余りに高価すぎた美しいクーペ
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)創設者ジョン・ヒースが急逝した後、HMモータースのガレージにはシリーズ2のシャシーが1台分残っており、アベカシスはワンオフのロードカーを制作することに決める。サスペンションはレースカーのまま活かし、レース用のジャガーCタイプのエンジンに、フェイクレス社製のカムを組み、Dタイプのエンジンヘッドを載せた。
さらにアベカシスは美しいクーペボディをデザインし、アストン マーティンのデザイナーでもあった友人のフランク・フィーリーへスケッチを見せる。アベカシスに説得されたフィーリーはスケッチを元に手直しを加え、ボディを具現化する。
その結果、1958年としては極めてセンセーショナルだった、エレガントなグランツーリスモが誕生する。ジャガーXK150は当時デビューから時間を経ており、Eタイプが登場する3年も前の時代。HMモータースのクーペはイタリアのスタイリング・ハウスが生んだ最高のボディだと高い評価を得た。
車内はレザー張りの内装に厚手のカーペットが敷かれ、ダッシュボードには計器が整然と並ぶ。当時としては珍しいパワーウインドウで、ラジオとスピーカーも付いていた。ボンネットはフロントヒンジで、アストン マーティンDB2/4のように、エンジンへのアクセス性も良好。大きなリアハッチとリアガラスはアストン マーティンの流用で、広いラゲッジスペースが大きな燃料タンクの上に広がる。
ジョージ・アベカシスはこの美しいクーペを「ジョージズ・フォリー(愚かなジョージ)」と呼んだ。製造コストがかさみすぎ、顧客向けに量産することすら無理だったためだ。そして、アベカシスはこのクルマへの興味を失い、さほど乗らずに売却されてしまう。
メカニカル音と排気音の心地よいハーモニー
クーペはフランスのコレクターを経て、ヴォルフガング・シュネドラー博士によって1996年にドイツへと持ち込まれた。購入時点の走行距離は2万4000km足らずで、22年間の所有期間で2万2000kmほどを走った。息子とともに、エンスタール・クラシックなど、欧州各地で開かれているラリーイベントに参加しているそうだ。
そんなわけで、HWM社が生み出した初めてのクルマと最後のクルマが、わずか数キロ程度離れた場所に存在しているとは、なんと珍しい偶然だろうか。不思議なことに、フランクフルトから80kmほど離れたハルガルテンの美しい中庭で今回の取材を受けるまで、お互いのことは知らなかったそうだ。
1948年当時、ジョン・ヒースはシトロエンのエンスージャストで、HWMのワークスカラーを明るいシトロエン・ライト15のオプションカラーにあった、明るいメタリックグリーンに決めた。クルマを手に入れたウィレムスはストリームラインのレストア中に近似色を探し、ホンダのクルマに近似色「ハムステッド・グリーン」があることを発見する。
水平に伸びるラインに、ボンネットやボディサイドに無数に穿たれたルーバー、丸みを帯びたテールが与えられたデザインは実際より大きく見える。楕円形のグリルにはフォグライトが納まる。70年前のオリジナルよりも小ぶりな4スポークのステアリングホイールのおかげもあり、ぶどう畑の間に伸びる道では思いのほかコンパクトに感じらた。
いまのところジャガー製のギアボックスを搭載しているが、ウィレムスは1952年のアルファ・ロメオエンジンを搭載したHWMに採用されていた、プリセレクター・トランスミッションに載せ替えたいと考えている。エンジンノイズは美しく、チェーン駆動されるカムのメカニカル音とドライバーの右後ろから聞こえるエグゾーストノートが、心地良いハーモニーだ。
写真以上にカッコいいクーペボディ
キャブレターはオリジナルのアマル社製のものではなくウェーバー製が付いており、始動時にクラッチを繋ぐには少し回転数を上げる必要があるものの、3000rpmを超えると力強く滑らかにクルマを進める。ウィレムスが選んだカーブと起伏に富んだ試乗ルートを、速めのスピードでHWMを走らせる喜びは本物だ。
フロントサスペンションは独立懸架式だが、トライアンフの横置きリーフスプリングとウイッシュボーンが由来。ステアリングラックは前輪駆動のシトロエンのもので、当時最も確かな接地感が得られるものだった。現代の水準で見ても軽快かつ正確で、情報量も濃い。ブレーキも一般道レベルなら効きも充分あり、ペダルのタッチも硬く良好。バランスに優れ、レスポンシブなアルファ・ロメオのエンジンも相まって、ウィレムスは仕上がりに喜んでいる。
アルファ・ロメオのエンジンはジャガー製のものより軽量なため、前後の重量配分も改善し、サーキットでの走りもずっと良くなった。最高出力は100ps近くも下がったそうだが、新しいニュルブルクリンク・サーキットのラップタイムは4秒も縮んだという。素晴らしい結果だ。
一方で「ジョージズ・フォリー」クーペは、写真で見ていたよりも実物は格段にカッコよく、全体のまとまりも遥かに優れていることがわかった。突き出したフロントグリルに、少しえぐられた部分に配されるテールライト。プロポーションは低く長く、今にも駆け出しそうな躍動感がある。ちなみにテールライトはヒルマン・ミンクス・シリーズIIIと同じ部品なことは、内緒。
シュネドラー博士はボディをジョージ・アベカシスの選んだ落ち着いたブルーへと塗り替え、ボラーニ社製のワイヤーホイールを合わせて、アルフィン・ドラムブレーキには冷却穴を開けている。インテリアの内張りはブルーとホワイトのレザー張りだが、ほとんどがオリジナルだという。シートは柔らかく快適だ。
状態の良いジャガーEタイプ並みに速い
身長が180cm以上あったアベカシスに窮屈だといわせた車内だが、わたしにとってはヘッドルームも充分。ステアリングホイールの位置も丁度いい。ずらりと並んだメーター類が壮観で、巨大なレブカウンターは8000rpmまで刻まれ、スピードメーターは180マイル(289km/h)までの目盛りが付く。カーペットとパワーウインドウも当時のままだそうだ。
美しいクーペボディをスタートさせると、非常に状態の良いジャガーEタイプ並に速く、ドライビングフィールも近い。スポーツ・レーシングカーがベースだけにうるさいかと考えていたが、ロードノイズもエグゾーストも、グランドツアラーらしく程よく遮音されている。
撮影のために発信と停止を繰り返していたところ、水温が上昇してしまい、熱気がコクピットに流れてきた。ブレーキも頻繁に踏んでいると、少し緩くなった感覚があった。しかし、ステアリングフィールやハンドリングは期待通り。もし大きな自動車メーカーによって、少量でも量産されたのなら、間違いなく大きな話題を呼んだに違いない。
いま乗っても非常に速く、実用的なロードカーだ。ほかのクルマでは味わえないような、素晴らしい魅力に溢れている。それはストリームラインにも当てはまる。HWモータースは10年の活動期間に19台のクルマを生み出し、そのうち17台が残っているが、そのすべてが個性的で、同じものはない。
いま、このHWMというブランドを知っている人はほとんどいないはずだが、戦後の混迷した難しい時代に、モータースポーツへと果敢に挑戦したという歴史はしっかり残っている。彼らの成果は、それから半世紀近くも自動車産業大国として英国が繁栄をする、大切な大きな一歩となったことは明白だろう。
HWM社の歴史
HWM社の歴史を振り返ってみたい。括弧の数字は生産台数で、述べ19台のシャシーが製造されている。今回紹介したのは、1948年のストリームラインのレーサーと、最後のクーペとなる。
1948年:ストリームライナー(1)
1949年:オープンホイラー。オフセットしたコクピットに取外し可能なサイクルフェンダー付きで、スポーツカーとしても出場。マンクスカップでヒースが優勝している(1)
1950年:オフセット・シングルシーター3台の構成で6カ国を転戦。モスやマックリン、アベカシスなどがドライブ。フロンティア・グランプリで優勝したほか、モスはフォーミュラ1バリ・グランプリで3位に入賞する(4)
1951年:純粋なF2シングルシーターとして4台構成で欧州各国で26戦にエントリー。
1952年:シングルシーターを改良。モスがチームを離れ、コリンズが加わった。マックリンはシルバーストーン・インターナショナル・トロフィで優勝(4)
1953年:1952年のクルマを改良。1951年のF2シャシーに初めてジャガー製エンジンを搭載したクルマは、アベカシスのドライブで好成績を収める。
1954年:1952年と1953年のシャシーに手直しを加え、F1に参戦。その後ジャガー製のエンジンに載せ替えて、グッドウッドで売却された。1951年のシングルシーター用シャシーを流用し、さらに3台のスポーツカーを製造。
1955年:シリーズ2シャシーとして、小型で軽量なシャシーにジャガーのエンジンを搭載し、アベカシスがドライブ(1)
1956年:2台目のシリーズ2シャシーを製造するも、ミッレ・ミリアでクラッシュし、ヒースはこの世を去る(1)
1957年:フィル・スクラッグのためにジャガーエンジンのヒルクライム用レースカーを製造。クーペの製造も試行するが、量産化せず(2)
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