現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 戦後の力強い野心の表れ メルセデス・ベンツ170 S 秘密情報部員が乗ったカブリオレ(2)

ここから本文です

戦後の力強い野心の表れ メルセデス・ベンツ170 S 秘密情報部員が乗ったカブリオレ(2)

掲載
戦後の力強い野心の表れ メルセデス・ベンツ170 S 秘密情報部員が乗ったカブリオレ(2)

英国の秘密情報部員がオーナーだった170 S

戦後間もなく、メルセデス・ベンツは乗用車の生産を再開したものの、1951年の時点では戦前の規模へ届いていなかった。ドイツ国内には経済不安が残り、ベルリンの東部を管理下にしていたソ連は、政治的な抗議活動を力で抑制していた。

【画像】奇跡的なドイツ復興を牽引 メルセデス・ベンツ170 S 同時期の2ドアモデルと300SL 最新のCLEも 全138枚

さらに、再び世界を分断するような冷戦も勃発。資本主義側と共産主義側でのスパイ活動は、徐々に本格化していった。

1955年に、メルセデス・ベンツ170 S カブリオレBのオーナーになったのが、英国の秘密情報部、通称「MI6」に所属し暗号解読を任務としていたハワード・グレヴィル氏。ベルリンのウェストエンド地区にあるアパートで、密かに活動していたようだ。

その地区は復興半ばで、市街地はまだ荒廃していた。アパートには、照明や暖房がなかったという。ベルリン東部のオリンピアシュタディオンにMI6の本部は置かれており、そこまでの上質な移動手段として、自らの成功を感じ取っていたかもしれない。

彼は、欧州各地の政府機関を訪れることも多かったようだ。信頼性に優れ高速なクルマは、心強い相棒になったに違いない。有力者が乗るような、クロームメッキで飾られたカブリオレのメルセデス・ベンツは、理想的なモデルといえただろう。

グレヴィルは、第二次大戦後に諜報活動を開始している。ドイツ海軍で暗号解読部門の主任を務めた人物と友人になり、人づてでMI6の職員に採用されたらしい。

自然と誇らしい気持ちが湧いてくる

グレヴィル氏は1956年に英国へ戻るが、この170 S カブリオレBも連れ帰っている。当時の記録によれば、走行距離は8万8000kmに達していたという。

ガソリンが極めて品薄で高額だった時代に、かなりの経費が使われたことになる。さらにいえば、新車時の車両価格は1万2850マルク。ドイツの平均年収の6倍に及ぶ金額だった。富の象徴といえるような高級車は、容赦なく走り込まれたようだ。

グレートブリテン島の彼の自宅は、ロンドンから遠くない、南東部のエセックス州ブレントフォードという小さな町にあった。170 S カブリオレBは、SXC 29のナンバーで登録され、1972年まで所有されていたようだ。

その後、次のオーナーが本格的なレストアを開始。20年近くを費やし、現在のようなコレクターズ・コンディションへ仕上げている。

美しいメルセデス・ベンツには、戦後の混沌とした香りはまったくない。現代のベルリンのように、好ましい印象を与えるだけだ。過度に飾られず堂々とした容姿は、ロンドンの市街地へ紛れると、不思議な素朴さすら漂わせる。

町を行く人が、物珍しそうに眺めていく。かつてのグレヴィルも、ベルリンの通りで同じ様な視線を浴びていたかもしれない。ウエストラインは高く、眩しく輝くクロームメッキが縁取る。自然と、誇らしい気持ちが湧いてくる。

機械的な苦労をドライバーへ伝えない

サイドバルブの1767cc直列4気筒エンジンが静かに燃焼音を響かせ、悠々とアスファルトを進んでいく。シャシーは強固で、4速マニュアルのトランスミッションは、ゴムブッシュを介してマウントされている。機械的な苦労を、ドライバーへは一切伝えない。

すべてのギアに、変速時に回転を合わせるシンクロメッシュが備わり、長いレバーを介して滑らかにシフトアップできる。ホワイトのステアリングホイールは大径で、想像以上に軽く回せる。

内装にはウッドトリムが惜しみなく用いられ、クロームメッキの装飾と見事に調和している。グローブボックスにはロック機能が備わり、ダッシュボード中央にはシーメンス社製のラジオが鎮座する。

贅沢とまではいえないものの、装備は当時としては充実している。空間にはゆとりがある。通常の170よりホイールベースが伸ばされ、全幅も広げられたおかげで、居心地がいい。ボディ後方に載るスペアタイヤは2本。実用性も忘れていない。

ソフトトップを折り畳むと、頭上には大空が広がるが、後方視界は遮られる。静かにたくましく回転するエンジンは、意欲的な回頭性を楽しむのに不満ない加速を生み出す。情報では、130km/hでの走行も厭わないとか。最高出力は53psだが、かなり活発だ。

メルセデスの力強い野心が表れている

カーブへ突っ込むと、当時のメルセデス・ベンツの悪癖といえた、スイングアクスルによる跳ねるような挙動が現れる。だが、ステアリングホイールは正確に反応する。乾燥した路面状態にある限り、軽くない車重を望んだとおりに操れる。

優雅な雰囲気のオープン・グランドツアラーとして、170 S カブリオレBは滑らかに走らせるのが理想的。しなやかな乗り心地と不足ないパワーに浸りながら、余裕ある自動車移動を満喫できる。

少し控えめかもしれないが、メルセデス・ベンツが真剣に目指したものが達成されている。より大きく優れたクルマを作ろうという、力強い野心が表れているように感じた。

協力:クラシック・クローム社、カローラ・ダイムラー社

メルセデス・ベンツ170 S カブリオレB(1949~1951年/欧州仕様)のスペック

価格:1万2850マルク(新車時)/12万5000ポンド(約2262万円)以下(現在)
生産数:2433台
全長:4455mm
全幅:1684mm
全高:1633mm
最高速度:120km/h(170 S サルーン)
0-97km/h加速:29.0秒(170 S サルーン)
燃費:8.4km/L(170 S サルーン)
CO2排出量:−g/km
車両重量:1217kg(170 S サルーン)
パワートレイン:直列4気筒1767cc 自然吸気サイドバルブ
使用燃料:ガソリン
最高出力:52ps/4000rpm
最大トルク:11.3kg-m/1800rpm
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

角田裕毅、ラスベガスで躍動し予選7番手「ミスター・ガスリーには離されたけど……アタックには満足。良いフィードバックもできている」
角田裕毅、ラスベガスで躍動し予選7番手「ミスター・ガスリーには離されたけど……アタックには満足。良いフィードバックもできている」
motorsport.com 日本版
まるで「“ミニ”フェアレディZ」!? 全長4.1mの日産「コンパクトクーペ」が斬新すぎる! 短命に終わった「NXクーペ」とは?
まるで「“ミニ”フェアレディZ」!? 全長4.1mの日産「コンパクトクーペ」が斬新すぎる! 短命に終わった「NXクーペ」とは?
くるまのニュース
【ラリージャパン 2024】開幕!! 全行程1000km、SSは300kmの長く熱い戦い
【ラリージャパン 2024】開幕!! 全行程1000km、SSは300kmの長く熱い戦い
レスポンス
「日産 GT-R  プレミアム エディション Tスペック」は、諦めない!不屈の国産スポーツカー、未だ一級品の証し【新型車試乗】
「日産 GT-R プレミアム エディション Tスペック」は、諦めない!不屈の国産スポーツカー、未だ一級品の証し【新型車試乗】
Webモーターマガジン
AM放送が聴けない「電気自動車」が数多く存在! FMラジオは搭載されているのになぜ?
AM放送が聴けない「電気自動車」が数多く存在! FMラジオは搭載されているのになぜ?
THE EV TIMES
ヤマハがNetflixアニメ用に未来のレースマシン「Y/AI」をデザイン、実物大モデルも
ヤマハがNetflixアニメ用に未来のレースマシン「Y/AI」をデザイン、実物大モデルも
レスポンス
”第2の波”を生んだ挑戦者、それはレズニー傘下で喘ぐamtだった…!【アメリカンカープラモ・クロニクル】第39回
”第2の波”を生んだ挑戦者、それはレズニー傘下で喘ぐamtだった…!【アメリカンカープラモ・クロニクル】第39回
LE VOLANT CARSMEET WEB
今週、話題になったクルマのニュース4選(2024.11.23)
今週、話題になったクルマのニュース4選(2024.11.23)
@DIME
レッドブルのペレス、今季6度目の予選Q1敗退。3戦続けてRBの角田&ローソンに敗れる「マシンに根本的な問題がある」
レッドブルのペレス、今季6度目の予選Q1敗退。3戦続けてRBの角田&ローソンに敗れる「マシンに根本的な問題がある」
motorsport.com 日本版
トヨタ「コンパクトSUV」なぜ消滅? “全長3.9m”級の元祖「ヤリスクロス」的存在な「ヴィッツSUV」に注目! 14年で幕を閉じた「ist」とは?
トヨタ「コンパクトSUV」なぜ消滅? “全長3.9m”級の元祖「ヤリスクロス」的存在な「ヴィッツSUV」に注目! 14年で幕を閉じた「ist」とは?
くるまのニュース
シャープでクールなNEWグラフィック! SHOEIが「NEOTEC 3」の新たなグラフィックモデル「ANTHEM」を発売
シャープでクールなNEWグラフィック! SHOEIが「NEOTEC 3」の新たなグラフィックモデル「ANTHEM」を発売
バイクのニュース
ラリージャパン唯一の女性ドライバー、平川真子が意気込み。兄・亮に「クラス優勝をするところを見てほしい」
ラリージャパン唯一の女性ドライバー、平川真子が意気込み。兄・亮に「クラス優勝をするところを見てほしい」
AUTOSPORT web
トヨタ陣営の23XIとフォードのRFKが、来季2025年NASCARカップシリーズにて3台体制に拡充
トヨタ陣営の23XIとフォードのRFKが、来季2025年NASCARカップシリーズにて3台体制に拡充
AUTOSPORT web
F1ラスベガスGP FP1:序盤から上位につけたメルセデスがワン・ツー。ノリス、ルクレール、フェルスタッペンが続く
F1ラスベガスGP FP1:序盤から上位につけたメルセデスがワン・ツー。ノリス、ルクレール、フェルスタッペンが続く
AUTOSPORT web
ラッセル、サインツ抑えポールポジション! ガスリー驚異の3番手、角田裕毅もQ3進出7番手|F1ラスベガス予選
ラッセル、サインツ抑えポールポジション! ガスリー驚異の3番手、角田裕毅もQ3進出7番手|F1ラスベガス予選
motorsport.com 日本版
新潟~青森直結 壮大な「日本海東北道」全通まであと少し!? 約320kmの「すごい高速」最後の未開通部どこまで工事進んだ?
新潟~青森直結 壮大な「日本海東北道」全通まであと少し!? 約320kmの「すごい高速」最後の未開通部どこまで工事進んだ?
くるまのニュース
F1ラスベガスGP予選速報|ラッセルPP獲得! ガスリーが驚きの3番手。角田裕毅も7番手と好結果
F1ラスベガスGP予選速報|ラッセルPP獲得! ガスリーが驚きの3番手。角田裕毅も7番手と好結果
motorsport.com 日本版
ヒョンデ、旗艦EVの『アイオニック5』を刷新。次世代800V電源システムで航続距離は703kmに延伸
ヒョンデ、旗艦EVの『アイオニック5』を刷新。次世代800V電源システムで航続距離は703kmに延伸
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村