世界の名所を、クルマ好き男子がひとりで訪ね歩く旅。ちょっとマニアな視点で名所を切り取り、いつもの旅にクルマのエッセンスを加えたい人へ向けてレポート。第17回は、だれもが憧れたスーパーカー、カウンタックの内装を手掛けてきた職人の工房をご紹介。
フェラーリやランボルギーニといったメーカーが、自社の過去モデルを文化遺産として保護する目的で工場出荷時当時の姿にレストアし、メーカー自らが公式鑑定書を発行してその価値を守るサービスを行うようになった。
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フェラーリでは「クラシケ」、ランボルギーニでは「ポロストリコ」と呼ばれるこうしたサービスは21世紀になって正式にプログラムとしてスタートし、1960年代~1970年代のクラシックカーにも注目が集まるようなった。
特に1963年に創業したランボルギーニは、フェラーリに比べると歴史も浅く、ミウラが現在のようにオークションで高値で落札されるようになったのも、つい最近のことである。そしてミウラがクラシックカーとして再評価された要因のひとつに、「ポロストリコ」の存在があった。
2015年以降、ランボルギーニ本社のあるサンタアガタ・ボロネーゼ近くにあるカロッツェリアでは、ミウラやカウンタック、350GT、LM002などのクラシック・ランボルギーニが、レストアのために入庫されている姿を頻繁に見かけるようになった。
今回訪れたのは、サンタアガタ・ボロネーゼから北東に30kmほどに位置するフェラーラ。目的の工房はマントヴァ通りに面しており、手入れのよく行き届いた、ちょっと懐かしい感じのする工房だ。
パオロ・スタンツァーニ氏との思い出
ブルーノ・パラテッリ氏は、1941年生まれ。パラテッリ氏がランボルギーニに携わるようになったのは、1972年から。ランボルギーニの内装を手掛けることになったのは、カウンタックの市販化が決定してからである。
ランボルギーニの仕事は、パオロ・スタンツァーニ氏が直接パラテッリ氏の工房を訪ねてきたところからスタートした。
ベルトーネが製作したプロトタイプのカウンタックを見たスタンツァーニ氏は、このままの内装では市販化は無理だと判断し、パラテッリ氏を訪ねてきたという。プロトタイプのカウンタックのシートというのは、ボディにクッションが貼り付けてあるだけでリクライニングどころかスライドもできないシートだった。そこで、カウンタックのシートをデザインし、シェルの設計からパラテッリ氏が行ったという。
シートの幅は、通常のクルマだと56cmあるのに比べ、カウンタックは44cmしかなく、その点を苦心したとパラテッリ氏は語ってくれた。
パラテッリ氏によるとスタンツァーニ氏は、サンタアガタ・ボロネーゼ周辺のカロッツェリアなどに仕事が回るよう働きかけていたらしい。パラテッリ氏のところにカウンタックの内装を手掛ける仕事の依頼も、そうしたスタンツァーニ氏の地場産業を守ろうとする姿勢の一環だったのである。
技術者としてのスタンツァーニ氏は、数多く語られることはあるが、こうした一面がメディアで語られることはあまりない。かつてスタンツァーニ氏をインタビューした時に感じた、彼の優しい側面に改めて触れた思いであった。
パラテッリ氏の工房を訪ねたとき、すでにスタンツァーニ氏が逝去したあとだったということもあり、スタンツァーニ氏の話になると、パラテッリ氏は何度も胸をつまらせ、涙を拭っていた
ランボルギーニからまとまった仕事を依頼されるようになったパラテッリ氏は、スタンツァーニ氏の気持ちに仕事で応えようとますます精進したそうだ。地元の人たちからスタンツァーニ氏が、心から慕われていた様子を窺い知ることができるエピソードである。
仕事が増えたことで、より広い敷地の工場に移転したり、大勢の職人を雇ったりするようなことは、パラテッリ氏はしなかった。あくまでもこの工房でできるだけの仕事を請け負い、品質を落とさず満足のいく仕事をすることにこだわったそうだ。当時のランボルギーニの生産台数は、家内制手工業レベルで間に合うほどだったということでもある。
新車当時に手掛けた人物にレストアしてもらう幸せ
2013年、ランボルギーニ創業50周年の際に開催された大規模なイベントでは、ボローニャのマッジョーレ広場でコンクール・デレガンスが開催された。そのとき、スタンツァーニ氏やダラーラ氏とともに、パラテッリ氏も審査員を務めている。
いま、パラテッリ氏が新車のランボルギーニの内装を手掛けることはない。すべて本社ファクトリーでシステマチックに行われている。しかし、車両が工房に入庫しているわけではないが、パラテッリ氏のもとにはレストレーションの依頼が絶えることはない。
サンタアガタ・ボロネーゼ周辺に点在しているカロッツェリアにフルレストアで入庫するミウラやカウンタックなどの内装パーツが、パラテッリ氏のもとに送られてくるからだ。
パラテッリ氏のファクトリーを訪問した日、カウンタックの内装一式とミウラのシートがパラテッリ氏の手で新車当時の姿に戻されるのを待っていた。
カウンタックの内装に関しては、四十数年の時を経て、この工房に戻ってきたことになる。新車の時に自分の手で仕上げた内装を、再び自分の手でレストアできることを、パラテッリ氏は喜んでいる様子だった。
しかしこれは、なにもパラテッリ氏だけでなく、カウンタックのオーナーにとっても幸せなことに違いない。当時、縫製に使っていたミシンなどの機械もいまだ現役だ。最初に作られた時と同じ機械・道具、同じ場所、そして手掛けた本人にレストアしてもらうのだから。
カウンタックが現役だった頃の工房の様子を伺っていると、パラテッリ氏はミシンのような機械に工具を取り付け、余ったレザーにダダダーッと、模様をパンチングしはじめた。
ある日、カウンタックの内装をデコレーションしたいと思い、パンチングしたレザーをインサートとしてあしらったという。オーナーからの発注ではなく、独断でその飾りを加えたのだそうだ。
いまでこそアドペルソナム・プログラムで、シートのパイプやステッチの色にいたるまでカスタマーが選べる時代になった。しかし、カウンタックの時代には、職人のセンスと気分で内装の細かい仕様が決められるという、なんともおおらかな時代だったのだ。
そうしたおおらかな時代の空気が、降り注ぐ陽光に包まれた真っ白な工房には、いまも残っているようだった。
文・尾崎春雪 編集・iconic
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