仏ルノーが本国プレスサイトで、『新型カングー』の姿を公開した。日本でもカングーのイベントにたくさんのオーナーが集まるなど根強い人気があるが、そのポイントは可愛らしさと積載量にあると考えられる。
しかし、新型はこれまでの可愛らしさとは距離を置いたデザインを採用した。今回は、カングーがなぜ日本でこれほどの人気を獲得していたのか、そのワケを考察していきたい。
e-tron フィアット500 トゥーラン 8シリーズ!!! 輸入車限定モデル・特別仕様車・ニューモデル 最新情報
文/岡本幸一郎
写真/Renault
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■初代「カングー」は扱いやすいサイズがウケて、日本でも人気だった
日本ではあまりなじみがないが、ヨーロッパにはもともとこうした乗用車の前半と後半に箱型の荷室を組み合わせた、「フルゴネット」とか「MPV=マルチパーパスビークル」ろ呼ぶクルマが存在した。
その流れの一環で、1997年に本国で登場した『初代カングー』は、高い利便性と走行性能が評価され、一躍人気モデルとなった。
当初は商用モデルと乗用モデルの販売比率が拮抗していたところ、その実用車としての価値の高さに目が向けられるようになり、乗用モデルの販売が時間の経過とともに増し、販売される地域も拡大していった。
初代カングー。実用性の高さと扱いやすいボディサイズ。そして親しみやすいデザインで、日本でも大人気となった
ルノー・ジャポンによる正規輸入車が日本で発売されたのは、本国から4年後の2002年となるが、そのずっと前に、すでに世界でじわじわきていた頃から、並行輸入車が販売されていたと記憶している。
筆者が初めて初代カングーに触れたのも、まさしく正規輸入車が日本に上陸してまもない頃だったはずだ。初めて実車を目にしたときに、すでにアライアンス関係にあった日産の往年のパイクカーを想起して、こうしたクルマを好む人の多い日本でも売れそうだなと思ったものだ。
走りについては、初めてドライブしたときには、まあこんな感じかという印象だったが、その後のマイナーチェンジ後の個体に乗ったときに、操縦安定性やハンドリングのしっかり感などが増して全体的に格段によくなっていて驚いたように記憶している。
予想どおり日本でも人気を博したカングーは、一時期はルノー・ジャポンの販売の約半分を占めたこともあると、ちょっと大げさかもしれないが聞いたような気がする。人気のヒケツは、もちろんまずデザイン。とにかくこのデザイン。そして必要十分なユーティリティを備え、日本の小型車と大差ない価格で手に入れられることなど、当たり前のことばかりだ。
このデザインと手ごろなサイズがよかったというファンはいまだに多いようで、中古車を検索すると、初代の走行距離が少ない程度のよさそうな個体は、少しばかりプレミア相場といえる状況になっているのが見受けられる。やはりあのデザインこそカングーの人気の源泉に違いない。
■2代目は大型化したものの、好調な販売を維持。3代目も人気をキープできるか?
やがて2007年に本国で発売され、2009年より日本に導入された2代目は、基本的な路線は踏襲したものの、ボディサイズが大きくなり、全長はまだしも全幅が一気に約15cmもワイドになったことには戸惑ったファンも少なくなかったようだ。それは欧州規格の1200×800mmのパレットを積載できるようにするためというのが大きな理由で、加えて初代は5人乗車したときの居住性の向上を図るべく、室内空間の拡大を図るためでもあったようだ。
2代目(初期)。初代に対し、大幅なサイズUPにオーナーさんたちからは「デカングー」と呼ばれた。1.6Lエンジン+4ATの組み合わせで走りは平凡だが、カングーのキャラには合っており人気となった
それでも、初代が確立したイメージに牽引されてか、大きくなったりデザインテイストが変わったりしても、2代目もひきつづき人気を博した。
なお、プラットフォームは初代が小型車の『クリオ』(2代目/日本名「ルーテシア」)をベースとしていたところ、2代目は『メガーヌ』や『セニック』と同じCプラットフォームに変更された。むろん価格も上がるため、しばらく初代カングーが併売された地域も多くあった。
エンジンは同じ1.6Lのまま車体が一気に大きくなり重くなったことで、走りにも少なからずその影響は感じられなくなかったが、それよりも諸々の進化の恩恵は大きかったため人気が衰えることはなく、むしろ車内空間が広くなったことを好意的に受け取られたようだ。初代は5.2mだった最小回転半径が2代目は5.1mになり、小回りがきいて取り回しがよくなったこともありがたかった。
2010年には、ショートボディにサンルーフやリアのオープントップを組み合わせた、ユニークな「ビボップ」が発売された。さらには、より個性的にアレンジした特別仕様車が頻繁にリリースされた。その中にはカングーにとって日本市場は重要と認識するルノーがわざわざ日本限定で設定したものがいくつかあったことも印象的だ。
後期型はルノー車共通のフロントフェイスへ変更。1.2Lターボエンジン+DCTの採用で、走りにも好影響がでた。日本向けに設定されたグレード「ZEN」は禅に由来しており、日本での人気ぶりを示したものだ
2013年にフェイスリフトし、フロントのデザインが大きく変わった。これは当時のルノーの統一デザインの導入によるものだが、従来のテイストを惜しむ声も少なからず聞かれたものの、販売的には概ね順調な状態を維持した。
近年の日本における販売台数は以下のとおり。
2018年:2164台(内MT 273台)
2019年:2386台(内MT 237台)
2020年:2388台(内MT 178台)
ドイツ勢の多くに見られるように都市部で多いといったような地域による差もとくになく、人口密度に比例した販売分布を示しており、購入者は男性が6割強を占め、年齢別では45歳前後がもっとも多く、次いでそれよりも若い層が多くなっている。また、イメージどおり趣味やライフスタイルを大事にするユーザーが多いという。
本記事掲載時点ではモノグレードで、AT(DCT)とMTのみの違いとなっている。一時期は販売比率が約3割にも達していたのに事情により廃止され、ほどなく復活を熱望する声に応えて再販にいたったMTの販売比率が徐々に低下しているのが見て取れる。
理由としては、国産車からの乗り替えが増えてきたことや、エンジンを非力な1.6Lの自然吸気から1.2Lターボに換装し、トルコンATに替えて小気味良く走れるDCTを得た現在では、あえてMTを選ぶ必要性が薄れたことが考えられる。
2020年秋には、次期型カングーの姿が公開された。これまでとはガラリと変わったデザインテイストには賛否の声があるようで、ライバルであるプジョーの『リフター』やシトロエンの『ベルランゴ』などフランス製のライバルと比べても、むしろ精悍な印象を受けるほどだ。
2021年6月欧州で発売予定の3代目。丸みを帯びた先代にくらべるとかなりカクっと精悍になった感じだ。ただ全幅が1919mmとさらに拡大したことが日本での扱いやすさへの影響がないのか?
リアのトピックは、観音開きの2枚ドアが、跳ね上げ式の1枚ドアに変更されたこと。(バンには2枚ドアの設定あり)先代カングーまでの特徴だった2枚ドアがなくなったことに、賛否が分かれそうだ
これは最近のルノー車ではブランドアイデンティティを表現するため、フロントエンドやリアエンドのデザインを車種横断で共通イメージとするという方針によるもので、件の次期カングーもそれに則してCシェイプのライトやフロントグリルの形状とされていた。
たしかに、すでに日本に上陸した『ルーテシア』や『キャプチャー』も同様の手法を用いている。次期カングーの路線変更も、その流れからすると自然のことといえそうだが、はたしてどのように受け入れられるのだろうか、その動向に注目したい。
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