現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 【ヒットの法則160】ケイマンSはボクスターSとはまさに似て非なる存在だった

ここから本文です

【ヒットの法則160】ケイマンSはボクスターSとはまさに似て非なる存在だった

掲載 更新 2
【ヒットの法則160】ケイマンSはボクスターSとはまさに似て非なる存在だった

2006年、ケイマンSの日本上陸はポルシェファンから大きな注目を集めていた。ほぼ同じスタイルを持ったケイマンとボクスターは明らかに兄弟関係にあり、911カレラと911カレラカブリオレと同様の関係にあるのではないかというモヤモヤがあったのだ。そこでMotor Magazine誌ではケイマンSとボクスターSを比較試乗、その疑問に応えている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年3月号より、タイトル写真はケイマンS・右とボクスターS)

ミッドシップ2シーターとして実用性はなかなか高い
ついに日本上陸なったケイマンS。エントリーポルシェとして今なお大きな魅力をたたえるボクスターを下地に作られたこの2シータークーペは、ポルシェファンにとって大いに気になる存在であるはずだ。

【くるま問答】アイドリングストップ機能はよいことばかりではない。OFFスイッチはいつ使う?

他ならぬ僕もその一人で、911への道は遠くともボクスターSなら頑張れば何とか…と思っていたところに約80万円アップで割り込んだケイマンSは、何とも複雑な気持ちにさせてくれるニューモデルである。となれば結論を出さないわけにはいかない。

初対面のケイマンSは思っていた以上に魅力的な出で立ちだった。絞り込まれた後部ピラーと豊かなフェンダーの盛り上がりが絶妙な対比を見せるリアクオーターからの眺めは、これまでにない独得の色気を醸し出している。

単純に表現すればボクスターSよりも抑揚が効いていてワイド感も強い。ポコンと盛り上がったコンパクトなルーフから低く引き下ろされたテールエンドへのラインも軽快で走りそうだ。後部はリアウインドウごと開閉するハッチバックで、リッド下のトランクスペースは深くはないものの、小振りなスーツケースくらいは納まりそう。

もちろんボクスターSと同じくフロントフード下にも150Lの深いスペースがあるので、ミッドシップ2シーターとしては実用性はかなり高い。それに、シート後方の一段高い部分にも荷物固定用のカーゴネットが張られ、左右にはリッド付きの小物入れも設けられ、積極的にスペースを使える配慮が行き届いている。ボスクターの場合、ここは収納したルーフに占領されるから、ケイマンSの日常の使い勝手は一応2+2の形態を採る911に次いで高い。

ケイマンSに乗り込む。3連メーターに整然としたセンターコンソールは相変わらず視認性/操作性とも良い。シートは細身ながら身体をしっかりと支えるタイプ。試乗車にはパワーシートが備わっており、ステアリングにはテレスコピックに加えチルトも備わるのでベストポジションを作り出すのは容易だ。

各部の造形はボクスターSとほぼ同じだが、やはり屋根があるとないでは雰囲気はかなり違う。オープンにした時のボクスターSはやはり爽快だが、ケイマンSには独自のタイト感がある。ただしだからといって狭苦しく感じることはない。これはウインドーのオープニング面積がキチンと取れていて視野を妨げられるような感覚がないから。唯一オープン時のボクスターSに劣るのは斜め後方の視界。もっともこの点でオープンとクローズドを較べること自体ナンセンスではあるが。

ボクスタークーペではなく、いたずらにハードでもない
エンジンに火を入れる。ケイマンSのフラット6は3384cc。最高出力295psはボクスターSの3179cc/280psより一枚上手という設定になる。これも悩ましさを倍増させる一因だ。パワーが同じでオープンかクローズドかの違いだけだったら、もっと平常心で臨めたはずである。まあ、だからこそケイマンSはケイマンSであって、ボクスタークーペではなかったわけなのだが…。

エンジンが目覚めるとキャビンは快音に満たされる。ミッドシップとは言え必要以上にノイズが大きく感じるようなことはなく、常用域ではオーディオも十分楽しめるレベルの音量だ。

ボクスター同様タッチの良い6速MTを1速に入れ、クラッチをそっとつなぐ。すると十分なトルクに乗ってケイマンSはスルリと滑り出した。ボクスターSと較べると排気量が増している分トルクも太いが、そもそもどちらもフラットな特性だし、ボディが軽いこともあって常用域での大きな違いは感じられない。ただ、3000~4000rpmと盛り上がっていく過程の盛り上がり感はやはりケイマンSの方がシャープに感じられる。

今回の試乗車は、ボクスターSがスポーツクロノパッケージ付き。ケイマンSはPASMのみでクロノは付かず、したがってアクセルレスポンスなどは固定なのだが、ボクスターSのクロノでスポーツモードを選択しアクセルレスポンスを向上させた状態以上のキレの良さを、ケイマンSでは味わうことができた。さらに回転を上げると5200rpmを境に音質が変わり、伸びも一際盛り上がる。この尻上がりのパンチはボクスターSにはない味わいだ。

この領域での音質もケイマンSは魅力的だ。オープンのボクスターは音が上方に抜けていく感じなのに対し、ケイマンSは快音のボリュームがどんどん上がっていく感じで走りの世界により深く浸れるのである。

しかし、それにも増して明確な差を見せたのが、ボディ剛性に起因する走り味である。ボクスターに対し2倍の曲げ剛性が得られているというケイマンSのボディはともかくガッシリとしており、それがステアリング、ペダルフィール、路面からの入力(つまり接地感)といったものをより鮮明にしている。最後にはシフトフィールにまで違いを感じてしまったが、これはフレッシュな状態だったケイマンSに対し、ボクスターSが2万キロオーバーのマイレッジを重ねていたのが原因だろう。

ともあれ、熟成が進みもはや剛性面で不満を感じることはないと思っていたボクスターも、あのケイマンSのソリッド感を味わってしまうと、やはりオープンボディの限界を感じずにはいられないというのが実感である。

例えば、ミッドシップ特有の素早い動きを警戒しつつジワリとアクセルを踏み込んで行くような場面で、ケイマンSはリアタイヤの状況をより正確に伝えて来る。だからよりリラックスして走りにのめり込め、得られる達成感も大きい。ボクスターSとケイマンSの最大の違いは、ここに集約されていると言っても良いと僕は感じた。

ただし、だからといってボクスターを否定する気にはなれない。較べれば緩くマイルドな味わいだが、それでも十分に走らせて楽しい。研ぎ澄まされたソリッド感を求めるか、多少の曖昧さはあってもバランスは上々で、さらにオープンの爽快さも手に入るボクスターにするか。この辺はもう完全に好みの世界だと思う。

ひとつ付け加えるなら、ケイマンSは乗り心地も上質だ。サスペンションはボクスターよりハードと聞くが、剛性の高いボディはそれを完全に押し切っている感じで、ゴツゴツと来るようなレベルの低い固さとは無縁の質の高い乗り心地を実現している。これは今回の試乗車にPASMとバネ下重量の軽いセラミックブレーキのPCCB(この効き味がまた強烈だった)が奢られていたのも一因だろうが、ともかくケイマンSはいたずらにハードなスポーツモデルではなく、足として愛用できる汎用性も十分に備えている。

テールヘビーな911をワインディングで振り回すには相応の覚悟が要るが、手頃なパワーと理想的なウエイトディストリビューションを備えたケイマンSなら思う存分走り込めそう。以前、この役どころはボクスターが担っていたのだが、ケイマンSはそのお株を完全に奪ってしまった。オープンエアが楽しめないこと以外失ったものなく、むしろ得たものの方が大きい。いやはや、何とも悩ましいエントリーポルシェが出てしまったものだ。(文:石川芳雄/Motor Magazine 2006年3月号より)



ポルシェ ケイマンS(2006年) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4340×1800×1305mm
●ホイールベース:2415mm
●車両重量:1380(1410)kg
●エンジン:水平対向6気筒
●排気量:3387cc
●最高出力:295ps/6250rpm
●最大トルク:340Nm/4400~6600pm
●トランスミッション:6速MT(5速AT)
●駆動方式:MR
●車両価格:777万円(819万円)※2006年当時

ポルシェ ボクスターS(2006年) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4330×1800×1295mm
●ホイールベース:2415mm
●車両重量:1380(1410)kg
●エンジン:水平対向6気筒
●排気量:3179cc
●最高出力:280ps/6200rpm
●最大トルク:320Nm/4700-6000pm
●トランスミッション:6速MT(5速AT)
●駆動方式:MR
●車両価格:695万円(737万円)※2006年当時

[ アルバム : ケイマンSとボクスターS はオリジナルサイトでご覧ください ]

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

勝田貴元、パンクで後退も挽回「まだ諦められない。ファンの声援が力になる」/ラリージャパン デイ2
勝田貴元、パンクで後退も挽回「まだ諦められない。ファンの声援が力になる」/ラリージャパン デイ2
AUTOSPORT web
いよいよ正式発表!? デザイン一新の[新型フォレスター]登場か! トヨタHV搭載でスバル弱点の燃費は向上なるか
いよいよ正式発表!? デザイン一新の[新型フォレスター]登場か! トヨタHV搭載でスバル弱点の燃費は向上なるか
ベストカーWeb
荒野にポツンと1軒のカフェ!?…25ドルでキャンプサイトを確保。オーストラリアはトレイルも何もかもナメてかかってはいけません!【豪州釣りキャンの旅_10】
荒野にポツンと1軒のカフェ!?…25ドルでキャンプサイトを確保。オーストラリアはトレイルも何もかもナメてかかってはいけません!【豪州釣りキャンの旅_10】
Auto Messe Web
ローソン初日15番手「路面コンディションに苦労。今日の学習を役立て、トップ10に食い込みたい」/F1第22戦
ローソン初日15番手「路面コンディションに苦労。今日の学習を役立て、トップ10に食い込みたい」/F1第22戦
AUTOSPORT web
ボッタス、PUエレメント交換で5グリッド降格が決定。RB勢はエキゾーストを交換/F1第22戦
ボッタス、PUエレメント交換で5グリッド降格が決定。RB勢はエキゾーストを交換/F1第22戦
AUTOSPORT web
タナクが王座目指して猛加速。僚機2台はクラッシュ&失速、トヨタに選手権逆転の光明【ラリージャパン デイ2】
タナクが王座目指して猛加速。僚機2台はクラッシュ&失速、トヨタに選手権逆転の光明【ラリージャパン デイ2】
AUTOSPORT web
燃費と運転体験の両立 フォルクスワーゲン・ゴルフ GTEへ試乗 電気で最長130km走れるHV!
燃費と運転体験の両立 フォルクスワーゲン・ゴルフ GTEへ試乗 電気で最長130km走れるHV!
AUTOCAR JAPAN
北米の自動車博物館ハシゴ旅! 往年のF1GPカー「ペンスキーPC-1」に出会えて大感激!!…が、展示車両数の多さにすべてを見ることができずに大後悔…
北米の自動車博物館ハシゴ旅! 往年のF1GPカー「ペンスキーPC-1」に出会えて大感激!!…が、展示車両数の多さにすべてを見ることができずに大後悔…
Auto Messe Web
角田裕毅 初日10番手「一日のなかで状況を好転させ、方向性を見出した。Q3進出のため調整を続ける」/F1第22戦
角田裕毅 初日10番手「一日のなかで状況を好転させ、方向性を見出した。Q3進出のため調整を続ける」/F1第22戦
AUTOSPORT web
イモトアヤコ、600万円超の「“オシャ”ハイエース 」購入! 「車中泊楽しそう」「テンション上がる」反響多数のゴードンミラー「GMLVAN V-01」とは
イモトアヤコ、600万円超の「“オシャ”ハイエース 」購入! 「車中泊楽しそう」「テンション上がる」反響多数のゴードンミラー「GMLVAN V-01」とは
くるまのニュース
日産、英国のゼロ・エミッション義務化に「早急」な対応求める 政府目標は「時代遅れ」と批判
日産、英国のゼロ・エミッション義務化に「早急」な対応求める 政府目標は「時代遅れ」と批判
AUTOCAR JAPAN
「柏の杜オークション」会場で「パラモトライダー体験走行会」開催! 参加者だけでなくボランティア活動にも興味を持ってもらえた1日でした
「柏の杜オークション」会場で「パラモトライダー体験走行会」開催! 参加者だけでなくボランティア活動にも興味を持ってもらえた1日でした
Auto Messe Web
WRCラリージャパンで発生した“一般車両コース侵入事件”、FIAは「非常に深刻な問題」として調査へ。来季大会にも暗雲
WRCラリージャパンで発生した“一般車両コース侵入事件”、FIAは「非常に深刻な問題」として調査へ。来季大会にも暗雲
motorsport.com 日本版
サンパウロGP3位の勢いそのままに……ガスリーがラスベガス予選3番手「最後のアタックはアドレナリンが溢れたよ!」
サンパウロGP3位の勢いそのままに……ガスリーがラスベガス予選3番手「最後のアタックはアドレナリンが溢れたよ!」
motorsport.com 日本版
【旧車高騰の背景を見たり?】足を運んだファンは過去最大の1万2500人! 全米最大のJDMイベント
【旧車高騰の背景を見たり?】足を運んだファンは過去最大の1万2500人! 全米最大のJDMイベント
AUTOCAR JAPAN
アルピーヌ、東京オートサロン2025に『A110 Rチュリニ』など出展へ。山野哲也のトークショーも実施
アルピーヌ、東京オートサロン2025に『A110 Rチュリニ』など出展へ。山野哲也のトークショーも実施
AUTOSPORT web
12月1日は岡山国際でドラテク磨き! 初心者向け「カルガモクラス」もある「TOYO TIRES PROXES DRIVING PLEASURE」は要チェックです
12月1日は岡山国際でドラテク磨き! 初心者向け「カルガモクラス」もある「TOYO TIRES PROXES DRIVING PLEASURE」は要チェックです
Auto Messe Web
F1第22戦水曜会見:レースディレクター交代は「知らなかった」と驚くラッセル。一方で対話を続ける意思も明かす
F1第22戦水曜会見:レースディレクター交代は「知らなかった」と驚くラッセル。一方で対話を続ける意思も明かす
AUTOSPORT web

みんなのコメント

2件
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1012.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

83.01730.0万円

中古車を検索
ボクスタースパイダーの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1012.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

83.01730.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村