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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第15回

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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第15回

1980年代の大手メーカーには絶対に手の出せない領域だった“チューンドカー”=クルマ好きの眼鏡に叶う性能とデザインをもつユニークな少量生産車。しかもそのクルマは大手メーカーの協力を得て、車体はもちろんパーツに至るまで供給され量産も視野に入れる。つまり巷にあふれた違法改造車とは根本的に違う存在。購入後のアフターサービスも充実させる。これなら絶対に話題になる。富田はそう確信した。

ギャラリー:自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第15回STORIES OF A CAR GUYお客さんをもてなすために船遊びも行われたが、なんとこの日のために抜いてあった水を貯めてくれたのだという。船遊びだけでなく普段は使えないお茶室など、京都ならではの趣向が凝らされた発表会。もちろん多くのメディアが京都まで足を運んでくれた。当時、日産の人気モデルであったシルビアをベースにしたM18SI。電動リアウイングを備え、この日がお披露目だった。大覚寺でのイベント風景。写真左下に一部が書かれているように発表会の場所は「文化財保護指定区域」である。STORIES OF A CAR GUYしかも富田は「ハルトゲ・スカイライン」構想=輸出用の3リットル直6エンジン(RB30)ブロックに2リットルRB20DE用ツインカムヘッドを載せてNA(自然吸気)ながら230psを発揮するストレート6を積む、を上回るスペックを実現しようとした。そうして生まれたのが240psを発揮する“トミーカイラ・M30”だった。

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トミーカイラブランドを広める最大のチャンス。富田は大々的な発表会を企画し多くのマスコミに招待状を送った。すると間もなく運輸省からクレームが入った。招待状の文面に間違いがあって大阪支局の担当官が激怒しているというのだ。おそらくチューンドカーのお上公認という前代未聞の出来事に運輸省にもマスコミからの取材が入ったため分かったのだろう。

実は当時の運輸省のトミーカイラM30に対する判断は“認可”ではなくあくまでも“届け出”を受理したということだった。ところが招待状には認可されたとあったのだ。富田たちには“認可”と“届け出”の違いすら分からなかった。このままではまたしてもすべては水の泡となってしまう。しかも実現の寸前で……。

富田は役所の閉まる17時が過ぎていたにも関わらず一か八かで大阪支局に駆け込んだ。守衛をくどき落とし幸いにも在局していた担当官に取り次いでもらう。自らの無知を詫び、必死に話すこと半時間。何をどう話したのか富田にはほとんど記憶がない。けれども担当官の怒りは奇跡的に和らぎ、訂正文の見本まで作ってくれた。

富田に、そしてトミーカイラM30にも、運があったというわけだった。

大きなニュースとなったM30発表会ドイツのAMG本社を訪問してから7年が経っていた。ついに富田もアウトレヒト(AMG創業者)と同じ土俵に立つことになったのだ。

トミーカイラM30の発表会は日産アプリーテという荻窪にあった関連会社で行なわれた。そこのトップが富田と親しくしてくれていたからだった。本社への根回しも万全だった。日産の勢力圏で発表会を開催できたことが幸いし、テレビや新聞といった今までなら関心をもたないマスコミが富田のプロジェクトを好意的に報じてくれた。曰く、「改造車が市民権を得た」。運輸省と日産という大組織の“お墨付き”の効果はそれほどまでに絶大だったのだ。

クルマ専門メディアはさらに高く評価してくれた。「日本初の公認チューニングコンストラクター」というタイトルに、富田はやっとここまで来た、ひとつの夢が叶ったと素直に喜んだ。

トミーカイラM30の評判も上々だった。多くの専門メディアがテストを望んだ。当時の日産スカイラインは2リットルがメインで最上級グレードはターボ付きとはいえ190馬力だった。それにひきかえM30は自然吸気ながら3リットルエンジンが240馬力を叩き出す。パワーコントロールのしやすさ、シャシー性能の高さに熟練のレーシングドライバーも高い評価を与えている。

富田の目論みどおり、トミーカイラブランドが一躍、その名を馳せたのだった。

ギャラリー:自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第15回STORIES OF A CAR GUYお客さんをもてなすために船遊びも行われたが、なんとこの日のために抜いてあった水を貯めてくれたのだという。船遊びだけでなく普段は使えないお茶室など、京都ならではの趣向が凝らされた発表会。もちろん多くのメディアが京都まで足を運んでくれた。当時、日産の人気モデルであったシルビアをベースにしたM18SI。電動リアウイングを備え、この日がお披露目だった。大覚寺でのイベント風景。写真左下に一部が書かれているように発表会の場所は「文化財保護指定区域」である。STORIES OF A CAR GUY続いて開発されたシルビア、シーマ1980年代後半。日本はバブル経済のまっただ中にあった。日産にもたっぷり余力があった。セドリック・グロリアの上をいく3ナンバー専用の高級車まで登場し、「シーマ現象」を引き起こす。高級車ブームが到来した。

日産でシーマのマーケティング担当だった人物がトミーカイラ担当を兼ねていた。自然とシーマベースのトミーカイラプロジェクトも企画され、M30Cというチューニングカーが誕生する。エンジンパワーアップ(280馬力)に専用エアロパーツ、高価な本木目ダッシュパネル(オプション)などをおごった、AMGに対抗する高額なコンプリートカーだった。

当時、日産の人気モデルだったシルビアをベースにトミーカイラM18Si、18SiRというモデルも開発した。日産のスペシャリティカーや高級車が人気だったからこそ、トミーカイラの各モデルも話題になったと言っていい。

以降、マーチやプリメーラ、フェアレディZといった他の日産車をベースにしたトミーカイラモデルも続々登場したのだった。

熱意が結ばれて実現した京都大覚寺での披露東京で開催されたトミーカイラM30の発表会は大盛況だった。けれども富田にはやり残したことがあった。本当はトミーカイラの本拠地である京都に多くのメディアを呼びたいと思っていたのだった。

メディアが好意的に取り上げてくれさえすれば費用対効果は抜群であることを、富田はマハラジャや日産アプリーテといった過去のイベント主催で経験していた。日産アプリーテでのM30発表会は広告費換算で当時1.4億円近かったと日産関係者が教えてくれたという。

何とか京都に多くのメディアを呼べないものか。富田は考えた。わざわざ京都まで来てもらうためには今までにない趣向を凝らさなければならない。そこで思いついたのが、春の京都らしさを満喫してもらうという企画だった。

京都の春といえば桜。桜の咲き誇る有名な場所で、お茶や琴、着物、船遊び……そんなことをできる場所は大覚寺しかない。富田はそう思い込んだ。

旧嵯峨御所である。華道や茶道など文化事業ならいざ知らず、私企業のクルマを並べるイベントなどにそう易々と貸し出してもらえるような場所ではない。それでも富田は直談判に向かった。ダメ元などという軽い気持ちではない。絶対にやってもらうという覚悟で門を潜ったのだった。

多少のツテもあったので門前払いは免れた。けれども応対に出た渉外担当の僧侶は当然ながら100%断るつもりだったという。けれどもあまりに熱心に夢を語る富田にあろうことか根負けをしてしまった。どころか富田のプランである船遊びのために抜いてあった池に水まで入れてくれることになった。

M30やM30C、M18を並べた前代未聞の大覚寺イベントは、多数のメディアで賑わった。茶をたて、琴を奏でて、船を浮かべた。桜が咲き誇っていた。大盛況であった。

(次回予告)
日産スカイラインに始まった国産車ベースのチューニングカー事業は順調に成長を続けた。トミタ夢工場の事業構想もますます膨らんで、富田はいよいよオリジナルスポーツカー開発へと舵を切る。日本のバブル経済は崩壊したが富田の夢は決してはじけることはなかった。

文・西川 淳 編集・iconic

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みんなのコメント

2件
  • 当時トミーカイラZZとかジジーだから洒落でつけたらしいがあれから随分経つがいまどうなっているんだろう
  • 日本ではなぜAMGやハルトゲ、アルピナ、RUF等のコンプリートカーメーカーが出てこないのだろう。頭の固い役人のせいもあると思うけど。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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