かった時やアクシデントの直後であっても、フロントランナーは放送メディアに対応しなければならないが、MotoGPでは不思議なことに、トップ3だけをカメラで追いかけるという限定的な習慣がある。

 仮に放送のシナリオの幅が広がったことで悪態が増えたとしても、それはライダーたちの様々な性格やバックグラウンドが明らかになる別の方法にすぎない。これはMotoGPがそのキャラクターを売り込む際に、差別化を図るために使えるものだ。少なくとも現時点では、FIAの選手権が使っていないツールだと言える。

 20歳の若者が故意にそういった言葉を口にすることをどう思うかはともかく、例えばペドロ・アコスタ(KTM)がこの若い時期にどんな人物であるかをファンが理解する助けになることは確かだ。

 プラマックのジャック・ミラーは、巧みに口汚いフレーズを織り交ぜてくることで知られており、「あなたが持っている***で小便をすることしかできない」というのが、ヘレスでライディングに関する質問をしたメディアに対する彼の答えだった。

 少なくとも、この発言は世界中に生中継されることはなかった。しかし、これはミラーの記者とのセッションの典型的なやり取りだった。アコスタもまた母国語では、特に「活字」メディアとの特別な対談では、よりクリエイティブになる。

 少なくともF1ドライバーは、ブリーフィングのような場所では自由に発言することが許されていると思うかもしれないが、FIAはそのような集まりでさえもクリーンであることを期待していることがオーストラリアGPで明らかになった。

 すべてのドライバーが頭を悩ませているわけではないだろうが、こうした事態に幻滅したと言われるフェルスタッペンが突然バイクレースに転向したいと言い出したとしても、それは理解できることかもしれない!

 冗談はさておき、MotoGPでは悪態に対するアプローチが異なる。ライダーの個性を際立たせるために自然体で話す自由があるのだ。例えばMotoGPはスペイン人やイタリア人のライダーが多い。スペインやイタリアのファンなら彼らの母国語での些細な言い回しなどで個性を感じ取れるかもしれないが、それ以外の国の人たちにはそれができない。その上で英語のコミュニケーションにも検閲が入ってしまうと、なおさら何も伝わらないだろう。

 MotoGPがそのようなことを考えた形跡はないが、ライダーやチームが時折口を開いて汚い言葉を使うと、上層部の人々がうろたえることは想像に難くない。

 ポケットに入るデバイスであらゆるコンテンツを即座に共有可能な世界に生きる現実主義者なら、もはや汚い言葉(そしてそれよりもはるかに危険なもの)から子供たちを守ることは望めないことを受け入れているかもしれない。

 リバティ・メディアがMotoGPを買収したことで、F1とMotoGPをつなぐ存在として、将来的にMotoGPにも”協調”を推し進める可能性は否定できない。それが、我々が生きている繊細な時代の、不当な恐れであることを願う。

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みんなのコメント

2件
  • エガちゃんねらー
    Fワードをはじめとしたタブーワードなんて
    映画、アニメ、音楽、あらゆる所で散々使われてる
    パルプフィクションのカモンニガーに対して
    人種差別だ!なんて噛み付くバカいないよ
  • ツヨッシー
    まあ、人間ですもの。感情的になるのは当たり前。
    自分もモースポを数十年やってきましたが、ウェアラブルカメラで映像を撮っていても、自分の肉声で「ちょっと汚い言葉」がいくつも入ります。ただそれは自分へ向けての表現だったりするわけで、相手を侮辱し罵倒する表現ではありません。
    この、緊迫した競技中の感情表現が、マシン主義になってきているmotoGPの中でも「人間臭さ」を感じ取れて良いのでは無いか?と思います。どんなに正確無比なライディングをするスターライダーでも、失敗した時には人間臭さが出てしまいます。
    それはアニメを見ていても分かる通り、例えば生死を彷徨う戦闘中でも色々な心理が「セリフ」で描かれているものです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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