萩原利久＆河合優実は、異色のラブストーリーにどう挑んだのか？──映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』は4月25日公開

萩原利久と河合優実が初共演した映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が4月25日に公開される。トリッキーな仕掛けが施される異色のラブストーリーにどう挑んだのか？共演した二人が振り返る。

ファンダムを構築した「美しい彼」、カンヌ国際映画祭受賞作『ナミビアの砂漠』──。次代を担う俳優の1人として真っ先に名が挙がるであろう萩原利久と河合優実が、初共演を果たした。お笑いコンビ「ジャルジャル」の福徳秀介による恋愛小説を『勝手にふるえてろ』の大九明子監督が映画化した『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』（4月25日公開）である。

大学デビューとは程遠い灰色のキャンパスライフを送る小西（萩原利久）はある日、孤高の存在である桜田（河合優実）に心を奪われ、思い切って声をかけたことから意気投合。奇跡的な偶然が重なり急接近していくが、ある出来事が2人を襲い──。スタッフ陣の顔ぶれから察せる通り、「最後まで観ると印象が反転する」トリッキーな仕掛けが施されている本作に、2人はどう挑んだのか。まずは、互いに抱いていたイメージから紐解いてゆこう。

「河合さんには出演作のイメージからクールな人かな？と想像して、勝手に構えてしまっていました。実際にお話ししていると茶目っ気もあればどんな話題でも打ち返してくれて、フラットな感性を持つクレバーな俳優という風に印象が書き換わりました」

こう語る萩原は、「僕も出演作の雰囲気から無口な人という印象を持たれるのか、現場で『意外と喋るんだね』と驚かれることがあります。出会う前から一方的に先入観を持たれる俳優って、本当に不思議な職業だと改めて思いました」と続ける。

その言葉に河合は大きく頷き「私も“こういう人”という先入観を持たれやすいので、他者に対して先入観を持たないようになりました」とスタンスを明かした。そのうえで対面した萩原を「お芝居に対してとてもまじめで、誠実な俳優」と評する。

「本作にはある方向に一緒に向かっていくべき大変なシーンがあります。私の中にはプレッシャーがありましたが、萩原さんからも同じ緊張を感じてほっとしました」

萩原と河合は共に、泰然自若とした人物だ。「ドキドキ」「モグモグ」といった擬音をモノローグで挿入する大九監督ならではの演出をアフレコ時にそつなくこなし、ボリュームの多さ×方言というハードルの高いセリフもしっかりとものにした。後半のシーンを引き立たせる、ボディタッチなどの身体的な接触を禁じる演出上の“縛り”もすんなりと受け入れるなど、懐の深さを随所に発揮する。

「セリフ回しは確かに独特でしたが、大九さんの映画の世界観は“普通”の基準が他のものとは少し異なると思います。それをベースに考えて“こういう言葉遣いが登場人物たちにとっての日常なんだ”と捉えました」（河合）

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』はカット割りやテンポ感、カメラワークなど映像面でも独特な“繋ぎ”がなされており、オーソドックスな青春恋愛映画とは構造からして大きく異なる。

撮影時に完成形を把握するのは難しかったのではないか？と水を向けると、萩原は「大前提として、僕は普段から現場で画（モニター）を観ないようにしています。一度気になってしまうと集中力が削がれてしまいますし、“こう撮られる”を意識しすぎた結果、全部のプランが崩れてしまう可能性が出てくるからです。この作品は台本に撮り方も記載されていて、情報としてインプットしていました。これまでの自分だったらエラーを起こしそうなものなのに雑念が入らなかったのは、不思議です」と振り返る。

萩原の言葉に耳を傾けていた河合は「大九さんが脚本も手がけられているからではないでしょうか」と続けた。「脚本家さんが別にいらっしゃる場合は、基本的に撮影に関しては現場に預けてくれるので、具体的な手法については指示を入れないものですが、今回はどちらも大九さんだったため、画が見えている人ならではの台本だったように思います。演じるうえで、世界観を把握するサポートにもなりました」

ちなみに河合は、萩原と異なり「むしろ撮られ方を知っておきたいタイプ」だという。

「単純に映画をいち観客として観るのが好きなので“こうやってシーンを組み立てていくんだ、こうして映画が出来ていくんだ”というメイキングに対する探究心が大きいです。カメラが回るときにはただそこに存在する状態を作るため、こうした“外側”への意識をなくすようには努めています」

我々観客が目にするのは物語として整理されたものだが、撮影時に必ずしも順撮り（台本の順番通りに撮影していくこと）でスケジューリングされるわけではない。後半のシーンを初日に撮る場合もある。その逆も起こりうる中で、萩原と河合はどのように対処しているのだろう。

「僕は作品に入る前に、入口と出口だけは間違わないようにふんわりとした大枠を作って臨むようにしています。そのうえで細部を現場の様子を見ながら詰めていく形を取っていますが、今回は途中でその方法を辞めました。“自分の想像力だと明日現場でやることがイメージしきれない”という力不足を感じたことも一因ですが、その結果“1回全部捨てて、現場のその瞬間瞬間で新たに掴もう”という格段にオープンな状態で現場に臨むことができました」（萩原）

「私は紙を用意して、自分の登場シーンナンバーを抜き出してグラフのような波を作ります。“自分の役はAという状態からBという出来事が起きてCという状態に変わる”といったように全体を一度整理し、となるとこのシーンではこれくらいのバランスだろう、ということをまず読み解くイメージです。そのうえでそれぞれのシーンに撮影予定日を記入して、ある程度シミュレーションしてから撮影に臨みます。撮影中に見返すために作るというより、頭を一度クリアにするために必要な作業なんです。ただこれは映画だから出来るアプローチ。撮影前に脚本がそろっていないこともあるテレビドラマではなかなか通用せず、難しさを感じることもあります」（河合）

萩原と河合の回答で印象的なのは、自身がいま感じる課題感をしっかりと口にすることだ。臆さないから、止まらない。共にロジカルな思考を有し、まだまだ伸び盛りな両者は、次なる再会の際にどこまで進化しているのだろう。答え合わせの日を、楽しみに待ちたい。

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』出演：萩原利久、河合優実
公開日：4月25日
配給：日活
© 2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

萩原利久と河合優実によるラブストーリー。冴えない日々を送る大学生が同級生と急接近。運命を感じるも衝撃的な出来事が2人を襲う。お笑いコンビ「ジャルジャル」の福徳秀介の初小説を『勝手にふるえてろ』の大九明子監督・脚本で映画化。

萩原利久

俳優／1999年生まれ、埼玉県出身。近年の出演作は、ドラマ『美しい彼』、『降り積もれ孤独な死よ』、『リラの花咲くけものみち』、映画『朽ちないサクラ』など。北村匠海が企画・脚本・監督を務めた映画『世界征服やめた』も話題に。映画『花緑青が明ける日に』の公開を控えている。

河合優実

俳優／2000年生まれ、東京都出身。2021年公開の映画『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』の演技が高く評価され、各賞の新人賞を受賞。主演映画『あんのこと』『ナミビアの砂漠』では第98回キネマ旬報ベスト・テンなど、各賞の主演女優賞を受賞。現在、連続テレビ小説『あんぱん』が放送中。次回作に映画『ルノワール』（6月20日公開）がある。

写真・横山創大
文・SYO
編集・神谷 晃 AKIRA KAMIYA @GQ

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