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「F40」「ポルシェ959」「ディアブロ」よりも速かったジャガー「XJ220」とは? 実力の割には評価が低い不運のスーパーカーでした

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「F40」「ポルシェ959」「ディアブロ」よりも速かったジャガー「XJ220」とは? 実力の割には評価が低い不運のスーパーカーでした

ニュル最速をレコードした「XJ220」

 2022年8月後半、北米カリフォルニア州モントレー市内で開催されたRMサザビーズ「Monterey」オークションでは、昨2021年とまったく同じ組みあわせのジャガー製スーパーカー2台、「XJR-15」と「XJ220」が出品された。

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 今回はジャガーXJ220というクルマの成り立ちと、2年連続出品となった「Monterey」オークションの結果について、お話しさせていただくことにしよう。

コンセプトカーから移行したハイパーカー

 もともとジャガーXJ220は、コヴェントリーのジャガー技術チーム有志が、イタリアやドイツのライバルたちにも匹敵するデザイン、エンジニアリング、製造を行えることを証明するために、生産計画のない社内プロジェクトとして開発されたモデルだった。

 ところが1988年にバーミンガムで開催された「英国国際モーターショー」にて発表されるや否や、購入希望者が小切手を開いて待つという事態が続出。ジャガーは生産計画の見直しを余儀なくされた。

 XJ220コンセプトカーは、パワフルでエアロダイナミックな2シーター4輪駆動のクーペ。グループCマシン譲りのV12エンジンで、時速200マイル(約320km/h)を超える性能を持ち、ポルシェ959やフェラーリF40といった当時のスーパーカーを凌ぐ豪華さと快適さを備えるはずであった。

 このような超高級スーパーカーを少数生産する体制を持たなかったジャガーは、その生産をパートナーである「トム・ウォーキンショウ・レーシング(TWR)」に委ねる。そして、TWRとジャガーはプロトタイプの図面を検討し、車両全体のパフォーマンスを向上させるためにいくつかの変更を加えることで合意した。

 その中でも最も重要、そして後に命取りとなってしまったのは、1989年シーズン用の「ジャガーXJR-11」レースカーのためにTWRが設計した新型V6ツインターボエンジンを、この時代のジャガーの象徴たるV12エンジンに置き換えるという決断だった。

「JV6」と名付けられたオールアルミ製ツインターボV型6気筒の新型エンジンは、自然吸気V12を上回る542psを発生し、時速200マイルを超えるスピードを保証した。しかも小型・軽量化も果たしたこの新型エンジンは後輪のみを駆動。ジャガー・デザインのキース・ヘルフェットがデザインした、流麗なアルミニウム製ボディに収められた。

 のちにTWRが「アストンマーティンDB7」の生産拠点としても使用した、チェシャー州バンバリーのワイカム・ミル工場にて、1992年に生産が開始されたXJ220は、フェラーリF40やポルシェ959、ランボルギーニ・ディアブロよりも速い0-60マイル(約96km/h)発進加速データを得たほか、ニュルブルクリンクの市販車ラップレコードの新記録も樹立した。

 ところが1990年代初頭の不況と、プロトタイプと市販モデルの間に大きな違いがあったことから販売は振るわず、ワイカム・ミル工場からライン・オフしたXJ220は、当初の予定を下回る、300台弱に終わってしまったのだ。

タイムカプセルのごときXJ220とは?

 この最終型XJ220はジャガー本社に売れ残ってしまい、長らく密閉された保管庫に保管されたことから、結果として1990年代ジャガーのスーパーカーテクノロジーを物語るタイムカプセル的存在となった。それでもこのXJ220は、6カ月ごとにジャガーのエンジニアによって完全な整備と走行が行われ、長年の保管の間に数百マイルのマイレージが蓄積されたという。

 1999年末に「RMクラシックカー」がアメリカの顧客に新車として販売し、プロの手によってアメリカの排ガス規制に適合するように改造されたXJ220は、こののち18年を初代オーナーのもとで過ごすことになった。

 2017年に史上2人目となる現オーナーが購入したのち、このクルマは「XJ220マイスター」として知られる英国ニューカッスルの「ドン・ロウ・レーシング」に送られ、フルサービスが施された。

 ロウ社のスペシャリストが行った作業には、エンジンとトランスミッションを取り外してクラッチ、ベルト、フルードを交換することも含まれていた。また燃料タンクはインナーフォームパック、フルガスケットパック、オーバーブレードステンレススチール燃料ホースで構成されるレーシングセルに交換されたほか、ブレーキやエアコン、冷却システムも1万8000ドル近くも投じてアップグレードされている。

 さらに排気系は、ステンレス製の大口径エキゾーストシステム、および直管の触媒バイパスパイプを装着。さらに身長180cmのドライバーでも快適に乗れるよう、足元の改造も完了した。

 2021年には、再びエンジンを取り外して24カ月点検を行ったほか、外装にクリアプロテクションフィルムを貼り、運転席のシートボルスターを張り替えている。

「モンツァ・レッド」のボディに「サンド(砂色)」本革レザーという工場出荷時の配色で仕上げられたこの個体は、ジャガー本社が発売後にも保有し、のちに新車として販売した数台のXJ220のうちの1台であるというヒストリーも含めて良く知られている個体とのこと。またコンディションについても、XJ220のオリジナル状態を熟知したスペシャリストたちの手によって、正しく維持されているという。

「ハイパーカー一期生」としてはリーズナブル

 今回の「Monterey」オークション出品に際しては、マニュアルと記録簿、純正ツールキットにラグナットツール、スペアバルブ、オリジナルエグゾースト、ポリッシュリムとゴールドホイールセンターが付いた当時のBBSレーシングホイールのセカンドセット、新しいタイヤセット、工場から届けられたオリジナルのタイヤセット、密封されたオリジナルのファーストエイドキット(救急箱)も添えて納車されることになっていた。

 そして、RMサザビーズ北米本社および現オーナーは協議の上で、ハイリスク&ハイリターンの「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」とした。

 2021年出品されたXJ220は45万ドル~55万ドルのエスティメート(推定落札価格)に対して47万2500ドルで落札されたことから、2022年も同等かそれに近い額での落札を期待していたと思われるのだが、今回フタを開けてみれば2021年を大きく上回る56万6000ドル。日本円に換算すれば、約8090万円という大商いとなったのだ。

 それでもマクラーレンF1はもちろん、フェラーリF40やブガッティEB110、さらには身内のライバルで、今回も同時出品されたジャガーXJR-15など、当時ライバルと目された「ハイパーカー一期生」たちが軒並み億単位で取り引きされていることと比べてしまえば、依然としてリーズナブルともいえる。

 現状においても、ジャガーのクラブミーティングやスーパーカーの展示イベントなどで高い人気を得られるほか、今後は国際的なコンクール・デレガンスのエントリー対象になることも見込まれることもあって、国際マーケットにおけるジャガーXJ220には、まだまだポテンシャルを感じてしまうのである。

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みんなのコメント

15件
  • V12 が量産できなかったから仕方ない。
    予約は殺到したがV6ターボにしたらキャンセルが相次いだ。バブルも崩壊したし
    V6ターボでもパワーは同じだが、顧客はそんなどこでも手に入るEg なんていらない。
    ジャグァ製 V12 が全て
  • テールライトがマツダのカペラだったり、デフレンシャル未装着てリアシャフトが同軸なため小回りが不可能など、愛すべき異端なクルマだったのを記憶しています。

※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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