ロケットバニーとは異なるボックス形状のフェンダーで、R35を近代的に見せる
フロント片側50mm、リア片側90mm。ビス留めのオーバーフェンダーで拡幅された日産「GT-R(R35)」は、ロケットバニーを世界に広めたTRA京都のもうひとつのブランド、パンデムが仕立てた1台である。ロケバニとは違う直線的なフェンダー断面が、R35の見え方を大きく変えている。2017年に発刊された『Ultimate GT-R』の取材をもとに、デザインを手がける三浦 慶代表の言葉とともに紹介する。
見た瞬間フリーズ……R35GT-R化したスカイラインクロスオーバーの作り込みがヤバすぎる
(初出:『Ultimate GT-R』2017年発刊)
パンデムのR35 GT-Rはフロント片側50mm、リア片側90mmで拡幅する
取材で向き合ったのは、京都の自動車販売店であるステイブルカーズの協力を得て撮影したパンデム仕様のR35 GT-Rである。拡幅量はフロントが片側50mm、リアが片側90mmにおよび、ワイドトレッドのタイヤを余裕をもって呑み込む。足元にはドイツのKW製車高調でローダウンさせた車高に、同じくドイツのシュミット製3ピースホイールを収めていた。フラップ状のフロントリップ、フェンダーの張り出しに合わせて反り返るサイドステップと、装着されるアイテムはどれも存在感が強い。
フロントの開口部からはグレッディ製インタークーラーがのぞく。マフラーはスロベニア発のエキゾーストブランド、アクラポビッチ製で、R35 GT-Rが世界的なブームを迎えた時期のパーツ選びが色濃く出ている。リアには「巨大」という言葉が似合うウイングを装備し、トランクからブランドロゴを刻んだオリジナルステーで高く持ち上げ、後部のサブステーでしっかり固定する。想定している速度域がうかがえるあしらいである。
ロケットバニーとパンデムの違いはフェンダー断面の形状にある
2つのブランドを分けているのは、フェンダーの断面形状だ。当時ラスベガスのSEMAショーで披露した86によって一晩で世界的ブランドとなったロケットバニー(通称ロケバニ)は、ビス留め式のワークスフェンダーを現代に復活させた存在として知られている。パンデムも留め方は同じ手法を採るものの、ロケバニが巨大なアールで構築したフェンダー形状なのに対し、こちらはブリスターに限りなく近いボックスフェンダーで差別化を図った。往年のワークスフェンダーをさらに一歩進めた、アフターワークス的なスタイリングと言える。
結果として、ロケバニに引けを取らないインパクトと、フェンダー形状に由来する近代的なルックスが同居する。肉抜きしたレインフォースメントをモチーフにしたバンパー形状など、レーシングマシンを連想させるアレンジも各所に込められていた。TRA京都らしさを残しながら、パンデム独自の世界観をきちんと感じさせる造形である。
GTウイング仕様とダックテール仕様で、R35 GT-Rのリアビューは別物になる
パンデムのボディキットには、リアの表情を変える選択肢が用意されている。GTウイングを外し、往年の改造車を思わせるダックテールスタイルに変更した仕様は、跳ね上がったシルエットが懐かしくも斬新に映る。ローダウンしたスタイリングを強調する意味でも効き目があり、リアビューに塊感が生まれて別のクルマのようにも見えてくる。
先行して発表されたロケットバニーのGT-Rも並べて見ると、違いはさらにはっきりする。高い位置から滑らかにワイド化するフェンダーデザイン、サーキット指向をアピールするカナードと、世界中にファンを抱えるブランドらしい荒々しさが際立つ。ウイングとディフューザーを一体化させた造形も目を引くポイントである。
TRA京都の三浦 慶代表は3DスキャナーとCNCでエアロの原型を削り出す
取材の待ち合わせは午後1時だった。三浦氏をよく知る人なら「ちょっと早いんじゃない」と言うところで、その予想どおり、少し遅れて現れた。前夜の深酒が理由ではない。周囲が寝静まった時間帯にデザインをおこない、夜が明けてから就寝する生活を送る三浦氏にとって、午後1時は少しばかり早すぎる時刻だっただけである。
TRA京都のボディキット作りは独創的だ。スキャナーで車体寸法を読み取り、CGソフトを駆使してデザインを追い込み、最終的にCNC工作機器でポリエチレンブロックを削り出して原型を起こす。ハンドクラフトの真逆に位置する手法であり、アートのイメージとはかけ離れている。そのことを伝えると、答えははっきりしていた。
「ボディキットがアートなんて考えたこともない。いろんなレースのレギュレーションや、ブランドの決め事のなかで作る工業製品そのものですよ」
風貌や語り口からはアーティストを想像してしまうものの、その実像はリアリストであり、根っからのエンジニアである。三浦氏には“世界一エアロを作ったオトコ”という異名もある。
「それは間違いないと思う。R35 GT-Rだけで10モデルは作ったかな」
あえて名前は伏せるものの、どれも有名ブランドのGT-R用キットで、世に出ているR35用ボディキットの総数から逆算すると、10モデルという数字の突出ぶりがわかる。2017年の取材当時、ファクトリーの一角では、さまざまなサーキットをインストールしたドリフトシミュレーターの開発も進んでいた。挙動はリアルそのもので、エンジニアとしての取り組みがボディキット以外にも広がっている。
限られた条件のなかから独創的なスタイルを次々と生み出す姿勢こそが、パンデムとロケットバニーという2つのブランドを世界へ押し上げた原動力である。R35 GT-Rのグラマラスな肢体は、その仕事ぶりを最もわかりやすく物語る1台になっている。
■日産「GT-R(R35)」パンデム仕様 カスタムメニュー
エクステリア:パンデム・R35 GT-R ワイドボディキット(フロントリップ、サイドステップ、リアディフューザー、GTウイング、ワイドフェンダー) フェンダー拡幅量:片側フロント+50mm/片側リア+90mm ホイール:シュミット・3ピースホイール サスペンション:KW・車高調 インタークーラー:グレッディ エキゾースト:アクラポビッチ
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