いやー、速かった。そして強かった。約2ヶ月のインターバルをへて行われたスーパーフォーミュラ第5戦で、野尻智紀(32・無限)がポールトゥウインで今季3勝目をマーク。
ホンダエンジンにとって'17年以来となるツインリンクもてぎでの勝利で、野尻とチームは今季の全日本タイトルに王手をかけた。
歴史的快挙に注目せよ!! ル・マンに挑んだ青木拓磨という生き方
文/段 純恵、写真/HONDA
【画像ギャラリー】もてぎでのホンダエンジン勝利は2017年以来!! スーパーフォーミュラ第5戦は野尻智紀が勝利
■チーム全体の『勝ちたい気持ち』がドライバーを押し上げる
ポールトゥウインで今季3勝目をマークした野尻智紀。第5戦の全セッションでトップとなる完全優勝だ
予選後、気温やコースに関係のない速さの理由を質問された野尻は、「なぜ調子が良いのか(自分でも)わからない」と神妙な面持ちで答えていた。
もし野尻がその『コツ』や『秘訣』を公の場で話し、それを他のドライバーやチームがそっくり真似したところで、参考にはできても野尻の走りを再現できるわけじゃない。それよりも、
「今回はチームメンバーの入れ替わりがあり、連携する上で難しい部分があったと思うが、いつもと変わりのないクルマで、他の部分でもしっかりと連携を取れていた。改めてTEAM MUGENの強さを感じた週末だった」
と優勝会見の冒頭で話したことこそ、いまの野尻の強さを支える核心ではないかと思う。
どんなに速くてミスのないドライバーであっても、ドライバーひとりの力でレースに勝てるわけではない。ル・マン24時間などの耐久レースでチームの総合力が不可欠かつ結果を左右する重要なファクターであることは広く認識されているが、それはスプリントのフォーミュラレースでも同じだ。
チームの総合力とは何か。いろいろ揃えるべきものは多いが、根本的にチームのひとりひとりがどれだけ勝利を意識し、そのために自ら行動を起こすかどうかだろう。
勝ちたいのは誰でも同じだ。ドライバーも、エンジニアはじめチームのスタッフもみんな勝利を求めている。だが、勝つために自分の役割やできることは何かを考え、そのひとつひとつに取り組んでいます、実践しています、と言える人がどれくらいいるだろうか。
■ピットでのタイヤ交換練習を見かけない!? スーパーフォミュラの不思議
ドライバーがコンマ一秒でも速く走ろうとするのと同じように、メカニックたちもタイヤ交換作業をコンマ一秒でも早く終えるために日々練習と研究を重ねる
一昨年から本格的にスーパーフォーミュラを取材するようになって以来、不思議に思っていることがいくつかあるが、そのひとつが、タイヤ交換の練習をしているチームをサーキットで見かけないことだ。
F1やWECまたインディカーで、予選が終わったあとの夕方などに多くのチームがタイヤ交換の練習をしている光景を見たことがある読者もいるだろう。
ピットに入ったマシンをコンマ1秒でも速くコースに戻すため、各車担当のメカニックたちが、ランキング上位のチームになるほど、何度も何度もタイヤ交換の練習をするのは、決勝にむけた手順のひとつであり戦いの序章ともいえる。
そりゃもう皆さん身体のゴツい方々で手も大きいから、ホイールの真ん中を片手でガスっとつかんでタイヤを外し、反対の手でヒョイッと掴んだ新しいタイヤをマシンにガシっと填め込む。
レーシングマシンのタイヤは見た目より軽い(5kgほど)けれど、一連の動きをスムースにこなすにはやはり練習は必要だしその動きを可能にする身体づくりも大切だ。それが彼らの『仕事』であり、その仕事を毎戦寸分違わず完璧にやり遂げることが彼らの『誇り』でもある。
決勝での彼らの迅速にして流れるような動きは、自分の仕事に真摯に取り組むプロフェッショナルそのもので、そのカッコ良さったらない。
■チームがドライバーを動かし、ドライバーがチームを動かす
チームの頑張りはドライバーに実力を超えた力を与える。野尻の『自分でもわからない』速さの秘密は野尻を含めたチーム全体の力にあるのかもしれない
さてスーパーフォーミュラである。筆者が見ていないだけで、どのチームでもタイヤ交換の練習は週末のサーキットのどこかの時間でやっているのだと思う。
思うのだが、決勝中のタイヤ交換でタイムをロスし、1000分の1秒をコース上で削ってきたドライバーの努力を吹き飛ばしてしまうシーンを過去2年あまりで何度眼にしたことか。
ヘタすれば毎戦どこかのチームで起きているといっても過言でないことを考えると、ナットに不具合があるのか、それともタイヤ交換の練習不足なのかどっちなんだ? と考えたくもなる。
今回の場合、それが野尻のタイトル獲得に待ったをかける可能性を持ったドライバーのピット作業で起こり、手に汗握る接戦の決着がそんな形でついてしまったのだから、もうレースへの興味もタイトル争いへの期待もいっきにしぼんでしまった。
後日、話を聞いたあるチーム関係者によると、タイヤ交換の練習を過分に繰り返すと、本番での体力が懸念されるメカニックがけっこういるのだという。それだけタイヤ交換の作業は緊張感をともなう重労働ということなのだが、いや、それにしても、それはちょっと情けなくないか?
ドライバーは、特に上を目指すドライバーになるほど、レース=仕事でミスなく力を十分に発揮できるように、食事を含めた生活習慣を整え、体調を管理し、専門家によるプログラムに沿ったトレーニングで身体を鍛え、自身を律している。
彼らの走りを裏で支えるスタッフにそこまでする必要があるのかどうか、それは一人一人が考えるべきことだろう。誰かにやれと言われてできることではないし、そもそも自分でやると決めたことしか人はやらないものだ。
野尻の今季の強さはチーム全員の力なしにはありえない。逆にチームの気持ちを一つの方向に動かしているのは、おそらくは野尻の仕事=レースに取り組む真っ直ぐな姿勢なのだと思う。
【画像ギャラリー】もてぎでのホンダエンジン勝利は2017年以来!! スーパーフォーミュラ第5戦は野尻智紀が勝利
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