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「革新の新技術」と謳われたのに“あと一歩…”だったエンジン列伝

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「革新の新技術」と謳われたのに“あと一歩…”だったエンジン列伝

 ハイブリッドやEV(電気自動車)がシェアを拡大しつつある現在でも伝統的な内燃エンジンが重要であるのはいうまでもない。そして、長い歴史を持つ内燃エンジンには最終的には”惜しい”結果に終わった機種もある。そんなエンジンを振り返ってみたい。

文/長谷川 敦、写真/アウディ、いすゞ、トヨタ、三菱自動車、写真AC、CarWp.com、Newspress UK

「革新の新技術」と謳われたのに“あと一歩…”だったエンジン列伝

【画像ギャラリー】それでも名機と呼びたい名エンジンたち(14枚)

夢の直噴エンジンも最初は試行錯誤

●GDIエンジン(三菱自動車)

三菱自動車が開発した直噴方式のGDIエンジン。直噴はディーゼルエンジンではポピュラーな技術で、GDIエンジンもディーゼルのノウハウを基に開発された

 内燃エンジンは、ガソリンなどの燃料と空気を混ぜ合わせて混合気を作り、この混合気を燃焼(爆発)させて動力を得る。

 従来のエンジンでは、ガソリンと空気を吸気ポート内で混合してからシリンダー(燃焼室)に送り込むが、直噴方式と呼ばれるエンジンでは、燃料を直接燃焼室に噴射して空気と混合→燃焼させる。

 ガソリンと空気は一定の割合で混ぜ合わせる必要があるが、燃費や環境のことを考慮すると、ガソリンの割合をできる限り薄くしたい。

 これを希薄燃焼と呼び、直噴エンジンにはこの希薄燃焼を行いやすいというメリットがある。

 1996年に三菱自動車が自社製乗用車への搭載を開始した直噴方式の「GDI(ガソリン・ダイレクト・インジェクション)エンジン」は、従来よりも希薄な混合気での燃焼を可能にしながら、十分な出力を発生し、低燃費も実現するという期待のユニットだった。

 バブル景気も終了して、世間の関心がエコに向かいつつあった時代に登場したGDIエンジンに対する注目度は高く、このエンジンを搭載したギャラン&レグナムは1996年の日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。

 だが、実際のGDIエンジンは期待ほどの燃費性能を発揮することができず、排気ガス内の窒素酸化物を規制するNOx法にも対応できないなどの難点もあった。

 初動こそ良かったものの、さまざまな弱点が露見してしまったGDIエンジンは、2007年にその生産を終えている。

●D-4エンジン(トヨタ)

トヨタ製直噴方式のD-4を採用した3G-FSE型エンジンを搭載するコロナ プレミオ。特別限定仕様モデルにD-4を搭載していたが、初代D-4は短命に終わった

 三菱自動車と並び、トヨタでも独自に直噴方式のエンジンを開発し、この直噴技術をトヨタでは「D-4(ダイレクト・インジェクション・4ストローク)」と命名した。

 D-4をとり入れたエンジンは、1996年末発売のコロナ プレミオ特別仕様車に搭載されて発売となるが、やはり排ガス規制に対応できず、最初のD-4は早期に販売が終了している。

 その後改良が続けられるが、初期の直噴方式のエンジンには、使用に従ってインテーク側にカーボンが溜まり、吸気の流れが阻害されるという弱点があった。

 トヨタも三菱自動車もこの問題を車体のリリース時には完全には把握しておらず、後になってエンジンの保証期間を延長することで対応している。

 それでもD-4の改良は続けられたものの、トヨタでは直噴とポート噴射を併用するD-4Sを別個に開発し、これが好結果を得られたことにより、主流はこのD-4Sへとシフトした。

ロータリーの先駆者はマツダじゃなかった!?

●ヴァンケル・ロータリーエンジン(NSU)

1967年に市販が開始されたドイツ・NSUのRo80。NUSが開発した2ロータータイプのロータリーエンジンを搭載していた

 一般的なレシプロエンジンはピストンの垂直運動を回転運動に変えてタイヤを駆動する。

 これに対してエンジン内部をローターが回転するロータリーエンジンは、運動の変換がないため振動が少ないことや排気量あたりのパワーが大きくなるなどのメリットがある。

 ロータリーエンジンの基本を完成させたのはドイツ人技術者のフェリクス・ヴァンケルで、時は1950年代。

 そして1957年にはドイツの自動車メーカー・NSUによって乗用車用ロータリーエンジンの試作品が誕生している。

 1964年にはNSUからロータリーエンジン搭載の市販車・ヴァンケルスパイダーが、そして1967年にはRo80もリリースされたが、このエンジンには多くの問題があった。

 特に耐久性の低さが致命的で、走行2万km程度でローターのシールが焼けてしまい、パワーダウンや燃費の極端な悪化を起こすケースが多かった。

 なかには保証期間内において9回ものエンジン交換を必要とした事例もあり、ロータリーをあきらめてフォード製のV4エンジンに変更するオーナーも少なくなかった。

 こうした経緯もあってNSUの経営は傾き、1969年にはアウディがNSUを吸収合併する。

 ロータリーエンジンを搭載するRo80の生産は1977年まで行われたが、後継車種を残すことなく、NSUブランド自体も消滅してしまった。

 しかし、ロータリーエンジンの可能性を信じた東洋工業(現マツダ)は、NSUとの技術提携を締結してロータリーエンジンの開発をスタートさせ、数多くの試行錯誤の末に、ついに量産型のロータリーエンジンを完成させた。

 現在でこそロータリーエンジンを動力に使用する市販車は存在しないが、マツダのロータリーエンジンが一世を風靡したのは間違いなく、それにはNSU製ロータリーエンジンという草分けがあったのも事実である。

冷却不要。とはならなかったセラミックエンジン

●セラミックエンジン(いすゞ)

1983年発売のいすゞ アスカ初代モデル。1985年には、このクルマにセラミックエンジンを搭載したコンセプトカーのセラミックアスカが公開されている

 内燃エンジンでは冷却が不可欠であり、ほとんどのエンジンは内部に冷却水を循環させてエンジンを冷やし、この冷却水は車体に装着されたラジエターで冷却される。

 内部での燃焼温度が2000℃にも達するエンジンでは、それを構成する金属部品が高熱で変形して、最悪の場合は溶けてしまう可能性もある。

 そこで冷却を行うのだが、エンジンの部品に高温にも強い素材を使用すれば、冷却に必要なパーツを減らすことができ、車体の軽量化やコストダウンを実現する。

 この理屈に基づいていすゞが研究開発を進めたのが、金属に替えてセラミックを使用するセラミックエンジンだ。

 セラミックエンジンの開発は1970年代にスタートしたといわれていて、当初は軍用車両に使用することを目的にしていたが、その開発は困難をきわめた。

 セラミック自体には高い熱耐性があるが、水冷、あるいは空冷システムを持たないセラミックエンジンは、シリンダー内部の温度を下げる手段がなく混合気を効率よく燃焼室に送り込むことができなかったのだ。

 この問題を解消する対策も行われたものの、セラミックエンジンを実用レベルに仕上げることはできなかった。

 現時点では、自動車用エンジンの革命になる可能性もあったセラミックエンジンが復活する可能性はあまり望めない。

【画像ギャラリー】それでも名機と呼びたい名エンジンたち(14枚)

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文:ベストカーWeb ベストカーWeb
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