スーパーGTのGT500クラスで2023年、2024年、2025年の3連覇を達成し、2026年は4連覇目に挑むTGR TEAM au TOM’S。2026年も引き続き、36号車 au TOM’S GR Supra(坪井翔/山下健太)の吉武聡チーフエンジニアに特別コラムを寄稿していただき、毎戦レースのターニングポイントとなった部分を中心に振り返ります。
8月1~2日の第4戦富士で36号車は予選11番手から追い上げ、急な雨への判断、タイヤマネジメント、そして給油リストリクター対策を含むピット作業の精度を武器に4位入賞を果たしました。今回は、最重量ハンデの中で36号車がどのように強みを引き出し、結果につなげたのかを解説いただきます。
「自信が揺らいだ」苦境からの初優勝。ホンダ/HRC開発陣のプレリュードGT覚醒とさらなるポテンシャル
●燃リスでも抜けるロングランの強さ
みなさんこんにちは。TGR TEAM au TOM’Sの吉武です。
まず、令和8年熊本地震で被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。僕自身、熊本に知り合いがいたり、兄が近い地域に住んでいることもあって、胸が締めつけられる思いでした。一刻も早く地域が復旧へ向かうことを願っています。今回のレースでは、36号車のボンネットに『がんばろう熊本』のステッカーを貼らせていただきました。少しでも熊本のファンの皆さんに元気を届けられたら、そして僕らも一緒に戦っている気持ちを伝えられたらと思いながらレースに臨みました。
この第4戦は開幕2連勝の影響で、36号車はサクセスウエイト50kg、燃料リストリクター、さらに給油リストリクター1段階というハンデを背負って戦いました。唯一の給油リストリクター適用となったことで、シーズンでもっとも厳しい週末になることを予想。公式練習のプランは、決勝想定のロングランの確認に専念しました。予選よりも決勝を重視し、タイヤのグリップ変化を徹底的に確認したかったからです。午後の予選は14台中11番手と厳しい結果でしたが、これは想定内。ドライバーも「いっぱいいっぱいだった」と言っていましたし、予選順位については割り切って決勝に集中。レースペースの手応えは悪くなかったので戦える可能性があると感じていました。
決勝前、グリッドに並んだ直後に突然雨が落ちてきました。あれは誰も予想していなかったと思いますし、グリッドが前のチームはかなり慌てたはずです。周囲はウエットに替えたり、またスリックに戻したりと慌ただしかったですが、僕らは後方スタートなので失うものはありません。ウチのトラックエンジニア・伊藤大晴は「スリックのまま行く」と決断。タイヤを外せば温度が冷えてしまいますし、良い見極めでしたね。今年でトラックエンジニア2年目の伊藤は決断力も上がっていて、いろいろなトライも臆さないですし、僕が助言する必要もほとんどなくなってきていて、本当に頼もしく成長しています。
レース開始直後には、ホームストレート上で64号車Modulo HRC PRELUDE-GT(大草りき/イゴール・オオムラ・フラガ)が他車と絡んで大きなクラッシュに見舞われたのですが、フラガ選手が無事に退院したという報告を聞いて、本当に胸を撫で下ろしました。レーシングカーの安全性が証明された一方で、観客席やピット側の安全については改めて検証が必要だと感じる事故でもありました。このクラッシュで前の3台が順位を落とし、36号車は11番手から8番手へ。3つ順位を挙げられたので、ウチのチームにとっては最初の追い風でした。
そこからは山下選手の燃リスなりの戦い方が光りました。燃費走行も念頭に置きつつ、ライバルがタイヤを使ってペースダウンするのを待ち、スティント後半で勝負する。ハンデを背負ったクルマの戦い方を熟知している王者らしい走りで、14号車ENEOS X PRIME GR Supra(福住仁嶺/大嶋和也)と16号車ARTA MUGEN HRC PRELUDE-GT(野尻智紀/佐藤蓮)の2台をオーバーテイクすることができました。序盤のセーフティカーランによるスロー走行で、給油リストリクターの影響が少し軽減されたのも助かりました。
ピット作業は、ライバルより遅らせつつトラフィックも避けられる28周目に実施。タイヤ交換の速さはもちろん、ドライバーの燃費走行の技術、燃リス車としての燃費向上、そして給油量の計算精度など、細かな要素のチリツモで給油リストリクターによるロスを抑えられました。給油リストリクターが1段階入ると約10秒遅くなるのですが、チーム全体でその遅れを最小限に済ませることができたと思います。
第2スティントの坪井選手も、山下選手と同じくロングランの強みを最大限に発揮。終盤までグリップを保たせる走りで、後半に38号車KeePer CERUMO GR Supra(大湯都史樹/小林利徠斗)と17号車Astemo HRC PRELUDE-GT(塚越広大/野村勇斗)をパス。公式練習のうちにタイヤの振る舞いを理解していたからこその走りでした。この日は路面温度が予想よりも低めで、もっと高い温度を想定したタイヤを持ち込んでいたライバルもいたようですので、その差もレース全体のペースに影響したのではないでしょうか。
結果はでき過ぎの4位。最重量ハンデでこの結果は、本当にチーム全員の努力が噛み合った結果だと思います。
決勝のベストラップこそ7番手でしたが、レースを通じて高いアベレージを維持できたのは、ドライバーが燃費走行を織り交ぜながらタイヤを丁寧に扱い、ピックアップやデグラデーション(タイヤの性能劣化)を抑えつつ長く速く走るドライビングをしてくれたおかげです。そして、それを可能にしたのは、公式練習からロングランを重ね、タイヤやドライバーのフィーリングを細かく確認してきた積み重ねでした。瞬間的な速さではなく、総合力でレースを組み立てられたことが、今回の4位という結果につながったのだと思います。
●37号車の惜敗、プレリュードの成長、もてぎ2連戦への不安
僚友の37号車Deloitte TOM’S GR Supra(笹原右京/ジュリアーノ・アレジ)は3位で今季初表彰台を手にしました。ただ、もう少し噛み合えば勝てたレースだったと思います。右京選手の第1スティントは非常に良いペースだったので、ピットインを引っ張れれば理想的でした。ただ、ピット作業を終えたライバルが前に現れ、ニュータイヤの相手を抜けずに予定よりも早くピットに入らざるを得なかった。あれがなければ、ペースの良さを活かしてトップまで上がる可能性は高かったと思います。
また、今回ワン・ツーを決めたホンダHRCプレリュードGT勢は、3カ月のインターバルを最大限に活かしてきた印象でした。改善すべき点が明確な状態で3カ月取り組めたわけで、いわゆるシーズンオフの開発とは意味が違います。ニューマシンらしい大きな伸びしろを感じましたし、ストレートスピードの向上や、わずかな燃費改善も見て取れました。後半戦は確実に脅威になると思います。
あと、シーズン最終戦がモビリティリゾートもてぎでの2レースになったことについては、正直プレッシャーを感じました。チームとしてそこまで苦手意識があるわけではありませんが、路面舗装が変わってから一度も走れていないという部分が気がかりです。今年はレース本番までテストがなさそうで、持ち込みタイヤを外したら終わりという感覚ですので、難しい週末になると感じています。
次の第5戦鈴鹿は、ハンデ的にマシンがこれ以上遅くなることはありませんが、給油リストリクターが2段階目に入ります。今回よりも大きくタイムロスする可能性が高いですが、今回のような決勝ペースが発揮できれば、1ポイントでも獲りに行く戦いは充分可能だと思っています。
●Profile:吉武聡(よしたけ さとし)
福岡県出身、1979年3月23日生まれ。自動車メーカー勤務を経てTRD(現TGR-D)へ入社し、2013年にトムスへ加入。F3のエンジニアを務めながら、2014年からはスーパーGT GT500クラスで36号車のデータエンジニアを、2020年からはトラックエンジニアを担当。2021年、2023年、2024年、2025年の王者に輝いた。2026年も36号車のチーフエンジニアを務め、スーパーフォーミュラ・ライツでも35、36、37、38号車の4台のチーフエンジニアを担当する。
[オートスポーツweb 2026年08月11日]
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