2022年の発表から4年。「ヴィンスは消えてしまったのか…」そんな憶測を覆すように、ヴィンスの2ストロークスポーツ・ドゥエチンクアンタのプロトタイプが日本に上陸した。久しぶりに箱根で2ストロークサウンドを響かせて感じたのは、懐かしさではなく新しさだった。
文:小川 勤 写真:南 孝幸 取材協力:モータリスト
VINS「DUECINQUANTA」インプレ(小川 勤)
元フェラーリエンジニアの夢のバイク。そのプロトタイプが待望の上陸
「バラバラバラバラッ、バイーン、バイーーン」。スロットルを開けると同爆90度V型2気筒の2ストロークエンジン特有のエキゾーストが響き、懐かしい。しかし、懐かしさに浸ったのはわずかな時間だけだった。
先進的かつ独創的な車体は新たなるバイクの誕生を感じさせるのに十分だし、何よりも250ccの2ストロークエンジンは、驚くことに完全新設計なのだ。
このDuecinquanta(ドゥエチンクアンタ=イタリア語で250の意味)を制作したのは、イタリアのVINS S.r.l.(ヴィンス)社。懐古主義ではなく、最新技術で2ストロークのバイクを再定義してきた。今回はそのプロトタイプが待望の上陸。箱根で試乗させていただく機会を得た。
ヴィンスは、元フェラーリのエンジニアであるヴィンセンツォ・マッティア氏が、フェラーリにほど近いマラネロに2017年に設立した会社。ヴィンセンツォ氏は、2014年からドゥエチンクアンタの構想を抱き、ガレージで設計を開始。フェラーリで学んだ技術があれば、幼い頃に夢中になった俊敏かつパワフルなバイクを現代に甦らせることができると考えたのだ。
その後、2017年にヴィンス モータースを設立し、その年のEICMAでプロトタイプを発表。エンジン&シャシーをゼロから作り上げた。
ヴィンスはドゥエチンクアンタ発表後に、このエンジンに惚れ込んだイギリスのランゲン社とパートナーシップを結び、エンジンを供給。100台限定のランゲン 2ストロークが発売され、メーカー在庫はすでに完売(日本は残り1台)している。
『ヴィンスは消えてしまったのか…』。プロトタイプ発表後、音沙汰がなかったためこんな推測も飛び交ったが、ヴィンスは4年間ランゲンのエンジン制作に邁進。その水面下でヴィンセンツォ氏はドゥエチンクアンタに情熱を捧げ、細かい部分を改良。現在は、オーダーが入れば生産できる体制とのことだ。
目の前にあるドゥエチンクアンタは、プロトタイプである。
実はドゥエチンクアンタの情報は世界中を見ても少ない。ではなぜこのタイミングでプロトタイプが日本に上陸したのか…。輸入元のモータリスト代表の野口英康氏は「ヴィンセンツォ氏と友達になってしまったんですよ」と笑う。
いずれにしてもドゥエチンクアンタに試乗できるのは光栄なこと。価格は2022年当時の発表では990万円を予定、とのことだったが、昨今の円安によっては変動する可能性もあるだろう。
ちなみにヴィンスは、バイク製造がメインの企業ではない。大きな投資会社の資金も入っていない。3D モデリングやエンジニアリング、特に空力設計とカーボン製造が事業の中核で、アルファロメオ、ミニクーパー、パガーニ、アストンマーティンなど欧州の様々な四輪メーカーの仕事を請け負っている。
全ては軽さのために。何物にも似ていない世界線を貫く
『Light is Right=軽さは正義』。車重112kg(!)のメリットは、取り回した瞬間に伝わってくる。ドゥエチンクアンタに採用された数々の機構は、すべて軽量化を追求した合理的な構造。巨大なカーボンモノコックフレームは、足まわりやエンジン懸架はもちろん、燃料タンクや車体内にこもった熱を排出する機能、シートカウルも兼ねた巨大な一体パーツ。もはや理解が追いつかないし、ここまでやるのかと唸るしかない。
前後MUPO(ムポ)製のサスペンションを採用する足まわりも個性的だ。フロントはホサック式が採用され、フロントアームはカーボン製。リアはカーボンスイングアームと両端からリンクを介してショックを押し引きするパラレルダブルプッシュロッド式。このシステムにより、前後足回りは従来的な構造より20~30%重量を削減できている。
プロトタイプのブレーキはJ.JUAN(ホタホアン)製だが、市販バージョンはブレンボに変更される。
そして注目すべきはエンジンだ。ユーロ5+規制に対応する逆回転クランクを採用する249.5ccの2ストロークエンジンは、アプリリアの250cc GP マシンに搭載されていたロータックス258を研究した、V型2気筒の同爆仕様。試乗したプロトタイプは75HPだが、市販バージョンは83HPを発揮するという。
また、今回は混合給油だったが、市販車は分離給油になり、オイルタンクの温度を安定させる方法やオイルを圧送させるシステムも特徴的。燃料や吸気系、さらに冷却システムは数々の特許に溢れている。似ているものはどこにもなく、想像できない乗り味にワクワクする。
「2ストローク=懐古」ではない。新しさに溢れる現代の2ストロークスポーツ
ブリッテンを意識したカラーリングは、細部を理解するほどにそれが単なるリスペクトでないことがわかる。「自分の理想のエンジンとシャシーでバイクをゼロから作る」。ブリッテンが夢見た世界を、現代の技術で描き直しているのだ。
エンジンはセルで簡単に目覚め、アイドリングも安定。ブリッピングしても白煙はほとんど出ない。これが冒頭のワンシーン。感動に似た気持ちでいっぱいになる。クラッチミートも簡単で、むやみに回転を上げる必要はない。エンジンはトルク型で、タコメーター表示のない5000rpm以下でもフレキシブルに走れる。
走り出して感じるのは軽さよりも安心感だった。いわゆる80~90年代の2ストロークレプリカのようなコンパクトでどこまでもコーナリングスピードを上げたくなるような感覚ではない。低中速域ではフロントまわりに手応えがあり、速度を上げていくと軽快さが出てくる。
車体はそれほどコンパクトではなく、コーナーのアプローチでしっかりと向きを変え、すぐさまバイクを起こしてタコメーターを高回転に飛び込ませるように組み立てる。
250cc2ストロークスポーツといえば、柔らかなシャシー&サスペンションのピッチングモーションを感じながら、どこからでも曲がり出せるハンドリングを想像するが、ドゥエチンクアンタは走りの組み立てがビッグバイク的。向きを変えるポイントやラインを明確に決め、立ち上がりでもバイクを起こしてからパワーを与えたい。また、走行中のディメンジョンの変化が少ないが、それを理解した乗り方で挑むと楽しさが広がる。
エンジンは8000rpmを超えたあたりから振動が増え、それとともにパワー感が広がっていく印象。75PSの2ストロークの高揚感を一般道で感じられる悦びは、とても大きい。高回転を使い出すとスロットルを開けた際のドンツキなどもあるが、この日は雨上がりの真夏日で、湿気が多く、標高も高い場所での試乗だったことをお伝えしておこう。
数分走っていると振動で腕が痺れてくるので、クールダウン。この感覚も久しぶりだ。高いギアで5000~6000rpmを繋ぎながら流す。驚くほど従順だ。ストレートで少し大きめにスロットルを開けると、二次曲線的に加速していく。気持ちがいい。プロトタイプであることを考慮すると、この完成度は上々である。
ドゥエチンクアンタは、最新技術で再定義した2ストロークスポーツだ。それは、一人のエンジニアの夢であり、浪漫でもある。
VINS「DUECINQUANTA」ライディングポジション・足つき性
シート高:NA
ライダーの身長・体重:165cm・68kg
現代のバイクにはない異質な軽さに驚く。ポジションは腰高だが、前傾は思いの外キツくない。車体の上で動きやすく、積極的に乗りたくなる自由度の高さも魅力。前後サスペンションは跨ってもあまり沈まない。足つきはそれほど良くないが、車体が軽いため不安は皆無。
VINS「DUECINQUANTA」各部装備・ディテール解説
一つの部品に複数の役割を与えることで、部品点数を減らし、車体をシンプル化。F1や航空機などと共通する設計だ。試乗車はヴィンスがイタリアでナンバーを取得した際に使用されたプロトタイプ車で、ブルーとピンクのカラーリングは独創的な構造で知られたニュージーランドのオリジナルレーサー・ブリッテンをオマージュしたもの。市販車は好きなカラーを選択可能だが、オーダーしているオーナーの中にはこのカラーを希望する人もいるという。
オートクレーブを自社に持つヴィンス。ボディパーツだけでなく、スイングアームやフロントアームなど、多くにドライカーボン製パーツを採用する。パーツを軽くするだけでなく、設計で軽い車体を生み出している。
大きなラムエアダクトの中央に上下2灯式のLEDヘッドライトをマウント。その上には小ぶりなポジションランプが付く。ヘッドライトは上がハイ、下がロー。ミラーはバーエンドタイプ、グリップはdomina製のものが装着されていた。
シートはハニカム構造のゲルフォームを貼り付けたレーシーなタイプ。乗車定員は1名で、タンク部分からストッパーの部分までが一体のカーボンモノコックシャシーとなり、メンテナンスの際はテールカウルを着脱する構造。
メーターはカラーTFT。バーグラフタイプのタコメーターが元気よく上昇していく感覚は2ストロークならでは。電圧や外気温、オドメーターなどを表示可能で、タコメーターのスケールの「0」の次がいきなり「6」なのがこのマシンのキャラクターをよく表している。
前後シリンダーからまっすぐ伸びる排気系レイアウトが印象的。ラジエターは車体内部に取り込まれ、走行風を積極的に当て、負圧で後方に逃す設計。空力設計を得意とするヴィンスらしいディテール。製造は手間がかかり、さらに難易度もかなり高いはず。
タンクカバーからシート部分まで、メインシャシーは一体型のドライカーボンモノコック。オートクレーブを社内に持ち、フォーミュラやスーパーカーなどのカーボンパーツ製作も請け負うヴィンスだから製造可能な、ユニークな車体だ。
フロントサスペンションはホサック式と呼ばれる独創的なもの。車体側に固定された上下2段のアームが衝撃吸収を担い、そこに繋がるショックユニットで減衰を行なう。4輪車のダブルウイッシュボーンやBMWのデュオレバーにも近い構造で、衝撃吸収と操舵(ステアリング)機能がそれぞれ独立しているため、通常のフロントフォークよりも外乱に強く、高い安定性と正確なハンドリングを実現する。
乗りこなすには慣れや理解が必要だが、走行中にキャスター&トレールが変化しないメリットは大きく、冷却効率の向上にも貢献している。通常のフロントフォーク部に相当するカーボンアームはホイールキャリア。
リアサスペンションはパラレルダブルプッシュロッド式。スイングアームから伸びる2本のロッドが上下2枚の三角形のリンクプレートを押し、これがショックユニットを押し引きする。4輪のフォーミュラカーにも採用されているこの設計は、車体のシンプル化はもちろん、Vツインエンジン後方バンクのチャンバーのストレート化にも貢献している。試乗車のショックユニットはMUPO製。
249.5cc の90度Vツイン2ストロークエンジンは単体重量はわずか28kg。逆回転クランクを採用し、燃料やオイル噴射は電子制御。プロトタイプでは鼓型の排気デバイスを搭載しているが、市販車ではホンダのRCバルブに近い形状に変更され、ピストンがコスワース製、オイルポンプもデロルト製からミクニ製に変更となる予定。最高出力は83HP(試乗車は公道仕様で75HP)となる。ミッションはカセット式の6速を採用。
エキゾーストは前後それぞれのシリンダーから独立して伸びており、リアショックユニットを横置きとすることでレイアウトの自由度を高め、排気のストレート化を実現している。プロトタイプのチャンバーはスチール製だが、市販車ではステンレス製に変更される予定。
ブレーキはΦ300mm径のダブルディスクにラジアルマウントキャリパーの組み合わせ。キャリパーはスペインのJ.JUAN(ホタホアン)製が装着されているが、市販型ではブレンボ製に変更される予定。イタリアで登録されたプロト車両を持ち込んだため、現状ABSは装備されていないが、市販版では簡易型のABSを装着して販売される。
スイングアームは車体同様ドライカーボン製。前後ホイールはBST製のカーボンリムだが、センターハブはヴィンスで内製したものを使用する。ドライブチェーンはDID製で、フリクションの低減にこだわって、Moto3タイプのERZ415という、細身のものを使用する。装着タイヤはミシュランのPOWER CUP EVO。
[ 表が省略されました。オリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
今乗っているRZ250Rが楽しすぎるので、これで十分です。